25 救出
「おいおい動くなよ! 動くと当たらねぇだろ!」
「ギャハハハハ!」
下卑た笑い声が廃病院前の広場に木霊しており、焚火に照らされて二人の少年が縄で縛られて椅子に座らされているのが見える。今のところ二人は懸命に身じろぎして飛んでくるナイフから避けているが、それも時間の問題だろう。殴られたであろう負傷の跡があちこちに見られて痛々しい。恐怖に慄いて鳴き声を上げようにもその口には猿轡がされている。
「それにしても出て行った奴ら遅くないか?」
「知らねぇよ、大方リンチか盗むのに忙しいんじゃねぇの? そういやあいつには妹もいたよな」
「うー! うー!」
「うるせえ! 的は黙ってろ!」
「うっ……」
マイケルが声を出してしまい、男に殴られている。オリバーが瞬間的に飛び出そうとしているのを慌てて止めて確認する。
「おい、まだだ。あの中にビルはいるのか」
「暗くて奥が良く見えないが、声はしない。でも早くしないとあいつらが!」
「わかってる。仕方ない、じゃあ例のスタングレネード作戦で行くからオリバーは二人の救出と介抱を頼む。レイラとフェルは遊撃で、なるべく殺さないでね」
「果してそのような配慮が必要でしょうか」
「頼むよ、一応でいいから。僕はここで狙撃する」
「決して前には出ないでくださいませ。多少動けるようにはなったようですが、まだまだですので」
「了解。じゃあ作戦開始だ!」
僕がグレネードを投げるとなんだこれと見ていたギャング達の前でピカッと閃光が弾け、さっき見た光景が繰り返された。
「おえええ……」
「目が回る」
案の定ギャング達を含めてマイケルとブランドもふらふらになっているが、座っているから問題ないな! じゃあみんなよろしく!
「な、なんだてめぇら! ぎっ!」
「ガルルルル!」
「ひっ! 犬もいやがる! うわああああ!」
レイラが走って行って火かき棒を振り回すと次々と男達が倒れていき、フェルは魔法の風弾を使ってすっ転ばしたり逃げようとする輩の足に噛みついたりしていた。
「オリバー、早く!」
「お、おう!」
僕は隠れながら残りの敵にビシビシクラフトした石の弾をくれてやっている。この弾には命中度上昇の付与効果があるのでほんとによく当たる。卑怯とは言うまいな、こちとらお子様なのでな。
「オリバー? お前、死んだんじゃ」
「お迎えが来たのかな……」
「バカ野郎そんなんじゃねぇ! 今ロープ切ってやるから逃げるぞ!」
「でも、どうやって」
「アルのお蔭だ。あいつは色んな意味でヤバいが今はそれどころじゃねぇ! しゃんとしろおら!」
「うぐ、気持ち悪い」
元から意識がもうろうとしていたから余計に信じられなかったんだろうが、オリバーが神の使いに見えたのかもしれない。残念ながら僕達は天使じゃないしその吐き気は本物だ。命あるからこそ痛みを感じるんだぞ、その喜びを噛みしめたまえ。
なんて余裕かまして遠くからみんなの活躍を眺めていると、急に銃声がした。咄嗟にみなに隠れるように指示をする。
「お前らどこのもんだ! なにしに来やがった!」
最初は姿が見えなかったが、廃病院の二階に朧気ながら銃を構える男の姿が見て取れた。恐らくはあれがビルなんだろう。
「なにしに来たとはのん気だな! お礼参りに来たんだよ!」
「なにぃ⁉ あいつらはどうした!」
「お前の使えないお友達なら僕の家で寝てるぜ!」
「畜生! ふざけやがって! 姿を見せやがれ!」
ビルが銃を乱射してきたので身をかがめつつ煽り、手でオリバーに二人の避難を急がせる。当然スリングショットによるけん制も忘れない。当たりはしないだろうが普通の銃弾より威力があるのでビビるだろう。自分の手下達が打ちのめされているのも無視して銃を撃っているので、気をそらす必要がある。仲間意識とかないのかこいつは。
『マスター、相手が使っているのはどうやらリボルバー拳銃のようです。ですのでリロードのタイミングで狙い撃つべきかと』
「OKなるほど。じゃあカウントよろしく」
『三、四……六! 今です!』
「うおおお食らえ!」
一気に身を乗り出して射線の前に出ると溜めていたフルチャージ三の弾を銃目掛けて放つ! 伸びたゴムが一気に伸縮してクラフト精製弾があやまたずビルの持つリボルバーピストルに当たると派手な音がして奴の銃を破壊することに成功した。ビルは衝撃の余波で右手を負傷しており、戦闘の継続は不可能なように思えた。
「くそっ痛てぇ! 痛てぇじゃねぇかこの野郎! あぁなんでこの俺がこんな酷い目に!」
廃病院のエントランス上の空間で喚くビルはどこまでも自分のことしか頭にないようだ。
「お前はもうここまでだ! 降りてこいビル! 投降すれば命だけは助けてやる!」
「なんだと? お前のようなガキになにがわかる! せっかく今まで築き上げてきた俺の王国を潰しやがって!」
「なにが俺の王国だバカ野郎! そんなもの不正と暴力で作られた幻でしかない! 人を脅して殺しては奪いってきたなれの果てだ! この現状はお前自身の行いがお前を追い詰めたのだ! なぜそれがわからない!」
「うるせぇ! 俺に指図するな! 黙れぇぇぇ!」
悲鳴に似た叫びが闇夜に響いたが僕に同情する気はなかった。ビルとしても過酷な環境で闇社会で成り上がるしかなかったのかも知れないが、そのせいで泣いている人が大勢存在しているのだ。この国の司法がどれくらい生きているのかはわからないが、きちんと罪を償うべきだろう。
どれだけ喚こうがもうあいつにできることはないと僕達は考えていた。でもそれは間違いだったんだ。ビルはどこからか注射器を取り出すと、躊躇せずに己の腕に突き立てた。
「はぁ、はぁ。俺はこんなところで終わる男じゃねぇ! お前ら全員ぶっ殺してやる!」
良い人間のあり方について論ずるのはもういい加減切り上げて、良い人間になったらどうだ
マルクス・アウレリウス「自省録」




