冒険者になったから装備を整えるよ!
やあ僕は転生者。死んだら女神様に転生して冒険者になってねって言われたからやってみるよ。
「健康で高い身体能力を持った肉体を用意しますね。便利な魔法能力もオマケして。はいこれ支度金」
「わーいどっさり。ありがとう女神様」
というわけで、頑張ってねぇ~という声を背にファンタジーな異世界に送られたんだ。
早速冒険者登録をしてから、いざ装備を整えようと適当に目についた鍛冶屋さんのお店に入ることにした。
「すいませーん。装備が欲しいんですけどー」
「おういらっしゃい。何にするんだ?」
「えーと鎧下とバイザーの視界がなるべく広いアーメットヘルムとチェインアーマーとチェインレギンスとチェイン装備の上から着れるハードレザーのアーマーとガントレットとポレインとグリーブとあとレザーのグローブとブーツとブーツの上から装着できるサバトンください」
「お、おう。……あー鎧下は冒険者用の仕立て屋で買ってくれ。グローブとブーツも」
ちょっと早口になっちゃったけどちゃんと伝わったらしい。流石プロ。
「わかりました。それと武器はパルチザンとショートソードとダガーをください。これお金」
「ああ。まあ、わかった。待ってな」
全身くまなく防御できる防具って最高だよね。
チェイン装備で上半身は首周りから手首、そして股間と膝上までカバー。
下半身は太い血管のある大腿に、足首のアキレス腱まで守れちゃうのだ。
ハードレザーは胴、肩、腕、膝、脛と、内臓や骨の要所の守りを補強するために是非欲しい。
鎖帷子で斬撃を、ハードレザーで打撃を特にガードできるから重ね着がベスト。重ね着だけに。
板金鎧なんてフリューテッドでも重すぎるし動きにくいから効率重視ならこっちでしょ。
ただし頭と首の防御だけはアーメットで堅牢にしておかないと。丸々全部が急所なんだから。
武器は消耗品、防具は財産。こだわりを持たなくちゃね。
とはいえ武器も使い勝手のいいものを選ばないと。やっぱ槍だよ槍。
槍を持たずに戦いに出ちゃあ朝倉宋滴に呆れられちゃうよ。
刺す、斬りつける、柄や石突で殴る。リーチもあるし足で踏ん張って力も入れやすい。
人類が古く原始時代から愛用してきた最良の武器。それが槍さ。
特に好きなのがパルチザンだね。
槍の中では割と短めなんだけど長槍なんて数をそろえて戦で使うもんだし狭い所じゃ使えない。重いし。
こちらは斬ることを想定した穂先に、刺さり過ぎ防止のための弧を描いた枝刃がとても良い。
押したり引いたりして引っ掛けるように斬れるし、攻撃を受け止め防御にも使える。実に機能的なのだ。
で、ショートソードとダガーはサブウェポンね。片手で使える取り回しの良さだけで選んでみた。
買い物を済ませ、仕立て屋にも行って装備を整える。
リュックに携帯食料や一人用テント、道具屋でおすすめされた冒険道具を入れて準備は万端。
「よーしやるぞー! 冒険の始まりだー!」
意気揚々と冒険者としての第二の人生のスタートを切ったのであった。
一年後。僕は再び鍛冶屋さんのお店を訪れていた。
あれからちょくちょく顔を出して装備の補修を頼んだり手入れのアドバイスをもらったりしているのだ。
だが今日はそれとは違う、ある相談をするのが目的だった。
「もう砂の入った盥にチェイン装備を入れてジャリジャリかき混ぜて錆び落としする作業は嫌っす!」
「あーあれ面倒くさいよな」
鎖帷子を使っている以上宿命ともいえる整備の大変な部分だ。これ一日仕事だから。
錆びたままにしとくと耐久度がガタ落ちしちゃうから、どうしても砂で研磨してこそぎ落とさなくてはいけない。
さらに言うと自分の場合は、ある事情から普通に使うよりも錆びやすい環境にあった。
その理由は女神様にもらった魔法の力。その一つ、浄化魔法にある。
