§ 1―11 報われぬ思い
銃声が鳴り響き、アニスの脇腹に痛みが走る。
「うぅ……。アニスよ。大丈夫かぁ?」
アルバニア様が膝をつき、傷口を押さえながら、こちらを見ている。
「ぅうぅ……。なんとか急所は外れたみたいです。くぅっ」
銃声のしたほうを見ると、ゼニス王が執念と呼ぶには生ぬるい形相でこちらを見ている。
「止めさせはしない……。私が、父を超える王になって、兄より優れていることを証明するのだ……。がはっ」
話し終わると同時に、力尽きたように地に伏せた。最後の力を振り絞ったのだろう。
「最後まで救われぬ息子であった……」
アルバニア様の涙がまた溢れている。どんな息子であろうと、親としてかわいい子供であるのは当たり前のことだ。
「うぅ……。なんとか、大陸外側にある30機の装置を、同時に作動させます。そうすれば、この大陸だけの被害で留められそうです。うぅ……」
脇の痛みに堪えながら、パネルを震える手で操作する。
「作動準備はできました。クッ。後はボタンを押すだけです」
「アニスよ。済まなかったの……。お前につらい思いをさせる人生を歩ませてしまった……」
「アルバニア様。私はあなたに感謝しかしていませんよ。エリサに会えた。イリスと暮らせた。こんな私が人並みの幸せを感じることができました」
「ふ……。アニスよ、ありがとう」
「……お世話になりました」
アニスは、ボタンを押した。
大陸中がさらに大きく、激しく揺れる。人々は逃げ惑うが、逃げる場所などなく、ある者は倒壊した建物の下敷きになり、ある者は大地の裂け目に落ちていく。全てが壊れていく。消えていく。
出血による眩暈のなか、最後の瞬間、アニスは呟く。
「君の愛した世界を、イリスを、守れなかった……。ごめんよ、エリサ」
横で少し微笑みながら、時が止まっているアルバニアを見ながら、アニスの意識は消えていった……。




