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18 数日後の日々




 あれから数日経ったが、僕の小さな事業はそこそこ順調と言える。


 街角に立たなくてよくなったハンナさんはここにいて家事手伝いや朝の炊き出し、ゴミの買取を手伝ってもらっている。ハンナさんはすっかり回復して明るくなり、親子そろって健康的になってきた。こうして見るとハンナさんもローナも美人さんなのがよくわかる。


 ゴミの売買についてはアンサーに勧められてクラフトでその名もゴミ買取君を開発した。まぁその名前の通りの性能なんだが、買取君に乗せたゴミを瞬時に僕の共通インベントリにぶち込んで有害な成分は消去して分類してくれた上に値段まで付けてくれる優れものだ。なんというか想像を超える使いやすさで大助かりだ。


 最近始めた朝の炊き出しも好評だ。貧困児童のみならず浮浪者やご年配の方々にも利用されている。それに付随してゴミの買取量も増えている。


 炊き出しの原材料は商店で出た余りや食材の切れ端、剥いた皮、残飯なんかでたとえ腐っていても大丈夫。ひとたび僕のインベントリにぶち込めばあっちゅーまに使えるベジタブルブロックやシートなんかに早変わりして有害な要素はきれいに消去され、残りは腐葉土などの肥料になる。


 ウィリアム商会との付き合いができたおかげでこの辺のサイクルが実にスムーズに運んでいる。どこの馬の骨とも知らん奴が余り物くださいと言っても不審がられるだけだからマジ助かる。


 提供しているのはほぼ原価ゼロのクラフト野菜で、刻んだものを水と一緒に寸胴に入れて火にかけ、適当に塩を入れれば完成だ。調理器具の付与効果もあって、栄養満点で消化が良く疲労回復に加え自己免疫力を高める効果など、これでもかというくらいに盛り込んでいる。自分でいうのもなんだが、素朴ながらかなり美味い。毎朝のことなのでもう慣れたが、結構な人数が感動して遠吠えしている。犬系獣人の習性なのか知らんが、迷惑なので控えてもらいたいもんだ。一人吠えると連鎖するし。


 やろうと思えば首都ロンネルの食糧事情を一手に握れるだろうが、そんなことをするつもりもないので競合しないように気を付けている。お金を取っているわけでもないし、配っている相手は壁の外にいるスラム街の住人達だ。お役人の目には付かないだろうし咎められないだろう。


 あと水も配っている。ここの水は衛生的にかなりヤバい。ここいらの住民は主に地下水をポンプで汲み上げて使用しているが、長い年月都市の住民達がテムス川に糞尿やらなにやらを全部ぶん投げているので、バチクソに土壌汚染されているから赤痢やコレラの原因となっている。なんだがこれが異世界クオリティなのかなんなのか、獣人連中の優れた体力や自己免疫力で健康被害に抗いながら毎日の激務に耐えているという状況だ。


 大人ならばまだ良いが、子供、それも新生児ならばまず耐えられない。赤子の死亡率が高いのは未成熟な医療に加えてやはり環境が悪いからだろう。せめて飲み水は一度煮沸してから使ってほしいが、沸かす用の費用がもったいないなどと言われてしまってぐぬぬとなっている。カプセルバッジを作って渡してはいるが、数には限りがあるし全住民に行き渡らせるのはほぼ不可能だ。どうしたもんかと思うが地道に頑張るしかないな。


 何人かに無料の朝食をもらって悪いと言われたので、代わりにこの辺りのことを教えてくれと言うと、色んな人が色んなことを教えてくれた。教えてくれるのはいいのだが、一人一人にじっくり話を聞いていると日が暮れていくので、複数人に同時かつ一方的に話してもらうことにした。名付けて聖徳太子作戦だ。


 聖徳太子は一度に十人の話を聞き分けることができたというけれど、僕もそれに近いことが可能だ。まぁ正確には僕じゃなくてアンサーなんだけど。


 アンサーは大体周囲三m位の声を自動的に拾って判別することができるので、助かっている。この間話の要点が見えなくてやたら長居する爺さんがいたけれど、どうやら寝込んでいる知り合いの分も欲しかったらしい。いやそうなら素直にそう言えばいいんだが、どうやら報酬分は話さないとと思ってたそうだ。妙なところで律儀な爺さんだった。


 僕が忘れていることでも教えてくれるし、難しい話は要約してくれている。アンサーはもう鑑定スキルと言うよりかは秘書スキルなんじゃないか? と思うほどだ。


 面白い話やためになる話も多いが、その多くは気が滅入る話だ。今朝も知り合いを亡くしたおばさんが泣きながら人となりを話してくれたが、そういう話が多すぎて若干慣れてきてしまっている。亡くなった人の分まで生きなきゃだめだとたらふく食べさせたりしていたが、この朝の集まりのお蔭で自分が置かれている状況が徐々に把握できている。


 一番多いのが目立つことをしているとマフィアに目を付けられるから気を付けろという話だ。これはもうその通りでウィリアム様からも言われている。政府や警察は壁の外まで気にしないもんだが、マフィア連中はそうじゃない。奴らはどこにでも潜んで、強盗や誘拐、殺人、売春斡旋に人身売買、麻薬取引などおよそあらゆる悪事に手を染めているから質が悪い。中には冒険者ギルドや政府機関まで顔が利く者がいるそうだ。僕がクラフト無双していく上でいつかは敵対し合う気がするが、それまでにできるだけこちらの体制を整えたいものだ。無視してくれるのが一番だが、そうもいかないだろう。麻薬や奴隷売買が彼らの収入でも大部分になっている以上、反目されるのは仕方ない気がする。


 僕としてはなるべく人間同士の争いは控えるべきだと思っている。そもそもモンスターが蔓延っている現状でなんで人間間で争わないかんのだという気持ちだ。でもいくら僕がそう思っていても相手は理解してくれないだろう。代替え案を提示しても反発は必至だろう。だからせめてこちらが有利になるまでの時間稼ぎがしたい。あー色々考えることが多すぎてめんどくさい。もーやだやだ。




君は心地よい思いをするために生まれたのか。一体全体君は物事を受け身に経験するために生まれたのか。それとも行動するために生まれたのか  怠ける者は自分を愛していないのだ


マルクス・アウレリウス「自省録」 

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