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星霜のイヴ ~希望の詩と絶望の永遠~  作者: 二神 秀
CHAPTER.3 イヴ・ヨッドギメル A計画完了報告
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§ 3―1 開かれた扉



 西暦2331年。日本。



「本当に久しぶりだな……。おばあちゃん、元気にしてるかな」


 航空自衛隊を退職し、次の仕事が始まるまでの少しの合間に、静岡県御殿場市の祖母の家を訪れることになった。母からは、


「水面上昇の注意地域になったし、引っ越ししてもらうことになったのよ。ちょっと時間があるなら、荷物の整理をお願いできる? おばあちゃんもアダムに会いたがってたし、やることないなら、会いに行ってあげて」


 と、言われては仕方がない。ホントは休みの間、新しく出た『スペース・ジャーニー』というDVR(夢仮想現実)端末のゲームを楽しむつもりだった。とはいえ、母の言う通り、祖母にしばらく会ってないこともあり、電気自動車に乗り、祖母の家に向かっている。フロントガラスから見える富士山は今日も雄大できれいだ。


 建早の家は、結構歴史が古いらしく、科学者として大成した人が何人もいるらしい。おれの父も、すでに亡くなっている祖父も、大学教授や民間企業の技術者である。そういえば、子供のころ、祖母の家の夜空を見て、宇宙に興味をいだいたのが始まりだったかもしれない。宇宙という広大な海原を、星々を渡り旅してみたい。そんな夢をみていたからこそ、アメリカ留学を終えた後、防衛大学に通い、航空自衛隊の宇宙開発支援部隊ユニバーサル・フォースの一員として務めてきた。確かに、宇宙空間を演習や巡回で運航したが、もっと遠くまで宇宙を見てみたい。そんな思いにられていたとき、知人の誘いもあり、月資源輸送会社ルナテックに転職することを決めた。事業を拡大して、これから盛んになる火星からの物資輸送の人材が不足しているとのことで、より遠くの宇宙を運航できることに興味が湧いていた。



 車で2時間かけて、ようやく祖母の家に着いた。インターフォンを鳴らす。


「おばあちゃん、来たよ」


「よく来たねー、アダムちゃん。あがって、あがって」


 27にもなって『ちゃん』付けなのは、少し照れると鼻の頭をく。玄関を開けると、祖母が笑顔で出迎えてくれた。


「久しぶりねー。こんなに大きくなってー」


「久しぶり、おばあちゃん。元気してた? 3年ぶりかな」


「まだまだ元気よ。さぁ、さぁ、上がってゆっくりしな」


 そううながされて、変わってないなー、と思い床の間に向かった。



 祖母と話をしながら昼食を取り、「じゃぁ、そろそろ荷物の整理をするね」と軍手を持ち、敷地内にあるくらに向かった。


 荷物の整理をするのが目的で来たのだが、もう1つ目的があった。それは、蔵の中にある、開かずの金庫である。祖父母が知らないほど、昔から蔵にある金庫らしく、家庭用の冷蔵庫ほどの大きさで、6つの100メモリのダイヤルがある。祖父も父も何度も開けようと試みたらしいのだが、まったく開かなかった。業者にお願いしたこともあったが、業者ですら開けることができなかったとのことだ。自分も子供のころから、機会があれば解錠かいじょうに挑戦してきたが、全戦全敗をきしている。今度こそはと、子供のころと変わらぬ思いで金庫に向かう。



 蔵に入ると、前に見たときと変わらず、金庫がたたずんでいる。


「さて、取り掛かるとしますか」


 そう言って、金庫のダイヤルを触ると、一番上にあるダイヤルを一周させる。カチカチカチカチ……、カチャ! と今まで聞いたことのない音がした。「ん、なんだ?」と、これまでになかった感触に高揚しながら、レバーを動かす。すると、今までうんともすんとも言わなかったレバーが動いた。開くぞ! と鼓動こどうが高鳴りつつ、金庫のレバーを引いて扉を開ける。


「なっ!」


 人間は本当に驚くと声も出ないものだ。金庫の中には人間が座っていた。赤い髪に赤いイヤリングをして、それ以外は何も身に着けていない女性だ。信じられない光景に、しばらく身体を動かせず、眺めることしかできない。ピクリとも動かずに彼女は笑顔で眠っている。いや、息はしていない。


 まじまじと眺めていると、金庫内に封筒を見つけた。恐る恐る封筒を手に取る。封筒には何も書かれていないが、中に手紙と、何か小さなものが入っているのが解かる。手紙を読めば、何か解かるかも。と、丁寧に封を開ける。中には便箋が2枚と濃いオレンジ色の宝石がついたイヤリングが入っていた。


 便箋を取り出し、読んでみる。



『 これを見た人は驚いていることだろう。


 この金庫は2320年8月4日以降でなければ開かないようにしてある。それまで壊されていないことを祈るばかりだ。


 金庫内にあるロボットはヨッドギメルという名前で、壊れてしまっている。


 できることなら直してもらえないだろうか。そして、彼女の願いである宇宙に連れて行ってもらえないだろうか。彼女には返しきれない恩義がある。


 勝手なお願いだが、せつに、彼女が宇宙にいけることを願っている。

 

 建早アキト、薫 』



 1枚目の便箋を読み終える。


 ロボット? 何を言っているだ。こんな人間そっくりなロボットなど存在していない。人間にしか見えない。困惑しながら、もう1枚の便箋を読む。



『 メルへ

 

 きみには、どれだけ言葉を尽くしても感謝しきれない。本当にありがとう。


 ウイルスを守ってもらい、おれや薫の傷を治し、薫のお母さんの治療薬まで用意してくれたこと。直接、感謝を言えないことを許してほしい。

 

 300年後の世界は、きみの願いが叶う世界だろうか。指輪を買いに行った帰り道で言った借りを返すことはできているだろうか。きみの望みが叶うことを心の底から祈っている。


 あと、きみには感謝の意味を込めて、インペリアルトパーズのイヤリングをプレゼントさせてほしい。石言葉はきみなら解かると思う。おれと薫のきみへの思いを込めて贈らせてもらう。


 最後に、メルの料理、ホントに美味しかったよ。


 建早 アキト


 P.S. おかあさんの治療薬、本当にありがとう、メルさん。


 飯村 薫  』

 


 これはこのロボットへの手紙なのか? ウイルスを守る? 300年後の世界? 


 何をとっても意味が理解できなかった。しかし、()()の苗字から何代か前の先祖なのだろうと推察する。頭が混乱しているが、メルというこのロボットが、本当に人間ではないかを確認してみる。


 明らかにきれいな女性にしか見えないが、乳房に乳首がないのと、股の間がツルツルなのが、人間ではない様子を表している。肩のあたりを触ってみると、人間の感触と同じように感じる。


 ゆっくりと金庫の中から引きずり出し、背後を見てみると、2つの穴が空いており、穴の周辺の肌がめくれている。2つの穴の周辺と穴の奥を見ると、機械のような金属が見えていることで、確かに人間ではないだろうことを、ようやく認識することができた。手紙で書いてあることが本当なら、金庫の中に300年以上いたことになるわけだから、人間であるはずがない。おれはこのメルというロボットに興味を持ち、なんとしても直してみたくなった。



 祖母に、『建早アキト』『飯村薫』という名を聞いてみても、わからないと言われた。金庫が開いたことや、中にあった女性のロボットのことは、話すと説明が面倒だと思い、こっそり車に乗せ、急用ができたからまた来るね、となかば強引に帰ることにした。



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