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星霜のイヴ ~希望の詩と絶望の永遠~  作者: 二神 秀
CHAPTER.1 イヴ・ユッド A計画途中報告
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§ 1―5 国議会



 レムリア王国は、9つの領土に分けられている。


 国の中心である主領アラド。その他8つは、農業・畜産・林業が中心のヘイゼル領、鉱産資源・エネルギー資源が豊富なキャラバ領、アフリカ大陸に近く、伝統文化が残るバルバライン領、食品加工業・工業が盛んなギルトック領、リゾート地として人気があるカイトール領、サービス業などの第3次産業が進んだマルクス領、水産業と手つかずの自然が多く残るセラティス領、極寒の厳しい環境で強制収容所などもあるレリア領。これら9つの領土の領主と王は『国議会』という国の最高機関として主要な政策を決定している。


 この国議会によって決められた政策を実行する行政機関は、大きく分けて5つある。警備局・市政局・外務局・産業局・技術開発局である。それぞれの局長は、国議会があれば、参考人として参加しなければならない。


 国議会は通常、年に1度行われる。また、緊急事態が起きたりすると、臨時ということで議会が招集しょうしゅうされる。



 アルバニア様が局長室を訪れて半年。アニスの地震波()()()相殺装置が実用化にいたるところまで来ていた。アルバニア様の尽力じんりょくもあり、産業局と合同でこの計画は膨大なコストをついやし、レムリア大陸全土の地中深くに装置を設置し、震災の対策ができるようにした。つい1週間前に起きた、ヘイゼル領のマグニチュード7.2の地震の際、地表では震度2までの揺れに抑えることに成功している。やっと念願がかない、今は次に向けて、気持ちの切り替えをしているところである。次はユッドが言っていた宇宙へ行く開発を進めることになるだろう。壮大なプロジェクトは胸を高鳴らせる。




   ♦   ♦   ♦   ♦




 今日は年に1度の通常の国議会が開かれる。朝から気が滅入めいっていたが、イリスが昨夜シャルナさんと一緒に作ったプリンがあるとのことで、それを食べたら気が滅入っていたことすら忘れてしまった。


「今日はいつ帰れるか分からないので、申し訳ないのでが、イリスのことよろしくお願いします」


「国議会ですものね。頑張ってきてください。またイリスちゃんと何か作ってみますね」


「それは嬉しいな。なるべく早く帰ってこなくちゃ」


 イリスが黒猫ニャルを抱えて、トコトコと近づいてくる。


「今度はユッドのお姉ちゃんにも食べてもらいたいな」


「話してみるよ。きっとお姉ちゃんも、イリスがお料理作ったって聞いたら、すっごく食べたいって思ってくれるぞ」


「うん。イリス、がんばってつくるからねー」


「お父さんも楽しみにしてるよ」


「ニャァー」


 愛猫ニャルもご相伴しょうばんにあずかる気満々だ。


 シャルナさんが、どこかあわてて荷物を手渡してきた。


「ささ、今日は遅れることはできないのでしょ? はい。今日はベーコンとアボカドのサンドイッチにしてみました」


「アボカドなんて随分と手をかけていただき、ありがとうございます」


「いえいえ、大変な日ですからね」


「いつも、いつも、本当に気遣いいただきありがとうございます。ありがたくいただきますね」


「はい」


「それでは、行ってきます。イリスのことよろしくお願いします」


「もちろんです。いってらっしゃい」


 横でイリスもニャルの手を取り、一緒に手を振る。


「いってらっしゃい、お父さん」


「うん、いってくるよ、イリス」


 と頭をでて、いつもの調子に部屋を出た。




   ♦   ♦   ♦   ♦




 国議会が行われる中央宮殿の周辺には、多くのマスコミが集まっていた。マスコミは苦手だ。取材やらインタビューやらで、研究の時間が減ってしまう。でも、今日は王や領主が主役なので、こちらには興味はないだろう。また、別のほうにはデモだろうか、市民の集団があった。持っているプラカードには「国外侵略、反対!」「貧富の差を是正ぜせいしろ!」などなど、ゼニス王の政治に対する抗議をしている。


 レムリア王国は大陸の外との交易、出入国を好まない風土がある。見つかれば、レリア領の強制収容所に罪人として送られる。


(国の外の世界か……)


 震災や砂漠化など諸所しょしょの問題は確かにあるが、自分にとって、特にこの国に不満はない。しかし、見たことない場所には引かれるものもあるな、などと思わないでもないが、調査・実験に比べれば、大して関心を引くものではないので、アニスにとってはどうでもよかった。



