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襲撃

 私が話しを終えると、一人の男が疑わしそうに私を見た。


「……信じられるのか? この情報自体が嘘で、全く別のタイミングで国王陛下を狙う可能性だって……」


 一人の男が、疑わしそうに私を見る。


 まぁ、無理もない。彼らからすれば、私は突然現れた冷戦中の敵国テスタロッサの公爵令嬢であり、ガヤルド王国に利する情報を持って来る理由がないのだ。


 前世がムルシエラゴに所属していたルナ・エルカミーノ、通称ステラ・カプリスだと話したところで、誰も信じてはくれないだろう。

 クレマンさんが信じてくれた事がもはや奇跡に近いのだ。


「いや、公爵令嬢がたった一人でここまで来た事を考えると、その可能性は低いだろう……テスタロッサの、いや我が国でもそうだが、貴族の令嬢は基本的に戦争に興味がない……例え戦争になったとしても、自分達の生活はほとんど変わらないからな。それなのに、戦争を嗾けるための駒になるために、わざわざ単身で敵国に乗り込んでくるなんて、正気の沙汰じゃない」


 意外にも、アルフォンス殿下が淡々とそう答えてくれた。 


「公爵令嬢というのが嘘という可能性は?」

「フリートウッドはテスタロッサの三大公爵家の一つ。直系は金髪と紅い瞳という組み合わせで有名だ。十七歳の娘がいる事も知られている。それに、彼女が腰に隠し持っている短剣の鞘には、フリートウッド公爵の紋章が刻まれている」


 隠し持っていた護身用の短剣の存在がバレていた事に驚く。

 ベルトに挿し、外套を纏っていたのだが、いつの間に見たのだろう。


「まぁ、金髪と紅眼で年齢の合う娘に、フリートウッド公爵の紋章入りの短剣を持たせて敵国に送り込んで偽の情報を掴ませる、って筋が完全に消える訳じゃないが……」


 言葉を切り、殿下は私を見る。


 見定めるような視線に居心地の悪さを感じるが、視線を逸らしたら負けな気がして、私は正面から彼の深緑の瞳を見返した。


「偽の情報を掴ませるためにわざわざ目立つ三大公爵家の令嬢を名乗る理由がないし……俺は彼女が嘘を言っているようには思えない。俺は彼女を信じる」


 それだけ言うと、彼は席を立った。


「七日後の夜会に備えて警備を強化しろ。遠距離から夜会の会場を狙える高い塔に警備を配置。勿論城内の警備もだ。それから、武器を所持している人間は片っ端からチェックしろ」


 そして、私の前に立って左手を差し出す。


「申し訳ないが、事が済むまでお前を放っておくことはできない。理由はわかるだろう?」

「……それはそうでしょうね」


 私は頷いて立ち上がると、彼の腕を取った。

 クレマンさんが心配するように私を見たので、大丈夫という意思を込めて頷く。


 スティード王子暗殺計画がもし偽の情報であったとしたら、その偽情報をもたらした人間はムルシエラゴにとって、いやガヤルド王国にとって害でしかない。

 私を信じているとは言ったもの、万が一の可能性を考慮して、私を監禁するのは当然だ。私が殿下の立場だったら間違いなくそうする。


「まぁ、悪いようにはしないから安心しろ」


 殿下はそう言うと、私をエスコートして歩き出した。


 てっきり隣の部屋辺りに監禁されるのかと思っていたが、彼は建物を出て、繋いでいた馬に私を乗せ、自らも跨った。


「えっと、あの、何処へ?」

「国賓として、って訳にはいかないが、ちゃんと城に部屋を用意する。公爵令嬢を粗末な部屋に監禁する訳にはいかないからな」

「そんな、今の私はフリートウッド公爵令嬢として此処にいる訳ではありません。そのような気遣いは……」


 言いかけた、その時だった。

 肌がピリピリするような嫌な予感がして、視線を巡らせる。

 向かいの建物の屋根から、きらりと何かが光ったのが見えた。


 それが銃口だと認識した瞬間、私は殿下の手から手綱を奪って強く引いた。


 馬が大きく前足を上げて駆け出す。

 馬の鳴き声と同時に、ぱん、と乾いた音がした。


「うぉっ?」

「殿下! 襲撃です! 屋根の上に一人、銃を持った男が、殿下を狙って発砲してきました。私が追いますので、殿下は城へ行ってください」


 言いながら、私は手綱を殿下の手に戻し、一瞬で馬から飛び降りる。

 駆ける馬から飛び降りるのは本来とても危険だが、前世で叩き込まれた身のこなしで受け身を取って地面を転がり、その勢いのまま走り出す。


「おい!」


 殿下の声が聞こえたが、私は構わず建物の壁を伝って屋根に上った。

 先程銃撃して来た犯人を捕らえなければ。


 しかし、食堂の向かいの建物の屋根には、もう人影はなかった。


「……逃げられたか」


 男が潜んでいた辺りに立つと、ほんのり独特の香りがした。

 狙撃手は、暗殺を生業にしている訳ではなさそうだ。

 本物の暗殺者だったら、このような痕跡を残すはずがない。


「おい!」


 下から声を掛けられてはっとする。

 城へ向かえと言ったのに、殿下が戻って来ていた。


「殿下! 何故戻って……」

「何故って、お前が馬から飛び降りるからだろうが!」

「危険です! 襲撃者がまだ近くに……」


 言いかけて、彼の向こうの家と家の間から銃を構える人物を見つけ、私は咄嗟に腰から短剣を引き抜いて投げ飛ばした。


 ぱん、と先程と聞いたのと同じ乾いた銃声が響く。


「―――――っ!」


 銃を構えていた男が歯噛みする。

 私が投げた短剣は、相手の右手を正確に捉えていた。


 銃を取り落とし、右手を傷付けられた襲撃者は逃げるために踵を返した。


「逃がすか!」


 私が屋根から飛び降りようとした時、襲撃者の頭上に何かが降って来た。

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