これすごい便利なやつで、使うと身体中の汚れや汗、体内外の老廃物に排泄物、身体に良くない菌や微生物を取り除き消滅させてくれるのだ。
つまり身体を拭いたりしなくていいし、トイレに行かずに済む。汚れと無縁でいられるというわけ。
それがあまりに楽で、ついつい鎧を脱ぐのが面倒になってしまった。
寝る時も野宿だけでなく宿に泊まる場合ですら着たままで就寝してしまうことが多々あった。
そのせいで寝汗をかいて就寝中ずっと汗の塩分が帷子に染み込み、錆びやすい状態が続いてしまっているのだ。
まあ脱いで寝ろよって話なんだけど。
でも結局どう気をつけても錆びるもんは錆びる。
というわけで錆び落としが厄介なので、良い方法はないかと聞きに来たという次第である。
「あとアーメットヘルムも日光で熱くなるから大変だよ。夏はマヂ地獄でした。……はあ~なにか錆びなくて熱くならなくて丈夫で軽い金属があればなあ~。それでチェイン装備できればいいのに」
「あるぞ」
「あるの!?」
言ってみるもんだ。光明が見えてきた。
「ミスリルって金属なんだが。錆びず、熱を遮り、軽くて丈夫でついでに魔法への耐性も少しあるって優れもんだ。素材さえあればなあ。俺にも加工することはできるんだが……」
「ここには無いの?」
「ああ。ヤディオス坑道にあるって話だ。でも巨大な芋虫みてーな怪物、ドールの住処になってからは誰も近づけねえんだ。手に入れるのは無理だろうな」
光明が差したと思ったら素材の在り処が光の届かない暗い坑道の中だったでござる。
だがそれで引き下がるこの僕ではない。
「よし! ちょっとそこへ行ってミスリル取ってくるよ!」
「お、おい! よせよ! 名うての冒険者も帰ってこなかったんだぞ! 死んじまうぜ!」
「だいじょぶだいじょぶ。こう見えて結構強いんだから。じゃあ行ってくるから、兜と帷子の加工よろしくね! ウオォ腕が鳴るぜえ!!」
そうして僕は鍛冶屋さんの静止を振り切って、スッタカターっと坑道へと向かったのであった。
何日か経った。鍛冶屋さんは余計なことを言ってしまったとあれからずっと後悔しながら心配していた。
「あいつ大丈夫かな……」
「帰ったよー」
「うお!? 生きてたのかお前!?」
失礼な。古典的だが足もちゃんとあるよ。帷子と足甲で守っていたからね。
「はいこれミスリル。ありったけ持ってきたよ。ドールも群れで襲ってきたけど返り討ちにしたよ」
テーブルの上に置いた袋の口を開けて、ごろごろ所狭しと入っているミスリル鉱石を見せた。
「おおお! 本当に持ってきやがったのか! よし任せろ! 俺様が腕によりをかけて格好良い兜と鎖帷子を作ってやるぜ!」
鍛冶屋は久々に拝んだミスリルの輝きを目にしてやる気満々だ。
「ちょっと待った。これから作るその兜を塗料で黒く塗ってくれないか?」
だがしかし、ここで僕からの物言いが入る。
自分としても新装備に対してはいくらか注文を付けたい気持ちがあったのである。
鍛冶屋さんはかけっこで全力スタートしたら転んだみたいな表情になってこっちを見た。
「お前、塗りたいのか?」
「へへっ。その通りだよ」
「あ、あのな。ミスリルってのはこの光沢が美しいのが魅力でな……。お前帷子の上に薄手の服着てるから、ミスリル使ってるの兜くらいしか周りに分からないじゃねえか。ミスリル製の武具は職人の腕を披露する絶好の機会なんだぞ? それをお前……」
帷子の上に服を着てるのは日光で熱くなるのを防ぐためと消音のためだぞ。
つまり利便性を考えてのこと。当然兜に関しても同様の判断をする。
「うん。それは分かるけど光が反射してこっちの位置がばれると不利だから。黒くして目立たないようにしたいんだよ。それと余計な装飾は要らないから。防御効果だけ高めておいて。あ、色落ちしないように樹脂塗ってコーティングもお願いね」
