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2 異世界での日々




 転生した異世界は意外にも発展していた。


 世界観は産業革命期のイギリスに似ていて共通の文言も多いが、ここではメートル法が国際基準としてすでに常用されている。ヤーポン法なんてなかったんや!


 違うところは他にもあり、いわゆる魔法科学が発展しており、産業革命時の蒸気機関に代わるように魔石や魔力による技術革新が日夜更新されていた。


 僕がこの世に生を受けて前世の意識がはっきりしだしてきたのは三歳頃からであり、そこそこ大きい田舎貴族の一人っ子としてすくすく育ってきた。


 だがすでに生まれ故郷は五歳の頃にモンスターのスタンピードによって消滅しており、自分以外の親身になって育ててくれていた父やメイドといった愛しい人々はみな亡くなってしまった。


 父親は僕や領民を逃がすために討ち死にしており、母親の方は前から行方不明で手がかりもない。事情を知ろうにも真実を知っている当事者達はもうこの世にはいないし、今となってはわりとどうでもよかったりする。


 それというのも、現状が生きていくだけでいっぱいいっぱいだからだ!


 家を捨てて逃げ出してからというもの、以前から付き従ってきてくれた謎のメイドのレイラと、これまた謎の白狼のフェルと一緒にブリスデン王国の首都、ロンネルの外れも外れのスラム街のあばら家を修理してなんとか暮らしている。

 

 普通幼少期にこんな悲劇に遭遇すれば、精神的ショックからひきこもるなり立ち直れないものだろうが、なにせ食べるものがないし日々の生活に困っている最中だ。


 いるのは戦闘力はあるけれどいまいち常識のないメイドと大食らいなワンコなので、自分のスキルを最大限に活かして生活していかなければいけない。


 そう、この世界にはスキルがあるのだ。


 厳密には魔法もスキルに該当するらしく、生まれもってのものだったり、努力して覚えるものだったりと様々だが、神話的にはモンスターに対する神の恩恵らしい。


 あのホワイトボードの文字がその神様なのかはわからないけれど使えるものはありがたく使わせてもらうとして、現在僕の生活を支えてくれている三大スキルが、鑑定、収納、クラフトだ。


 収納は手に触れた物質が異空間に収まるスキルで生き物は対象外だ。クラフトは素材を集めれば内在魔力を使用して便利な道具類を生み出せるスキルで、一発逆転の可能性を秘めている。そして鑑定なんだけれど、沢山あるラノベに出てくる鑑定能力の中でも僕のものは変わっている。


『変わっているとは失礼ですね。おはようございますマスター、今日も絶好の労働日和ですね』


 そうなんだ、自分の意思を持って直接脳内にしゃべりかけてくるのだ。幸いこちらも心の中で応答すれば通じるから良いようなものの、口に出して返事をしているところを人に見られると、ヤバい奴と思われてしまう……というかすでにこの辺りで僕達は十分浮いている。


「おはようアンサー、まだ七歳なのに児童労働はつらいよまったく」


「アル様、また脳内に巣くう不埒な輩と話しているのですか? 不審者と思われますよ」


「おはようレイラ、相変わらず毒舌だね」


「ガウガウガウ!」


「フェルもおはよう、今日ももふもふだね、よしよし」


「アル様、犬畜生と戯れてないで朝食の予定を消化してくださいませ」


「ガウワウ!」


『フェルが犬って言うなこのあばずれ! と暴力女に申しております』


「う~ん仲がいいね君達……」


「さて、どこがでしょうか。アル様の認識は歪んでいるようですね、修正が必要です」


「ただの皮肉だから大丈夫だよレイラ、じゃ朝食にしよう」


「はい、すでに用意はできております」


 促されて座った食卓にはふかしたジャガイモが一つと水が入ったマグカップがあるだけだった。恵まれていた日本での生活を思い起こすとわびしくて朝から涙が出そうになってくる。


「あの……なんていうかこう、もう少し手心というか」


「アル様が稼いだ分をごくつぶしに分け与えているからこうなるのです」


「いやね、この身が幼くとも紳士としては見過ごせはしないんだよ」


「やせ我慢でお腹は膨れませんよ、もう貴族の身分ではないのですから意地を張るのはやめたらいかがですか?」


「自分にとって紳士とは身分じゃなくて生き様だよ、こればかりは捨てられないね」


「にゃあ」


「おや起きたのかい、レイラ、ジャガイモの残りは?」


「それで最後です」


「むぅしかたない、こっちへおいで、半分こしよう」


「あい」


「はぁ、ただでさえ生活苦なのに野良猫の面倒を見るとは、いかがなものでしょうか」


「そう言うなって、ほらお食べ。美味しいかい?」


「あむ……味しない!」


「あははは、だよねぇ」


 いくら魔法科学が発展しようとしているとはいえ、今はまだ途上であるので庶民間での塩の購入は難しい。だから自然とこうなってしまう。


 ちなみに僕の膝上に上がって来てあむあむと咀嚼するこのちびっこは、最近この家に居ついている猫獣人のミーナだ。年の頃は二、三歳で、どうやら身寄りはないらしい。


 現在レイラが一人で主な収入源の魔石を稼いではいるものの、魔石は古代文明の遺産である人造人間レイラ自身の主なエネルギー源になっているし、僕自身は積極的に働きに出ることを禁止されているので、生活は苦しい。


 あれ、これ詰んでないかな?

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