21 尾行
「ねぇアル君、さっきの子達はストリートギャングよね。それにビルって聞こえたけど」
「うん、ハンナさんは知ってるの?」
「ここいらじゃ知らない人はいないわ。少年ギャング達の親玉で、一日で千ポンド稼いだこともあるっていう噂よ。まだ若いのに悪いことをするのになんのためらいもないって聞くわ。彼とことを構えるつもりなの?」
「大丈夫ですよ。まだ正面切って敵対すると決まった訳じゃないし、まずは情報を集めないとね。それにもしものことがあっても二人のことはウィリアム様に頼むつもりだから心配しないで」
「私はあなたの心配をしているのよ。アル君は凄いわ、まだ子供なのに誰よりも賢くて誰も持てないスキルで誰にもできないことを平気でやってのける。でもね、君だって無敵ではないはずよ。私やローナを含めてアル君はいなくてはならない人にもうなっているの。くれぐれも無茶しないでね」
ハンナさんは悲しそうにそう言うと、優しくハグをしてくれた。僕はあいまいな笑顔を浮かべて、いやそんな深刻じゃ感じじゃないですよーとふかしながら、お出かけの準備を整えて出発するが、案の定フェルとレイラに見咎められることとなった。
「それで? 一人でどこへ行こうというのですか?」
「バウワウ!」
「敵を知り己を知らば百戦すといえどもこれ危うからずと言うじゃないか、敵情視察は重要だよ。なお今回の潜入には二人は連れていけないよ。ストリートギャング団潜入ミッションに大人のメイドと大型犬じゃ目立ちすぎるからね。いざという時はクラフトアイテムもあるし大丈夫だよ、じゃあ行ってきます!」
「いってくるにゃ!」
「……お母さん、ミーナをお願い」
「ああああにゃんでにゃぁぁぁぁ! ミーナもいくーーー!」
暴れるにゃんこをフェルに押し付けてダッシュで家を出ると、急いでボロボロの服に着替えた。これで僕もいっぱしのストリートギャングだな。
オリバー達の居場所には見当が付いている。クラフトしておいた居場所君をこっそりオリバーのズボンに付けておいたからだ。現状僕にしかわからない仕様ながら完璧に居場所が脳内地図に反映されて手に取るように把握できる。しかもアンサーによる丁寧なナビ付きだ。
『マスター、その次の角を左に曲がると大通りに出て移動中の彼らに合流できます』
「了解!」
僕はステルスバッジをインベントリから取り出して身に着けると、大衆の流れに沿って歩き出した。ステルスバッジはその名の如くに使用者の存在感を薄くして周りから認知されにくくなる認識阻害アイテムだ。といっても完全にバレなくなる訳ではなくて、あくまで気が付きにくくなる程度だが、尾行素人の僕にはあるだけでも大変助かる。
それにしてもひどい煙と匂いだ。煙は工場が無限に垂れ流す有害物質を含んだもので、煙いと共にずっと吸い込んでいると当然毒になる。匂いは糞尿の類だろう。取り決められた廃棄場所に持っていく市民もいるにはいるそうだが、中世から続く習慣で道の端に溜まったブツを放置する輩がまだ多く、それらは当然テムス川に流れて蓄積していく。そら汚染されるわけだ。しかもボス級のモンスターを潜ませる魔境と化している。
ロンネルに来た当初からこの匂いには耐えられないと思ったので、マスクバッジはいち早く作ってある。ここでの生活には手放せないアイテムだ。
今のブリスデンは魔法科学発展途中であると共に、地球の歴史とは違って多くの支配地を失っている。海外の植民地はもちろんのこと、スコットランドに当たるスコッツランドもモンスターの大進行により奪われている状況だ。政府は失地を回復せんと躍起になっているが、今のところ効果は出ていない。僕の故郷もスコッツランド北部のハイランドにあるので、いつかなんとかしたいが、それもおいおいだな。
オリバー達三人組を付けていくと、ほどなく競馬場へと辿り着いた。そこは大勢の大人達でごった返しており、勝った負けたで大騒ぎしている。この辺はいつの時代もそう変わらんなと思う。