鍛冶屋さんはすごくがっかりして肩を落としながら奥の作業場へと引っ込んでいった。
こうして新しいアーメットヘルムとチェインアーマー、チェインレギンスが手に入った。
前より軽くてすごい楽。何気に帷子の鎖の目が細かくなっているところが嬉しい。
これならレイピアとかでも貫けないんじゃないかな。職人の確かな技量を感じる丁寧な仕事だった。
新装備を手に入れると気分がいいなあ。
なにやらボヤいている鍛冶屋さんを尻目に、ウキウキとお店を後にする僕であった。
またしばらくして。
「そろそろもっといい革の防具が欲しいよ」
「そんなもんお前。強力な魔獣や幻獣の皮でもなけりゃ難しいだろ」
「よし! じゃあ行ってくるよ!」
「おいおま……!」
言うが早いか店を飛び出し、僕は魔獣狩りに乗り出した。
それから一月後。
「皮持ってきたよー」
「マジか……これ皇帝キマイラの皮じゃねえか。噂でしか聞いたことねえが、どんな刃物も通さず魔法も効かないって話だったはず。一体どうやって仕留めたんだ?」
「口の中に槍突き立てて、そのまま心臓貫いたんだよ。二つあったから二度もやらなくちゃあいけなかったけどね」
はあーっと感心する鍛冶屋さん。どんなもんだい。
「よーし! 任せとけ! 今度こそ世に二つと無い格好良い革鎧を作ってや……」
「あ、待った。見た目は普通の革鎧に見えるようにしてくれない?」
鍛冶屋さんはすげえショックを受けたらしい。
朝に今晩はあなたの大好物を作るわよって聞かされて一日それを楽しみにしていたら、実際に出てきたのは大嫌いなナスとかだった時の顔をしている。
「な、なんで、そんな」
「いやあ悪目立ちしたくなくて。自分ソロだから変なのに目を着けられて絡まれると厄介だし。上等そうに見える装備してると無理やり奪おうとするやつもいるかもしれないじゃん。そういうわけで」
意気消沈。口から魂が抜けているのが見えそうなくらいに落ち込んでいる。
滅多にお目にかかれないであろう素材を好きにいじれる機会を奪われたのだ。悔しかろう。
悪りい。今回はニーズに合わなかったということで。
ともかく鍛冶屋さんのやる気を墓地に送り新装備をドローした。
前より圧倒的に頑丈で、攻撃魔法をほとんど無効化する上に浄化魔法や回復魔法は効くという便利さ。
さらにはおそらく車が突っ込んできても無傷でいられるほどの高い衝撃吸収能力まで備わっている。
おまけに前は無かったコーターやタシットも追加され、動きにくくならないように調整もしてくれた。
これで自分の防具は万全だ。どんな敵が出てもへっちゃらだろう。
「というわけで今度は武器が欲しいんだ。強い魔物とかを相手にパルチザンも最近じゃほぼ使い捨て状態だし、もっと強力な素材で槍とかを作りたい」
「だがもうこれ以上はないぞ。あるとしたら伝説の金属オリハルコンくらいのもんだが」
「よし!」
「おい待て!! あくまで伝説で、おとぎ話の類だぞ!!」
と言われても走り出した僕を止められるものはないんだよなあ。
今まで冒険で出会った物知りそうな知り合いを片っ端からあたってみることにした。
そして三か月後。
「オリハルコン、ゲット致し御座候」
「し、信じられねえ……。こいつが現実にあったなんて……」
「天空の城へ行ってそこの玉座にいたドラゴンぶっ殺して奪い取ってきたよ。スカッとした」
あの屑竜、偉そうに魔王倒せとか上から目線で言ってきたからクソムカついたんだよな。
駆除できて心から気分がいいわ。
「う、うおおお……。よっしゃ! ここまでされて出来ませんじゃ職人の名折れだぜ! やってやる! やってやるぞ! 世界最高の武器をこの手で作り上げてやる!!」
