§ 3―6 調査艦ホルス
これが調査艦ホルスか。おれが見てきたどの宇宙船よりも大きい。色は白く、流線型のフォルムをしており、艦の真ん中を中心とする円環がある。マチルダが言っていたように、プラズマエンジンが8基と、その両側にデトネーションエンジンが2基ずつ計4基搭載されている。
マチルダが言ってたよりも速く、3週間で木星周辺宙域に着くらしい。後は、なんとか衛星イオに行くための小型船を奪取できるかが問題だ。木星に着くまでに、情報を集め、突破口を開くしかないな。決意を新たに、マチルダとメルと一緒に艦に乗り込む。
艦内での仕事の内容は、艦の点検がメインで、トラブルが起きればそれをチェック・修理する。同じような整備士は20人ほど乗り込んでおり、それぞれ個室が与えられていた。
仕事をしていて、すぐにマチルダの仕事ぶりには驚かされた。手際よく点検を済ませていく手腕は、若くしてルナテックの整備チーフを任されるのにふさわしく、メルも淡々と作業にあたる。いつか、ルナテックの輸送船で、また仕事が一緒にできればと思わずにはいられなかった。
途中、プラズマエンジンの1基にトラブルを示す警告音が鳴ったが、接続不良部位をマチルダが一早く探し当て、事なきを得た。マチルダの仕事ぶりを整備士全員が認めざるを得なくなっていた。
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出発して20日後。就業時間を終え、待機時間になったので部屋に戻ってくると、ドアに手紙が挟まっていた。マリアからだった。時間が合うなら話でもしよう、という内容だったので、DVR端末からメッセージを送り、次の日に彼女の部屋で会うことになった。
次の日、彼女のもとを訪れ、招かれた彼女の部屋に入ると、一匹の黒猫がいた。青い首輪にはニャルと名前が書かれている。
昔、彼女が野良猫にパンをちぎって与え、頭を撫でているシーンを思い出す。
そんなことを思い出していると、椅子に座っていたマリアが話し出す。
「こんにちは。アダム」
「あぁ。こんにちは、マリア」
ぎこちなく挨拶を交わす。座るように促されて、ベッドに腰を掛ける。
いざ話すとなっても気恥ずかしく、話題に困っていると、マリアから話しかけてきた。
「そっちの仕事はどう? 順調?」
「あぁ。大きなトラブルもなく、艦は順調に動いてるよ」
「そうみたいね。順調に進んでるって言ってたわ」
疑問に思っていたことを聞いてみる。
「マリアはこの艦で、何をしてるんだい?」
「あぁ、言ってなかったわね。私はロボットの開発担当なの」
「ロボット? そんなもの、木星調査に関係あるのかい」
「んー、わからないけど、到着するまでには仕上げてほしい、て言われてて……」
「ロボットかぁ……。昔、一緒に作ったよな」
「ハイスクール時代ね。なんて名前だったかしら」
「『ジャスティス3号』だよ」
「そうそう。センスのない名前だったわ」
彼女は思い出してクスクス笑っている。ちょっと笑った顔がメルに似ているな、と思った。
「あのときは楽しかったな……。好きなことを好きなだけできた……」
「今でもロボットを開発してるのだろ?」
「そうね……。でも、私が思っていたものじゃないわ」
「そういえば、昔は、もっと人の役に立てるロボットを作りたいって言ってたよな」
「そう……ね」
彼女は視線を落とし、儚げな顔をしていた。
「あなたはこの船に乗って、何をしようとしているの?」
唐突な質問だった。彼女が何を意図して、そのようなことを言っているのか判断に迷った。
「どういうことだい? マリア」
「いえ、なんでもないわ。忘れてちょうだい」
そう言うと、マリアは立ち上がり、机の引き出しから取り出した、キーカードを渡してきた。
「これは?」
「責任者用のパスカードよ。これを使えば、脱出用の小型船を起動させられるはずよ」
「どうしてこれをおれに?」
「なにかあったら、すぐにこれを使って、この艦から脱出して」
「マリア。何が起こるというんだ。マリア!」
「用はこれで終わり。もう帰って……」
マリアは強い語気で言い放った。手も足も小刻みに震えている。これ以上、何を聞いても無駄であることが解かる。ここに居ても気まずいだけだろう。
「マリア……。きみに会えてよかったよ」
「私はあなたに会えないほうがよかった……」
「……そうか」
去り際に、「ありがとう」とつぶやき部屋を出た。しかし、マリアは何を知っているんだ。もしかして、おれたちの目的を知っているのではないか?
この艦に乗って、もう狙われることはないと思っていたが、今一度、緊張の糸を張り詰める。




