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迎えと求婚

 アランの尋問は、殊の外スムーズだった。

 捕まった事で自暴自棄になった彼が、全てを自供したのだ。


 そして、彼に依頼をしていたのが、ルドルフ・シルバラード公爵だったことが判明した。

 彼はアランに、ステラが死んだのは仲間に裏切られたからだと嘘を吹き込んだ。

 それを信じたアランが、彼の策略に嵌ってまんまとスティード殿下の暗殺に乗り出したようだ。


 あの晩デュランゴ侯爵邸にいたのは、シルバラード公爵に指示されてデュランゴ侯爵から秘密裏に武器を受け取るためで、書斎で侯爵が暗殺計画を話していた相手こそがアランだったのだ。


 これで、黒幕が誰かはっきりした。


 戦争を起こそうとしているのは、シルバラード公爵だ。


 しかし物証はない。

 ガヤルドから正式に抗議するには、暗殺者の自供では弱すぎる。


 ディオンの身柄についても、彼の身分を証明するものは何もないため、ボクスター伯爵に息子の存在をしらばっくれられたら何にもならない。


 さてどう動くか、アルフォンス殿下がそれを思案していたのも束の間、テスタロッサ王国が誇る騎馬部隊が、完全武装でラギニーボルンへ乗り込んできた。


 彼らは武装しているとはいえ、ガヤルド市民に危害を加える事はなく、城門前までやって来た。

 その先頭にいたのは、銀髪に青い目の青年、第一王子のアイズ殿下だった。


「……本当に来ちゃった……」


 私は塔の上から城門を見て、驚きを隠せなかった。


「……どうするおつもりですか?」


 隣に立つアルフォンス殿下に尋ねると、彼は面白いものをみるような顔で笑っていた。


「まぁ、まずはお手並み拝見だな……ところで、お前は祖国に帰りたいと思っているのか?」

「え? まぁ、残して来た両親は気がかりですが……思い入れが強いのはやはりガヤルドですね。正直、公爵令嬢なんて柄じゃないので、できれば家出してしまいたいくらいですけど、公爵令嬢となると、ゆくゆくは家のために結婚もしなきゃならないし、でも今の人生は戦争回避のために使うとも決めているしで、ちょっと葛藤中です」


 正直な気持ちを話すと、殿下は急に真面目な顔で切り出した。


「なら、俺と結婚するのはどうだ?」

「は?」


 私は諜報員スパイとして生きてきた。滅多なことでは動じないという自負がある。

 しかし、今回の殿下の発言は理解しがたく、思わず間の抜けた声を出してしまった。不覚だ。


「俺と結婚すれば、ガヤルドに永住する理由ができるぞ。第二王子であれば、公爵家との吊り合いは充分だし、何より、お前が俺と結婚すれば両国に縁ができ、そう簡単に戦争は起こせなくなる」


 確かに、フリートウッド公爵家は、かつて王女が降嫁したこともあり、テスタロッサ王族と繋がりが深い。

 その公爵家の令嬢が、ガヤルドの王族に嫁いだとなれば、テスタロッサ王国としても戦争を仕掛けづらくなる。

 まさに目から鱗だ。自分がガヤルドの王族と結婚するというのは、完全に盲点だった。


 どうしよう。

 私のこの人生の使命を考えた上で、断る理由が見当たらない。


「……でも、私が、アルフォンス殿下と結婚……? 殿下はそれで良いんですか? 殿下には、もっと相応しい方が……」


 先日の話を思い出す。

 彼は、ムルシエラゴの隊長になった事で、自分だけ安全な場所で妻子を持つ訳にはいかない、と言っていた。側妃の子である自分の結婚は国政にとって重要ではない、とも。


「今まで結婚には興味もなかったが、相手がレティアなら喜んで結婚するぞ。しかもそれが戦争回避に繋がるなら一石二鳥どころじゃないしな」

「……それは、どういう……」


 頬が熱くなる。

 彼は真正面から、何を言った。まるで、愛の告白のように聞こえたが。


 私の反応に、アルフォンス殿下はこほんと小さく咳払いをして、私を真正面から見つめた。


「レティア・フリートウッド、俺はお前が好きだ。だからどうか、俺と結婚してほしい」


 まさかの告白に、二の句が継げなくなる。


 そんな私の反応に、殿下は苦笑した。


「今はまだ、お前にとっては都合が良い男で構わない。だから、戦争回避に利用するつもりで俺と結婚しても良いぞ」

「……私が殿下と結婚すれば、殿下は戦争回避に尽力してくださるんですよね?」


 念押しする私に、殿下は目を瞬く。


「それはお前と結婚しようがしまいが変わらない。ガヤルドは戦争を望まない。ムルシエラゴの隊長として、そのためには命を賭す」


 その回答に、心を決める。


 私のレティアとしての人生は、テスタロッサとガヤルドの戦争を阻止するために使うと決めた。

 そのために、許されるうちは結婚はしないでいようと思っていた。

 しかし反対に、もしも私が結婚をすることで、戦争回避することができるのだとすれば、それは喜んで身を捧げるべきだとも思う。


 それに、私もアルフォンス殿下が嫌いな訳ではない。王子妃になるのは正直気が引けるが、国民のために尽力する彼の隣に立てるのならば、やぶさかではない。


「……わかりました。お受けしましょう」

「本当かっ?」


 ぱぁっと、今までに見たことがないほど、殿下が嬉しそうに笑った。


 その笑顔にどきりとする。


「ええ。でも、ちゃんと正当な手続きを踏んでくださいよ?」

「ああ! もちろんだとも! すぐに書面を用意して公爵家に送らせよう!」


 殿下は本当にすぐにでも手紙を書き始めそうな勢いだったので、思わずそれを制する。


「……って、今はそれどころじゃないですよ。アイズ王子はどうするんですか?」

「レティアが俺の婚約者になった以上、怖いものはない。謁見してやろう」


 殿下は悪い笑みを浮かべた。

 それから、私の手を取る。


「俺に話を合わせてくれれば問題ない。わざわざテスタロッサの第一王子が来てくれたんだ。この機会に、冷戦そのものを終結させよう」


 何やら息巻いているアルフォンス殿下の手を、そっと握り返す。 


 少し不安はあるが、彼と一緒なら、何とかなる気がしていた。

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