 議場に入ると、そこには円形のテーブルに10脚の椅子が用意されている。また、それとは別に机が用意されており、それぞれの局の局長や、議事録係、王の側近などが座る場所が用意されている。アニスは円卓に近い各局長たちが座る『技術開発局』と書かれた席に座り、王と領主たちが来るのを待った。



 9時30分になり、9人の領主が全員席に着いていた。最後にゼニス王が議場の入り自分の席につき、「それでは始めるとする」と、高らかに宣言し議会が始まった。


 領主たちはみな50歳以上で、ゼニス王が39歳。アニスは32歳なので、参加者から見たら生意気な小僧である。領主たちは紺やら黒のスーツ姿で、王は王位だけが着る白いスーツに王位継承者を表す階級章が左胸にジャラジャラと豪勢に飾られている。


 議会は、最初の立派な白い顎髭あごひげたずさえたヘイゼル領主スタークの一声から、いきなり緊張感をもって始まった。


「王よ、早速だが、国外に侵攻するとの報道があるが、この真偽をうかがいたい」


「……真実だ。何か問題でも?」


 場内がざわつく。王となり見るたびに威風が増すゼニス王の声色こわいろは、領主たちに更なら緊張感を与える。


「王よ。なぜだ。古文書にある『死の戦争』のことは知っておりますでしょうに」


「そんなもの、子供でも知っているぞ」


「『死の戦争』以来、このレムリア大陸以外の地域には、汚染物質が蔓延まんえんしており、一度体内に取り込んでしまえば不治の病になり、子孫にも影響するとのこと。実際、40年前の調査でも、それが事実である調査結果が出ているじゃないですか」


「40年も前のことを。それに汚染物質がある地域でも、疎密そみつの違いがあり、害をなさない地域のほうが多いとの予測結果もでている。そうであろう、技術開発局局長よ」


 確かに、その予測は副局長ガーラックの主導のもと行われており、計算結果を見れば、世界の60%近くは居住可能との予測が出ている。


 さすがに整えた髪型のアニスが立ち上がる。


「技術開発局局長のアニスです。確かに、副局長ガーラックによる予想結果では、今現在、陸地の60%以上で居住可能というデータが報告されています」


「うむ、そうだろう。時代は変わってきているのだよ、スターク」


「んむー……」


 次に、ふくよかで人当たりがよいと評判なギルトック領主ガイアスが発言する。


「王よ。水産物では依然いぜんとして、摂取せっしゅ制限の安全基準を超える回遊魚が発見されております。国外に目を向けるのは時期尚早なのではないでしょうか」


「それは知っているが、これについて、産業局の話を聞いてもらおうか」


 と言われ、いかにも堅物という風貌ふうぼうの産業局局長オラリアスが立ち上がり答える。


「昨年度の回遊魚の漁獲量で、基準を超えていたものは全体の0.076%で、30年前の0.153%に比べておよそ半分になっております」


 報告して座る。間髪入れずにゼニス王が言葉を続ける。


「このデータを見ても、0.1%を切っているのであれば、十分安全といえるのではないか。どんなに時間が経っても0%にはならないのだからな」


「んー……。左様ですが……」


「よいか、領主みなのもの。確かに外の世界には未だに脅威はある。しかし、それにおびえ、この大陸だけの狭い世界では、すでに飽和ほうわ状態になってきているのではないか? 災害や貧富の差など、多くの問題もかかえておる。だからこそ、新天地を開拓し、より豊かな国にしようじゃないか。これいかに!」


「そうだ!」


「そうだ、王の言うとおりじゃないか!」


 と、巨軀きょくのキャラバ領主ツヅガナと、切長の鋭い眼光のカイトール領の女性領主キエナが賛同の声を上げる。勢いそのままにゼニス王が続ける。


「先日、そこにおる技術開発局局長の成果により、震災被害を抑えられるようになった。長年、我らの国を悩ませていた震災から解放されたのだよ。砂漠化も降雨発生装置などにより抑えられてきており、緑化計画も進むであろう。国内の心配ごとが解消されてきている今こそ外に目を向けるよい機会ではないか」


 まさか、自分の研究成果をこのように使われるとは思いもよらなかった。平和を願って開発したものが、危険の呼び水になってしまっているのでは? と眩暈めまいを起こす。



 王に賛同した2人以外の領主たちは、発せられた言葉に異論を唱えることができず、神妙な顔つきで静観せざるを得ないでいた。


「まぁ、よい。このことは次の国議会にて決をとる。それまで、じっくり考えるがよい」



 この、王の唐突な、そして、国の方針を180度変える発言が、アニスにとって、なんともいえない胸騒ぎを引き起こしていた。



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