勝負に熱狂している大人達を尻目に次々と後ろポケットから財布を抜き出しては、すれ違いざまに仲間へと渡している。これは万が一自分が捕まっても濡れ衣だと言い訳するためだろう。ちゃんと考えられているな。
それにしても自分の存在が希薄になっているからガンガン大人がぶつかって来て大変だ。ステルスバッジの効き目がありすぎて辛い。なるべく人の少ない所を歩こう。
しばらくすると今日のノルマが終わったのか、競馬場から出て近くの広場で食事をするようだ。これ幸いと僕はステルスバッジをしまって接近する。
「やぁ君達、今日はいい天気だね。おっとそう警戒しなくてもいいじゃないか、食事をするなら僕も混ぜてほしいな、提供できるものもあるしね」
僕はさっとほくほく湯気を上げるジャガイモ三つをインベントリから取り出して塩をかけた。ごくりと少年達の喉が鳴る。僕のインベントリは熱々の状態のまま保存できるので、急な食事の用意も簡単だ。これだけでもえらいチートだ。
オリバー以外の二人、マイケルとブランドはどうしようかとオリバーを見るが、進んでオリバーが手を出したことで二人も受け取って食べ始めた。
「すげぇ、今作ったみたいにあったかいぞこれ!」
「しかもちゃんと塩の味がする! んぐっ! ごほごほっ!」
「あぁちょっと待って、ほら水だよ」
「ありがとう……! なんだこの水、透き通っていて凄くうまい」
「なんだって!」
「あぁよかったら二人もどうぞ、アルフォンスの美味しい水だ。最近うちに来る人達にも好評なんだよ」
臭気の問題と同じくらいなんとかせんといかんと思ったのは水で、汚染されまくりの地下水はおろか、テムス川の水なんかはそのまま使えたものではないので、雨水や汚染水を収納してからインベントリ機能により汚染物質を除去し、良質な状態で大量に保存しているのが僕が普段使いしているこの水だ。人呼んでアルフォンスの美味しい水。
炊き出しと同時に水も配るようになったら、持ってきた容器にも入れてほしいと言う人が現れて、これも毎朝の恒例行事になっている。これが知らない間に人助けになっており、自然とクエスト達成扱いとなっていつの間にか僕のLVは六になっていた。今では一人に対して一リットルの水を配給することができており、凄く感謝されている。
水は汚染されているからせめて煮沸したものを使ってほしいと言っても、面倒だし煮沸するための薪だって都会では手に入りにくい。配給は苦肉の策だったが、目に見えてお腹の調子が良くなったと言う人もおり、いつの間にかブランド化してしまった状況にある。もうちょっと他に名前はなかったんかと思うが、まぁわかりやすいからヨシ。
コップと一緒に出してあげたら速攻で飲み干したのでお代わりをしてあげたら、またすぐに飲み干した。きみらはあれか。砂漠に漂流でもしてたんか。
喉が潤ったかと思えば次はバクバクとジャガイモを食べ始めたので、これもお代わりを差し出した。うーん話を聞くにはもう少し時間がかかりそうだな。
名前:ステルスバッジ*
効果:認識阻害(小) 消音効果(小)
価値: ☆☆
装着すると周囲の人間から認識されにくくなる。効果が(小)でも一般大衆には十分見つかりにくい。
名前:マスクバッジ*
効果:毒物吸引除去(小)
価値: ☆☆
ロンネルに来たアルが、こいつはヤバいと思いすぐに作ったバッジ。あらゆる有害物質の吸入を防ぐ。見えないけれどフェルやレイラ、ミーナも装着している。
名前:アルフォンスの美味しい水*
効果:クラフト精製水
価値: ☆
アルがインベントリに収納し、クラフト機能を使って分離、精製した人体に無害な水。別段それ以上の効果はないが、周囲の人々が普段使っている汚染水に比べてあまりにも優れているので、いつしかアルフォンスの美味しい水と呼ばれている。




