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自白

 その後は襲撃もなく、無事に王城に辿り着き、私達はアルフォンス殿下が用意してくれた応接間に通された。

 豪華な装飾のされているローテーブルを挟んで、上座に殿下、下座に私とクレマンさんが並んで腰かける。


「……で? お前は何者だ?」

「私はレティア・フリートウッド、テスタロッサ王国の三大公爵の一人、フリートウッド公爵の娘です。それは神に誓って嘘偽りありません」


 一度断言して、私は言葉を選びながら話し始める。


「信じてもらえるかどうかはわかりませんが、私には前世の記憶があります」

「前世?」


 流石に、殿下も眉を顰めた。まさかそんな話になるなんて夢にも思わなかっただろう。


「はい。前世の私の名前は、ルナ・エルカミーノ。ムルシエラゴに所属していた諜報員スパイでした。十七年前、ステラ・カプリスという名前でテスタロッサ王国に王城メイドとして潜入したのですが、現在のシルバラード公爵に正体が露見し、自害しました」


 そこまで一息に話したが、殿下はうんともすんとも答えない。


「レティア・フリートウッドとして生まれた私には、物心ついた時には前世の記憶がありました。何とか、戦争を回避できないかと考えて生きてきましたが、公爵令嬢という立場ではできる事もほとんどなく……」


 ここで言葉を切る。


 つい先日まで、私は己の無力感に苛まれていた。

 政略結婚する事が定められている公爵令嬢という存在。

 私も、まだ婚約してはいなかったが、お父様は私の結婚相手に足る殿方を探していた。遠くない未来にお見合いする事になるのは理解していた。

 

 公爵令嬢という立場の、なんと無力な事か。

 前世で諜報員スパイとして活躍していた私にとって、公爵令嬢という人生は情報を集めることはできてもその後の身動きが取れなかった。


 ただ、何もできない事を嘆くだけの自分でいたくなかった私は、きたる時に動けるように、隠し部屋を作って準備していた。

 戦争を回避するために、自分にできる事をするために。


 そしてそれが今回、実を結ぶ事になった。


「しかし先日、デュランゴ侯爵がアスペン公爵とシルバラード公爵と共謀し、ガヤルド国王生誕祭の夜会でスティード殿下を暗殺するという計画を立てている事がわかり、すぐにでもムルシエラゴに知らせようと、馬を飛ばして此処へ来ました。そうしたら、偶然、前世の師であるクレマンさんと再会できて、事情を話したところ、クレマンさんは私を信じてくれました」

「……こんな途方もない話を信じたのか?」


 まだ不審そうな顔をして、殿下がクレマンさんに問う。

 クレマンさんは真面目な顔で頷いた。


「私も最初こそ何を言っているのかと思いましたが、実際にステラしか知りえない情報を知っていたんです……それに、ガヤルドでも有名なテスタロッサの三大公爵フリートウッド家の令嬢を名乗り、わざわざ十七年前に死んだ元隊員の生まれ変わりであるなんていう嘘を、今更吐く理由はありませんし」

「まぁ、それはそうだな」


 ふむ、と殿下は頷いた。


「……ならば、レティア嬢、お前が持ってきた情報が万が一偽情報だった場合、それ相応の責任を取ってもらうからな」

「勿論、元よりそのつもりです」


 しかと頷いて、私は懐からある物を取り出してテーブルに置いた。


 フリートウッド公爵家の紋章入りの懐中時計だ。蓋を開けると裏には私の名前が刻印されている。

 現当主である父が、私の十七歳の誕生日に贈ってくれた物である。


 公爵家の紋章が彫刻された物は、それだけで身分証になる。

 それ故、貴族は紋章入りの物を絶対に奪われないように注意する一方で、貴族になりすまそうとする者はそれを入手するため躍起になるので、紋章入りの物を盗んで高く売ろうとする輩が後を絶たない。


 ちなみに、紋章入りの短剣は、私が秘密裏に公爵家贔屓の職人に依頼して創ってもらった物だ。

 多分職人は、私がお父様へのプレゼントとして注文したとでも思っているだろうが、お父様は私がこんな物を所持している事を知らないので、短剣では公爵家に対して私の身分確認が取れないため、今回の用途としては不適合だ。


「殿下にお預けします。もしもガヤルド王国の王族に危害を加えようとする者が現れた場合、私を人質として、テスタロッサ王国へ交渉していただいても構いません。これでも三大公爵フリートウッド家の長女ですから、それなりの価値にはなるでしょう」


 私の懐中時計を手に取った殿下は、それを眺めてから私の顔を見て、ふっと微笑んだ。


「はは。こんな胆の据わった女、初めてだよ……ムルシエラゴの諜報員スパイだったと、信じざるを得ないな」

「殿下……」

「だが、お前の待遇は変わらない。事が落ち着くまで、城に軟禁させてもらう」

「わかりました」


 私が頷くと、殿下はクレマンさんを一瞥した。


「クレマン、先程の襲撃者と、レティアの言っていたデュランゴ侯爵に繋がりがあるかどうかを早急さっきゅうに調べろ。兄上の暗殺計画に先程の銃が使われるのだとしたら、飛距離から狙撃手が潜む位置も割り出しやすくなる」

「承知しました。すぐに」


 クレマンさんは立ち上がると、敬礼して足早に退出していった。


「さぁ、お前は別室に案内する。すまんが、そこでしばらくは大人しくしていてくれ」

「わかっています」


 私を軟禁する事に後ろめたさを感じている様子の殿下に、私は内心で苦笑しながら後に続いた。


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