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テスタロッサ王国の王子と王女

 ある日、私はテスタロッサ王国の第一王女であるローズマリー殿下が開催するお茶会に出席するため、王城に出向いていた。


 王城の中庭に用意された席で、他の高位貴族令嬢達と他愛ない会話をしていたところ、少々不穏な話を耳にした。


 デュランゴ侯爵家の家業が最近盛況だというのだ。


 の侯爵家の家業は、表向きには貿易と言っているが、その内容は主に武器の輸出入だ。

 その家業が盛況という事は、つまりどこかで争いが起きているという事である。


 デュランゴ侯爵令嬢は、家業の事をよく理解していない風情で「最近お父様の会社の業績が良いようで」と上機嫌に話していた。


「……レティア様? どうかなさいましたか?」


 黙り込んだ私の顔を、隣の席に座っていたキャリバー侯爵家の令嬢であるガーネットが心配そうに覗き込んできた。


「いえ、少し考え事をしてしまっておりました。それより、ガーネット嬢、最近婚約されたそうですわね。おめでとうございます」


 私が話を逸らすと、彼女は照れくさそうに頬を紅く染めた。


「まぁ! ありがとうございます!」

「お相手はシルバラード公爵の弟さんだとか」

「ええ、そうですの。少し年が離れていて心配だったのですが、お会いしてみたらとても素敵な方で」


 シルバラード公爵の弟とは、前世の私の正体に気付いて私を追い詰めた、ルドルフの弟、フェルナンだ。


 十八歳のガーネットに対し、フェルナンは確か三十歳。

 兄ルドルフの片腕として、公爵の仕事の手伝いをしており、穏やかで奥手な性格。

 結婚が遅れたのは、ルドルフがあれこれ口出しをしていたからだという噂だ。


 キャリバー侯爵家は王国貴族でも比較的領地が大きく、資産も豊かだ。ガーネット嬢との結婚は、ルドルフの差し金だろう。


 まぁ、当の本人たちが納得しているのならば、私が口出しをする必要はないのだけど。


 ちなみに、ルドルフ自身は十年前に結婚して、既に子供もいる。

 相手は侯爵令嬢。その実家もまた豊かな領地と資産を持っていた。


「レティア様は、まだご結婚のご予定はありませんの? フリートウッド公爵家のご令嬢ともあれば、引く手数多でしょうに」


 別の侯爵令嬢が、やや皮肉交じりに尋ねてきた。

 私は、あえてにっこりと満面の笑みを浮かべて頷いてみせる。


「ええ。家柄の吊り合いを考慮するだけで、お相手となる殿方は限られてしまいますので、なかなか……」


 お前の家とは格が違うのだと暗に言ってやると、彼女は悔しそうに口を噤んだ。

 実際、三大公爵家であるフリートウッドと、彼女の家とでは家柄は比べ物にならない。


 まぁ、そもそも私は、この人生は両国の戦争回避のために使うと決めているので、結婚する気などないのだけど。


 貴族令嬢は、政治には関与しない。

 彼女たちは家柄が吊り合う貴族の男性と結婚して子を成すことしか考えていない。何故ならそう教育されるからだ。


 だから、このような貴族のお茶会で戦争の話題など出るはずもない。

 戦争回避のためとはいえ、何か政治的な発言をすれば、たちまち妙な噂にになり、売国奴として国に捕らわれ尋問を受ける事になってしまうだろう。


「……レティア、そう言うなら、そろそろ僕の求婚に頷いてくれても良いんだよ?」


 突如背後から声が掛かり、私とローズマリー王女以外の全員が息を呑んだ。


「アイズ王子殿下!」


 振り返ると、私の背後にテスタロッサ王国第一王子のアイズが立っていた。


「アイズ王子殿下にご挨拶申し上げます」


 すっと立ち上がって一礼する。

 気配は感じていたので特段驚きもしない。


 今年十八歳になった王子は、銀髪に深い青の瞳を有する美貌の持ち主で、胡散臭いまでににこやかな笑みを浮かべている。


「殿下、ご冗談はおやめくださいませ。殿下のご婚約者は、ダリア嬢に決まっていらっしゃるではございませんか」


 ダリアは、三大公爵家の一つ、アスペンの長女だ。

 現公爵のゴリ押しで、二人が幼少の頃に決定している。


 ダリアは今日のお茶会には主出席していない。

 何故なら、ローズマリー王女が彼女を毛嫌いしているから。


「俺自身は何一つ了承してないからね。レティアが頷いてくれるのなら、喜んでダリアとの婚約は破棄するよ」


 私に耳打ちするが、その様子さえ周りの令嬢達には見られている。

 中には、ダリアと懇意の令嬢もいるというのに。


「お兄様、御戯れはそのくらいになさってください。レティアが困っています」


 それまで静かにお茶を啜っていた王女が、凛とした声で制した。

 王子と同じ銀髪に青の瞳の美少女で、年齢は私より年下の十五歳。


「やぁ、我が愛しの妹、ローズマリー」


 アイズ王子はさっと居住まいを正いして、妹に挨拶をする。

 王女は兄を一瞥して、私に視線を向けた。


「気にしないでね、レティア。まぁ、私としても、あの女じゃなくて貴方が義姉あねになるのは大歓迎なのだけど」


 無表情で淡々と言葉を紡ぎながら、お茶を啜る。


 これがローズマリー王女の通常運転だ。

 常に冷静沈着で、十五歳という年齢に対して、見た目は相応だが、中身はもっと成熟しているように思う。


「ローズマリー王女殿下まで……ダリア嬢が聞いたらとんでもない事になりますわね」


 空気を変えたくて苦笑いして見せると、反ダリア派の令嬢たちがクスクスと笑ってくれた。


 彼女らの反応を見ていれば、ダリアの人となりがわかるというもの。

 私も幼い頃から社交界で顔を合わせてきたけど、第一印象は「いけ好かない高飛車女」で、第二印象も変わらず、今に至る。


「……ところで、お兄様はお忙しいと思いますが、こんなところにいて良いのですか?」


 王女が促したと同時に、王子の側近が血相変えて駆けて来た。


「殿下! こんな所に! 公務が滞っておりますよ! 早くお戻りください! さぁさぁ!」


 彼は王子の首根っこを掴んで去っていった。

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