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12 夕食会




 バクストン商会のウィリアム様に招かれて僕とレイラは夕食の御相伴にあずかった。本来客側とは言え主人に付き従うメイドは側で控えるか別室で食べることになるが、ウィリアム様曰くめんどくさいとのことで一緒に食べている。ティムも横で一緒に食事しているので、ここでは見慣れた光景なのだろう。


「ここではマナーも気にする必要はないぞ、少年よ! さぁ自由に食べてくれ!」


「お気遣いありがとうございます」


 夕食には前菜のポタージュの他、タルトが出て、メインはなんとダンジョンモンスターの肉だった。


「アル君はモンスター肉を食べるのは初めてか? これはダンジョンでうちのが捕ってきた猪肉を使っているから安心してくれ」


 ここで言うウィリアム様の安心してくれは、ダンジョンで直接倒してきたモンスターだから変なのは食べていないよという意味だ。ダンジョン内に生息するモンスターは侵入者を純粋に攻撃して倒すだけで、捕食したりはしない。それに対してダンジョン外のいわゆるフィールドモンスターは人間を襲って餌食にするらしい。


 これはフィールドはダンジョンと違って魔素が少ないからとか言われているが、いまいちはっきりしたことはわかっていない。だからこの世界ではオークに女騎士が倒されてもエロいことにはならない。普通に殺されて食われる。もっともその前にこの世界の冒険者は毒を飲んで一矢報いるのがしきたりだそうだが、諸行無常の響きありだ。


 ダンジョンモンスター肉は豊富に魔素を含んでおり、それは味にも影響しているそうで食べた時の満足感が半端ない。なんていうか噛むと油が滴って旨味がやばい。これは前世で食ったあらゆる肉を超えるぞマジで。


 最初は興奮してうひょーとマナーそっちのけで爆食していたが、不意に家で待っているワンコとにゃんこを思い出すと手が止まった。それを不審に思ったウィリアム様が訊ねてきた。


「ん? どうかしたかね?」


「いえ、大変美味しくて感動しているのですが、家に残してきた者達を思い出しまして」


「なんだそんなことか。それならば帰りに同じ猪肉を持たせよう」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 ウィリアム様の気遣いに涙が出そうになった。きっと家にいるお母さんとその娘ちゃんも喜んでくれるだろう。


 夕食後はアフターディナーティーを頂戴した。お酒を出されることもあるそうだけど、当然僕はお子様なので紅茶の方がいい。思えば本格的な紅茶をいただくのは初めてかもしれない。香りが豊潤でとてもリラックスできる。


 僕は前世のことやアンサーなど一部スキルのことを除いて、自分の境遇をなんでもウィリアム様に話した。テムス川の化け物サメの話をしたら驚くと共に手を叩いて喜んでくれた。実際に見てみたかったと言われたので、インベントリスキルの存在を知られてしまうが、見てもらうことにした。中庭に移動してテムス川の主を出すと、周囲からどよめきが起きた。


「おおお! なんだコイツは! こ、こんなのがダンジョンでもなくあの川に住んでいたのか⁉」


「そうなんです。おそらくは生存競争を逃れて川を遡上してきた末にテムス川生態系の主となった個体なのでしょうが僕も驚きました」


「むむむ、それにしても首都の川でこんな大きなモンスターを野放しにしているとは、冒険者ギルドはなにをしているんだ!」


「ウィリアム様。テムス川の清掃や調査は依頼が出てるはずですが、なにせあの悪臭ですし受ける者が少ないのです。冒険者の大半である我々獣人は鼻が効くのでなおさらです」


「そうか……だが実際目に見える危機として首都近郊にモンスターが発見されたのはいかんともしがたい。これを機に議会に図ってテムス川の清掃計画を練らねばならんだろう。本格的な夏になれば悪臭が増すし、前からなんとかしたかったのだ。時にアル君、このサメを譲ってもらえはしないだろうか。そうだなーー二百ポンドでどうだろうか?」


「えええ! 本当ですか!」


「ああもちろんだ」


『マスター。バクストン氏の提案は様々な状況を鑑みるとこちらに分がある価格での取引だと判断します』


「うおお! こんなんで良ければよろしくお願いします!」


「ははは、ようやく君の子供らしい一面が見られたかな」


 興奮して何度も頷く僕を見て笑うウィリアム様だったが、突然の臨時収入に有頂天になっていて気にするどころじゃなかった。もちろんレイラには白い目で見られていたが、これで色々妄想していた計画がはかどるぞ! ウィリアム様様だ! ティムさんを助けられて良かったー!


 その後は定期的に会う約束をしてお屋敷を出た。バクストン商会関係者を示す許可証を貰ったのでこれでいつでもここを訊ねることができる。もっとも先約を取り付けないと普通は大分待たされることになるが、手紙で報告ぐらいならいつでも受け付けてくれるそうでありがたい。


 スラムの我が家に帰ったのは夜も更けた頃だったが、フェルとミーナは起きてきてくれた。ミーナがお目目をくしくししてお腹減ってるとのたまうので、寝る前だから少しだけ食べさせることにした。


 ダンジョン猪肉はインベントリに突っ込んだらスキルでローストすることが可能だったので、出来立て熱々を食べやすいサイズに切って、塩を適量かけてあげる。さぁ召し上がれ。


「んまーーーい!」


「アオゥ! アオーーーーウ!」


 夜中に叫ばないのとミーナとフェルのお留守番をねぎらってから、僕達は幸せな余韻に浸りつつベッドに入った。




最も良い復讐の方法は自分まで同じような行為をしないことだ

マルクス・アウレリウス『自省録』

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