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イチオシ短編

今夜、星が落ちる

作者: おいしい妖怪

 人の少ない夜にランニングをしていると、どう見ても普通じゃない、100%ヤバいジジイが後ろから走ってきた。


 あまりのヤバさに興奮した僕はすぐに艦長に電話をかけた。

 艦長とは僕がアルバイトしている宇宙海賊の戦艦のボスで、とても仲が良いから面白いことがあったらいつも電話で共有してるんだ。


『もしもし、どーしたー?』


「あっ艦長! お疲れ様です!」


『おつかれ〜』


「実は今、後ろから⋯⋯って、あ! 艦長! ジジイが併走してます!」


『なんの話?』


「艦長! このジジイ、乳首が光ってます!」


『Zzz⋯⋯』


「艦長?」


『⋯⋯フガ』


「しっこ」


『通常、人間の乳首は光らない。にもかかわらず君の隣にいるジジイは光っている。それはつまり、乳首ではないということ。君は今、ジジイの胸部についた、謎の発光体を見ているんだ。ていうかジジイ服着てないのかよ』


「艦長! このジジイ、ズボンも履いてません!」


『もしかしてその人、全裸で走ってる?』


「ネクタイだけしてます!」


『Zzz⋯⋯』


「なんでそんなに寝るんだよ。賢者タイムか? ⋯⋯あ! 艦長! 抜かされました!」


『ジジイに負けてんじゃねーよ』


「ジジイが真ん前に来ました! ハザード2回チカチカやって切りました! と思ったらまたついた!」


『え? 今運転しながら電話してるの?』


「いや、ランニング中ですよ」


『ジジイは車なの?』


「いや、裸でランニングしてます」


『ジジイのケツかどっかにハザードランプがついてるってこと?』


「いや、乳首です」


『もしかしてそのジジイ、後ろ向いて走ってるの?』


「いや、普通に僕の前を走ってます?」


『は? じゃあ背中に乳首ついてるってこと?』


「そういうことです!」


『おかしいだろ。じゃあ胸には何がついてんだよ。留守か?』


「顔がついてます!」


『じゃあ頭部には何がついてんの?』


「のっぺらぼうです!」


『お前、よくそいつのこと〈乳首が光るジジイ〉として俺に話したな。俺がそいつ目撃したらそんな感想出てこないし、そもそも背中についてる2つの発光体を乳首って認識しないと思うわ』


「乳首は1つですよ!」


『じゃあ尚更乳首だとは思わないだろ』


「いや、〈ちくび〉って書いてあるんで。それが光ってるんで」


『じゃあ本物の乳首はどこ行ったんだよ』


「僕が持ってます」


『おかしいだろ』


「僕も訳分かんなくて困ってます。いきなり乳首が増えて⋯⋯」


『新しく生えてきたの?』


「はい、なんか両肩に10個ずつくらい急に」


『もう走るのやめて病院行けよ』


「いや、行きません。僕走るの大好きなんで。あと病院嫌いですし」


『そのジジイ、まだいるの?』


「いますよ。なんかミミズ拾って食べてます」


『もしかして君、発光乳首以外あんま気になってない?』


「そりゃそうでしょ! 乳首の光るジジイなんて滅多に居ませんから!」


『ねぇ艦長〜早く〜』


 ん?

 なんだ今の声。聞いたことあるような⋯⋯


「艦長、誰かいるんですか?」


『い、いや、テレビの声かな?』


 怪しい。

 艦長は嘘をつく時、声がチンポになるんだ。この声は確実にチンポだった。


「艦長、嘘ついてますよね?」


『き、君に嘘なんてつくわけないだろ!』


 明らかに焦っている。一緒にいてはいけないような相手なのだろうか。


『艦長早くしようよ〜!』


 また聞こえた!


 ってこの声、もしかしてミナ先輩!?


 僕が密かに好意を寄せている、バイト先の3つ上のなんでも出来るスーパーウーマンのミナ先輩!?!?


「艦長、ミナ先輩とどこにいるんですか」


『今ラブホでめっちゃセックスしてる』


 な⋯⋯っ!


「今、なんて⋯⋯」


『ミナとエッチしてる。君がミナに片想いしてるのは知ってたから、俺たちの関係は秘密にしてたんだ』


「僕は死んだほうがいいのでしょうか」


『死ななくて大丈夫だよ。俺たち付き合ってないから。めちゃくちゃセックスしてるだけだから』


「死ね⋯⋯」ブチッ


 その後艦長から何度も電話がかかってきたけど、全部無視した。


 ミナ先輩、なんで艦長なんかと⋯⋯


 あんなアーモンドに顔描いたみたいな男と⋯⋯


 僕はどうしたら⋯⋯


 クソ⋯⋯


「大丈夫?」


 顔を上げると、目の前にキュッとしたお尻があった。


「大丈夫? 立てる?」


 お尻の動きに合わせて声が出ているようだった。恐らく、このお尻が喋っている。


「ありがとう」


 差し出されたお尻に掴まって立ち上がると、そこには光る乳首があった。


「大丈夫? 結婚する?」


「⋯⋯うん」


 こうして僕は乳首の光るジジイと結ばれた。人の出会いというのは奇妙なものである。


 ジジイはいつでも僕の話を聞いてくれた。全肯定してくれた。童貞を殺すセーターを着てくれた。あと、10億円くれた。


 今、艦長とミナ先輩はジジイに取り込まれて、右肩と左肩でそれぞれ顔だけになって生きている。


 一緒の存在になれたのに、一生会えない。


 悲しい2人。かわいそうな2人。


 七夕のない織姫と彦星。


 ジジイという名の天の川。


 今夜、星が落ちる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 詩を読んだかのような寂寥感のある読了に、イヤイヤ結構ひどい単語読んでたよね?って脳の酩酊感がすごかったです。
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