§ 1―9 盲目な欲望
腹を撃たれ、倒れこんでいるガーラックが、ゼニスに必死に呼びかける。
「うぅぅ……王よ。助けてください。私を局長にしてくれるとおっしゃったではないですか。はぁはぁ。あんな若造じゃなく、わたしこそが局長になるべきなのです。うぅ、ゼニス様……」
ゼニスはガーラックを見下ろし、胸元から拳銃を取り出し、その銃口を向ける。
「はぁ……おまえはホントに使えないな、ガーラックよ。おまえが局長だと? 器ではないことが解からんのか!」
と吐き捨てると、銃声が鳴り、躊躇なくガーラックの額を撃ち抜いた。
アルバニアはその様子に悲痛な顔になる。
「おぬしに王位を任せたわしの責任じゃのう。わしの手で、おまえを殺し、責任をとろう」
その言葉は、王としての威厳とその奥にある悲しみも同時に感じさせる。
「父上。今の王は私なのです。あなたは兄上を王にしたかったのでしょうが、私にも王が務まるところを見せてあげます。兄などではなく、私こそ、私こそがこの国の王にふさわしいのです」
「お前……まさか……」
「やっぱり疑っておりましたか。そうですよ。私がキャラバ領でツヅガナを使って兄を殺させたのですよ。ガーラックに局長の座を餌にして、事故調査を誤魔化してね」
アルバニアの目元が震えていた。
「……なぜ、ツヅガナがお前の言うことを聞くのじゃ」
「はっはっは。あやつは自分のキャラバ領の資源が取り尽くされ、もう資源が残ってなかった。違法に北にあるバルバライン領の地下を掘削しまくって資源を必死に集めていたんですよ。だからね、あいつから提案してきたんだ。兄を暗殺する代わりに、外の国での採掘権をよこせとね。あいつは密入国者をかくまい脅し、暗殺者として仕えさせていましたからね」
アルバニアは銃を構えた姿勢のまま、涙を流していた。
「……おまえをそうしてしまったのは父の責任じゃな……。すまぬ、ゼニスよ」
と言い終わると同時に、銃声が2つほぼ同時に鳴り響いた。
「がはっ……ぐ……ぐはっ……」
ゼニスは腹を撃ち抜かれ、倒れもがき苦しんでいる。一方、アルバニア様は姿勢そのままに、左脇から血が噴き出していた。
「アルバニア様! すぐに手当てを!」
「よい。アニスよ。まずは地震を止めるのじゃ」
「しかし……」
「ぐふっ……。わしはどうせ病で先がない。1人でも多く救うために、早く地震を止めるのじゃ」
その言葉には、何者をも従わせる圧があった。口元からも血が滴る。それでも表情を変えない。これが本当の王の威厳なのだ。
「クッ。アルバニア様、わかりました」
撃たれた腕の痛みを忘れ、すぐに操作パネルに歩み寄り、パネルを操作し出す。
そして、アニスは愕然とする。
「そんな……深すぎる……。なんてところで作動させたんだ」
ヘイゼル領で作動させた地震波反位相相殺装置は、この地のプレートの奥深くにまで達していた。そんなところで作動させたものだから、大陸プレートの動きが活発化され、さらなる地震を誘発させる。このままではヘイゼル領だけでなく、レムリア大陸ごと地下に沈み、プレートへの影響から、全世界に地殻変動が生じてしまうことをアニスは理解し、驚愕する。
「アルバニア様。このままではレムリア大陸だけでなく、全世界で地殻変動が……」
「それほどなのか……、アニスよ」
「はい、残念ながら……。で、ですが、装置の出力を最大限にして大陸外側の装置を振動させれば、レムリア大陸だけの被害で留めることができるはずです」
「そうか……。それしかないなら、そうするのじゃ。アニスよ。全世界を巻き込むことはできぬ。お前が恨まれることではない。わしが王族として、すべての民の恨みを引き受けるよ」
「そんな、アルバニア様……。私も一緒に背負います。この装置を作ったのは私です。子の責任を負うのは親の責任ですからね」
「ふ……。寂しくなくて助かるわい」
そのとき、一発の銃声が鳴り響いた。




