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11 バクストン商会長 ウィリアム・バクストン




「これはどうも、僕は彼女の主人でアルと言います。お力になれて良かった」


「感謝します。荷馬車が攻撃されて脱輪してしまったので、難儀していたんですよ」


 僕がティムさんと挨拶している中でレイラに向けて頷くと、彼女はズンズン荷馬車に進んでからむんずと車体を掴んで道路へと引き戻していた。苦労して何度も挑戦していた護衛君達が唖然としている。


 その間僕達は情報交換をしていた。なんでもティムさんは護衛を連れて行商の帰りだったらしく、足の早いウルフに追いかけられて馬がびびってしまい、戦わざるを得なかったそうだ。


 馬と売り上げを犠牲にして逃げるしかないかと思っていたところに僕らが来たそうだ。主人の悲しい顔を見なくて済むと僕達は非常に感謝された。彼の様子から察するに、どうやらそのご主人は慕われているらしい。これはこの世界のこの時代、この国では意外なことと思われるので聞いてみた。


「失礼ですが、バクストン様は獣人や奴隷階級の人々を重用なさっておられるのですか?」


「ええその通りです。我らが主はロンネルで商会を開きながら下院議員を務めている政治家であり、慈善家、冒険者でもあるのです。彼は何度もダンジョンへ赴き、死の危機を幾度も乗り越えた経験から本当に頼れるのは階級や噂ではないことを知っています。だからこうして奴隷身分である私どもを信用して大金を任せてくださるのです」


「素晴らしいご主人に恵まれているようですね」


「はい、本当に」


 そう語るティム青年の瞳は涙に潤んでいた。ロンネルは階級社会だ。魔法技術の発展が目覚ましい状況にあるとはいえ、貴族を始めとした旧態依然とした差別が今もって蔓延している。これを是正するのはかなり難しい。


 地球でもレディーファーストという言葉があったが、あれは紳士ならば弱き女性を優先すべしという概念を表現したものであり、ということは普段から女性の立場は虐げられていたことを意味する。始めから女性の権利が守られている社会ならば、わざわざ箴言として世の中に残らなかったであろう。


 そしてレディーファーストは法律によって定められた義務ではない。要するに個人の良識に依存するのだ。


 奴隷制度の存在自体なにも疑われていないこの時代においても、個人間においては疑問に思っている人達はいるのだろう。もっともそういう人達は特権階級から変わり者として敬遠されることになる。


 僕は非情な社会の中にあっても志のある人はいるんだなと思い、なんだか心持が暖かになった。認知バイアスが歪んでいない紳士は貴重な存在だ。


 話の流れで是非ロンネルの主に会っていいただきたいと言われたので、お言葉に甘えて伺うことにする。アンサーによると後二時間も歩けば到着するということなので、遅くとも今日中には用事を終えられるだろう。


 てくてく歩くとほどなくロンネルへと辿り着き、入場料を払ってから名物の都市壁、ロンネルウォールをくぐった。料金そのものはティムさんが払ってくれた。ミーナは付いて行きたいとぐずったが、そこはなるはやで帰るからとなだめてお母さんことフェルに帰宅までお留守番をお願いした。何気にロンネルの中枢部には初めて入るな。


 ブリスデン国首都のロンネルはさすがに首都だけあって入場管理が厳しい。今回のようにコネがなければ貴族や政財界の有力者達が住んでいる地区には入ることができない。中心部には宮殿や議会もあるし当然だけどね。


 僕とレイラはティムさんに連れられて豪奢ではないけれど機能的な豪邸の中に招き入れられた。中では様々な種族の獣人達が出入りしており、きびきびと働いている。案内された応接室で座って待っていると三十分も経たずに主人が来ると案内があったので立ち上がって待ち、丁寧にお辞儀した。


「お初にお目にかかりますバクストン閣下。僕はアルフォンス・アーサーと申します。彼女はメイドのレイラです。お会いできて光栄です」


「やぁこれは驚いた。丁寧にどうも、小さな紳士殿。ティム、君が言っていたように随分と利発そうだ」


「ええ、そうなんです」


「アル君、私のことは閣下など付けなくて良いよ、少なくとも私邸ではね。それとウィリアムと呼んでくれ」


 僕は思わず横に立っているティムを見たが、微笑んで頷いているのでお言葉に甘えてウィリアム様と呼ぶことにした。ウィリアム様は白人種で獣人に負けない二m近い大柄な体躯をしている。なるほど冒険者をしていてもおかしくないな。彼は快活な声で召使を呼ぶと夕食へと僕達を招待してくれた。


「さぁ腹が減っているだろう? まずは飯にしよう! そこのレディーもぜひどうぞ。ティムも来るんだぞ」


 それから食堂へと案内されると着席し、しばらく僕達はお互いの情報を交換し合ったのだった。 




認知バイアス

心理学において無意識に発生する「思考の偏り」のことを指します。人々はさまざまな要因によって、誤った認識や合理的でない判断を行ってしまうことがあります。


正常性バイアス:

自分に都合が悪い事実を信じようとしない傾向です。現実を見ないことがあります。

集団と異なる行動を取りにくい心理状態です。

例: 災害時に周りの人が逃げていないから、自分も逃げなくても大丈夫だと思う状態。 心の安定を保つために働く「正常性バイアス」が、緊急時においてはマイナスに働くこ とがあります。

確証バイアス:

自分の信念を裏付ける情報を探し求め、それ以外を無視・軽視する傾向です。

年齢が高く知識が豊富な人ほどこれに陥ります。思い込みによる弊害です。

例: 自身の事業プランを後押しする都合の良いデータだけ収集する。大企業は安定しているという考え方。問題のある恋人と別れられない。~は~に違いない。

生存バイアス:

過去の成功した事例しか見ずに生き残った経験にしか学ばない傾向です。

例: 成功した起業家を分析して、失敗例を見ない。


 これらのバイアスは、主に個人の固定観念により発生します。完全に是正することは不可能ですが、弊害を認識することで自分の行動を振り返ることが可能です。

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