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10 塩を制するものは国を制す




 旅の途中でなにか起こるはずと言ったな? あれは嘘だ。途中モンスターに襲われることはあったけどレイラが先行してあっけなくひき肉にしてくれた。


 休憩しつつゆっくり歩いて夜になるように調整し、人気はないが目立たないようにこそこそ波打ち際に忍び寄っては手をかざし、三トンばかりの海水を手に入れた。今のところこの辺が収納とクラフトの限界だとアンサーが教えてくれた。


 それから時間をかけてクラフトして、最終的に百五㎏の塩を獲得予定だ。これで後は帰るだけとなった。クラフト中は魔力を消費するし疲れるのでありがたくミーナ共々フェルの背中にお世話になる。本当にこんな簡単に塩が手に入ってしまっていいのかと思ったが、そこはチート能力に感謝しておこう。これでやっとまともな地域貢献もできようというものだ。


 そう、塩はやはりこの世界でも必須の栄養素で、特に獣人にとっては大切なものとされている。獣人は岩塩をかじりながら酒を飲むのが一番の贅沢と言われているほどだ。


 地球の歴史でも塩は人類の歴史に密接に関わってきた。塩を扱う国や商人は巨万の富を得て、中国では密売の塩売り商人が力をつけて国家転覆を画策したこともある。とにかく生きていくのに必須の栄養素なので薬とされたこともあるくらいだ。塩を贅沢品として税をかけた国もあったし、通貨の代わりにもなったほどだ。


 塩を得たことでうまくすればようやく待望のブリスデン通貨を得ることができるだろう。これも塩が欲しかった理由だ。


 現行のブリスデン通貨であるポンド、シリング、ペンスは僕の感覚に合わせると、大体五千円、五百円、五十円に相当するらしくて、パン一斤が六ペンスで三百円くらいらしい。


 レイラは魔石の稼ぎはあるけれど冒険者ギルドに入会できないので魔石を合法的に現金化できないし、なるべく自分の食い扶持は自分で稼ぎたい。


 現代日本の価値観からすると異常だが、ここで七歳児が働いているのは普通だ。産業革命時のイギリスでも児童労働は問題となったが、長い間規制されなかった。それはここ異世界のロンネルにおいても同じである。


 いつかはせめて自分の管理できる範囲内だけでも児童労働を撤廃させて学習の機会を平等に与えたいと思うけれど、自分の生活基盤すら不安定な現状からすると夢物語だな。しかし世界連邦樹立よりは簡単だと思う。


 だが目下の問題は塩の卸先だ。


 アンサー曰く塩売は国と教会がほぼ独占的に扱っており、新規に事業参入するにはコネがいる。闇市でこっそりさばいていく方法もあるにはあるが、あまり紳士的とは言えないし、後々問題に発展しそうだ。とりあえずは身内で消費するしかないかーー


 僕がそんな風に考えていると、なにやら前方で騒がしい気配がした。


「なにが起きてるんだ?」


「アル様、どうやら荷馬車がモンスターに襲われているようです。護衛が奮闘しているようですが」


「介入しよう。レイラは先行して。僕は……」


「後ろで控えていてください」


「あっはい」


 ギロッとレイラに睨まれてしまったので、僕はフェルやミーナと一緒に行く末を見守ることにした。


 どうやら御者が一人、護衛二人に対してウルフが七、八体攻め寄せているようだ。トリッキーな動きに対してメイスや棍棒で応戦しているが、やや苦戦している。


 ウルフ系のモンスターは遠吠えで仲間を呼ぶ性質があるので油断ならない。おそらくそれで気が急いているのか、攻撃が中々当たらないでいる。APが少ないので一撃与えれば致命打となるのだが、その一発が当たらない。


 レイラはそこへ臆することなく突っ込んで行き、火かき棒のアッパーカットで易々と一匹目をぶっ飛ばした。


「加勢します」


「え? あ、ありがたい! よろしくお願いします!」


 レイラが加勢することにより一気に形勢が逆転し、状況は商人側が有利となった。次々と倒れていく仲間達を見て恐れをなしたのか、後ろの方に居た個体が逃げ出しそうになっていたので、僕はさっとインベントリからスリングショットを取り出して石をつがえ、チャージ一段階で放つと腹部にヒットして、護衛さんが止めを刺した。


 うまいこといったなと思ってニヒルな笑みを浮かべていると、どこか余計なことしやがってという風にレイラに睨まれた。なんでやねん。


「アル様。敵に攻撃を加えると後々標的になりかねません。自重してください。」


「いや大丈夫だよ、最後の一匹だったし」


「今回はそうですが、次もうまくいくとは限りません。せめて参戦するのはまともに戦える体になってからにしてください」


「ぐぅ……」


「なんの真似ですか? それは」


「いや、ぐうの音も出ないって言葉があるから、ぐうの音を出してみただけ」


「また地球のジョークですか。他の誰にも通用しない洒落になんの意味があるのでしょうか」


『マスター私はわかりましたよ!』


 はは、ありがとうアンサー。こんなやり取りをしているところで荷馬車の一行を代表して商人らしき青年が近づいてきた。きちんとした身なりをしているが、驚いたことに頭部に耳がある。二十代で犬系統の獣人さんだった。


「やぁどうも、助けていただきありがとうございます。僕はバクストン商会のティムと言います。よろしく」




時代を動かした塩

 塩は生活に必要なものであり、代替品が存在しないため、いかに高額であろうとも買わないわけにはいかない性質を持っています。さらに、富裕層も貧困層も塩の必要性には差がないため、課税の効果は大きいと言えます。

 古代中国唐時代の政府は財政難の際に、専売塩の価格を引き上げるという手段で増税しましたが、これは庶民を大いに苦しめることとなりました。その結果、専売塩よりも安く塩を密売して巨額の利益を得る「塩賊」も現れました。

 政府は塩の密売を厳罰に処す一方で、取り締まりを強化するために予算が必要であり、その予算を確保するためにさらに専売塩の価格を上げ、ますます塩賊が利益を得るという悪循環に陥りました。こうした塩賊の中でも、唐を崩壊させる遠因「黄巣の乱」を起こした黄巣は有名です。

 現在の中国でも危機的状況が予見されると人々は塩の備蓄を買い求めるそうです。

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