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始まった夜会と襲撃

 煌びやかな大広間で、国王王妃両陛下に続いてスティード殿下達、そして私とアルフォンス殿下が大広間に足を踏み入れた瞬間、わっと会場が沸いた。


「あのアルフォンス殿下が、女性とご一緒に……!」

「ご婚約されるのか?」

「事前の情報は何もないぞ?」

「それより、どこのご令嬢だ? あんな美少女、初めて見たぞ!」


 変装用のメイクとはいえ美少女と言われるのはこそばゆいが、素知らぬ顔をしてやり過ごす。


 穏やかな笑みを顔に貼り付けつつ、最大限辺りを警戒する。

 この大広間にいる人物の中に、今現在怪しい人間はいない。


 もしも暗殺者が貴族に紛れていたとしても、微細な表情の変化や視線の動き、歩き方、姿勢で、すぐに気が付く自信がある。

 ただ、相手がただの暗殺者ではなく、同業者スパイだった場合は、相手のレベルにもよるが挙動だけで判断する事は困難だ。

 スティード殿下暗殺の実行犯が、前者であれば楽なのだけど。


 そう考えて、いや、と否定する。


 敵の姿形を決めつけるのは良くない。

 先入観は目を曇らせる。


 全てを疑え。自分以外信じるな。

 それが諜報員スパイの基本だ。


 勿論、仲間に対しての最低限の信用、信頼はある。

 しかし、少しでも過度に信用すれば、すぐに足元を掬われてしまう。そういう世界なのだ。


 と、視界の隅で何かが光った。


 それを追った視線が、天窓の外に人影を捉えた瞬間、身体が動いた。


「スティード殿下!」


 少し先を婚約者と一緒に歩いているスティード殿下を突き飛ばす。


 同時に、ぱん、と乾いた音と、大理石の床に硬い何かが当たる音。


「きゃあっ!」


 ヴィクトリーヌ嬢が悲鳴を上げ、それが伝染するように、周りがパニック状態になる。

 私は、スティード殿下を突き飛ばし尻餅をつかせてしまったため、短く謝罪して無事を確認する。


「お怪我はっ?」

「ない」


 彼も理解してくれており、責めることなくすぐに立ち上がり、兵士に指示を出した。


「レ……ステラ! 大丈夫か!」


 アルフォンス殿下が駆け寄り、天窓を仰いだが、もう人影は無くなっていた。


「……天窓は警備を強化していたのに……」

「警備に当たっていた者達はやられたのでしょう……気を付けてください。一撃で終わらせる予定が狂って、なりふり構わず襲ってくる可能性が高いです」


 そう注意を促した時だった。


 ふわりと、鼻先をあの香りが掠めた。


 独特なその香りは、アルフォンス殿下を狙った狙撃手のもの。


「っ!」


 今目の前を横切った人物を咄嗟に目で追う。

 その袖口に光る物を認め、私は思わずその腕を掴んだ。


「なっ!」


 青年がぎょっとして私を睨む。

 腕を振り解こうとしてきたので、ドレスを纏っているのも忘れて反射的に投げ飛ばして腕を捻り上げてしまった。


「いだだだっ! 何だよ! 俺を誰だと思って……っ!」


 青年は吠えるが、その袖口から一丁の銃がポロリと落ちた。


「貴方は誰なの? 教えてくださる?」


 にっこりと笑顔で尋ねてやると、青年はぐっと口を継ぐんだ。


「……ケイマン子爵……」


 アルフォンス殿下が呟く。

 ケイマン子爵、その名前には聞き覚えがある。


 ケイマン家は貿易商として名を挙げ、ガヤルド屈指の財力を誇っている。

 前世の私の記憶にあるのはこの青年の顔ではないので、代替わりしたのだろう。


「……裏切者か」


 ケイマン家はガヤルド国内の貴族だ。

 わざわざ王族の命を狙うという事は、テスタロッサの過激派に買収されたのだろう。


 アルフォンス殿下は忌々し気に眉を寄せ、兵士を呼んでケイマン子爵に手枷を嵌めさせた。


「……さっきの狙撃手とは別か?」

「おそらく。ケイマン子爵は先日町でアルフォンス殿下を狙った人物と見て間違いないでしょうが、今さっき天窓からスティード殿下を狙ったとすると、流石に大広間に戻って来るのが早すぎます」


 再び警戒態勢を取ったが、辺りに不審な人物は見当たらない。


 その後、当然夜会は中止となり、貴族達は念のための所持品検査を受けた上で帰宅した。

 スティード殿下の周りの警護も厳重化したからか、犯人が再び現れる事は無かった。


「今日は本当にありがとう、ステラ嬢。おかげで私は無事だった」

「私からも御礼申し上げますわ。殿下をお助けくださって、本当にありがとうございます」


 アルフォンス殿下に促されて部屋に戻ろうとしたところ、スティード殿下とヴィクトリーヌ嬢二人から礼を言われ、私はぶんぶんと首を横に振った。


「いいえ! 当然の事をしたまでですから! それよりも、犯人はまだ捕まっていませんので、この後もお気を付けください」

「ああ、勿論だ」


 スティード殿下は頼もしく微笑んで、自室へと引き上げていった。

 私もアルフォンス殿下と共に、控室へ戻り、すぐさまドレスを脱いだ。


「れ、レティアっ?」


 殿下がぎょっとするが、今は時間が惜しい。

 ドレスを脱ぐと、その下には黒い袖なしのシャツと、太ももが露になる短いズボンという格好になる。

 ちなみに、右太ももにはベルトを着け、短剣を挿してある。

 何かあった時にドレスを脱ぎ捨てて犯人を追えるようにと仕込んでいたのだが、先程の流れの中ではそのタイミングがなかったのだ。


「アルフォンス殿下、私は犯人を追います。おそらく、まだ城内に潜んでいると思いますので。明日の朝には、ディオンと共にガヤルドへ向かうので、それまでには戻ります」


 早口に言い置き、私は殿下が何か言うより早く、窓から飛び出した。

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