1 天佑自助
天は自ら助くる者を助く。
これは古くから語り継がれている名句だよ。努力をして自らを成長させることは結果として自分を含む他者を救うことができるんだ。
もちろん頑張ったからといって全てがうまくいくことはないし、困った時に助けられるのは悪いことじゃない。しかし恵まれた環境に胡坐をかいたままだと、周りから信用されなくなる。誰だって怠け者を応援したいとは思わないからね。
どんなに整った社会制度でも人間個人を真の意味では救ってくれはしないのさ。
人生は誰が自分になにをしてくれるかよりも、自分がなにを誰にしてあげるかを考えるべきで、その最初の一人目はまさに君自身であるべきなんだ。わかるかい?
世の中を変えるのはいつだって情熱を持った個人の努力から始まるんだよ。
例え恵まれない人生であったとしても人は自らが自らを誇れる紳士として生きねばならない。それが幸福になるコツさ、覚えておくんだよ。
まぁこれらは自助論の受け売りなんだけどね。
そう言って照れ笑いをした祖父が幼い僕(青山由典)の頭を撫でてくれたことを今でも思い出す。彼は没落したイギリス貴族の末裔で、日本に帰化してからもその誇りを忘れることなく精進し、多くの人達に惜しまれてすでにこの世を去った。
大好きな祖父は僕の誇りでもあり憧れだった。急に彼のことを思い出したのは今目の前にある信じがたい状況を眺めているからだ。
先日会社を挙げたプロジェクトでリーダーとして大きな役割を果たし、これからも頑張るぞという夜の晩。それは突然現れた。
白いホワイトボードのような盤面に日本語で、今から魂の半分だけ異世界に行っていただけませんか? と書いてあった。
幽体離脱というやつなのだろうか、ふわりと浮いた透き通る自分の下には寝ている自分が見える。とても不思議な感覚だ。
謎の文字が言うにはラノベなんかでよくあるこの世で死んで異世界転生するのではなく、あくまで魂の半分だけが火の付いたローソクから火を移すように分身して彼方の世界へと向かうとのことだ。
それなら問題はないんじゃないかとも思ったが、魂の力が半減するということは現実の肉体にも作用するために生命力が落ちて、この世に残された自分は一人ではまともに生活できなくなるだろうとのことだった。
僕は少し考えあぐねたが、すでに心の内は決まっていた。謎の文字が言うには自分が行く先で救うべき人達が大勢待っているらしいのだ。
深呼吸をして両手を握りしめると、不意に紳士的な祖父の笑顔が浮かんだ。
「行きます。連れて行って下さい!」
「自助論」
サミュエル・スマイルズの「自助論」は、19世紀にイギリスで書かれた自己啓発の古典的な名作で、300人以上の欧米人の成功談を集めたものです。1859年に初版が発表されました。
この著書は、自己努力と自己啓発の重要性、個人の責任と独立性、模範となる人物の紹介、努力と忍耐の重要性などに焦点を当てています。
自助論は、当時の産業革命や社会の変化に対する個人の対応として、自己改善と自己努力の大切さを広く伝えた著作として今に至るまで評価されています。
日本では中村正直が自助論を翻訳し、『西国立志編』として1871年(明治4年)7月に発売されました。これは明治時代の終わりごろまでに100万部以上を売り上げるロングセラーとなり、一時は教科書としても使用されるようになりました。
今日の政財界関係者の中にも本書を愛読書とする人達がいます。