「おおー。がんばれー」
「見てろよ。武器としてはもちろん、芸術品としても城が建つくらいの価値まで高めてや……」
「あ、そういうの要らないから。見た目は普通のパルチザンみたいにして」
鍛冶屋さんはこの世の終わりみたいな顔をしている。
例えるなら仲間たちが怪物共に皆殺しにされ主人公もまた囲まれピンチに陥っているような状況。
いやそれ以上にあの漫画が未完のまま連載終了あああああああああああああああああああああ。
失礼。取り乱した。
「おい……おい! 頼む待ってくれ! こんな機会はもう一生無いんだ! 職人の夢なんだ! 一世一代の、全力で趣向を凝らしまくった装飾とかをしたいんだよお! 後生だから!」
「だーめ。その分重くなるでしょ。機能的じゃない装飾は要りません」
「……チ、チックショォーッ!!」
鍛冶屋さんは号泣しながら奥の作業場にダッシュして行った。
職人の夢は犠牲になったのだ。効率好きの僕の要望、その犠牲にな。
まあなんやかんやあって念願のオリハルコン製パルチザンとショートソードとダガーを手に入れたぞ。
柄や鍔もオリハルコンだけど見た目では分からないように塗料と樹脂でカモフラージュしてくれたし。
自分の手に馴染みやすいように握りも細かく調整してくれたんで使い心地抜群だ。
流石腕前は間違いなく一流の鍛冶屋さんだ。頼んで良かった。
まあ僕が新しい武器の試し斬りに冒険に向かう頃には魂の抜け殻みたいになってたけど。
ありがとう。ちょっくら魔物を三桁ほど仕留めてくるね。
「あいつしばらく顔出さないけど、どうしたんだろうな」
オリハルコン武器を作ってから四か月の月日が経っていた。
「まあ来られてもなあ。客足が伸びるような見栄えのいい装備は作らせてはもらえねーだろうし……。ま、あの装備と、素材を用意できるだけの実力があるんならな。滅多なことでは死にそうにもねえか。大丈夫だろ」
ふと、外の喧騒を静かな店の中から眺めていて、ある意味面倒な注文をつける珍客のことを思いだした。
というのも最近国は大変な好景気で、どこもかしこも騒がしいのだ。
魔王が、討伐されたのである。
冒険者の中でも指折りの実力者が単身魔王に挑み見事これを仕留めたというのだ。
稀代の英雄の誕生に国中の誰もが浮かれまくっている。
「魔王を倒した勇者、か。あいつに作ってやった装備だって、魔王ぐれえ倒せそうな上等なもんだったのによ。もしかしたら、あいつだって勇者になれたかも。なんてな」
あの仕事は確かに自分が望んだとおりにはできなかったが、手を抜いたつもりはない。
自分の職人人生の中でも最高の仕事をしたはずだ。
思い入れだって普段の武具作りのとき以上にいっぱいあった。
だからだろうか。もしも自分が鍛えた武具で、あいつが魔王を倒してくれたなら。
自分は勇者を助けたんだぜって、心の誇りにできるかもしれない。
そんな益体もない、妄想に過ぎないと解っていることを、鍛冶屋さんはついつい考えてしまっていた。
ガチャリ。店の扉が開かれる。思考を中断し、客の方へと顔を向けた。
「魔王倒してきたよー」
そこにいたのはあの面倒な注文をつける冒険者。
ミスリルの兜に鎖帷子、皇帝キマイラの革鎧を身に纏い、オリハルコンの槍と片手剣、短剣を装備した男。
つまり僕が現れた。
「魔王を、倒した!? じゃあ町で騒がれてる勇者ってのは、お前なのか!?」
「そうだよー。作ってもらった装備でぶっ倒したんだ。流石オリハルコン。何体魔物倒しても刃こぼれ一つしなかったよ」
それでついつい戦い続けちゃって、魔物の領域に深入りしちゃったんだよね。
せっかくだから魔王殺っとくかーって、そんな夕飯に一品付け足すみたいなノリで倒しちゃった。
「はああ……。いろんな素材あっさり持ってくることに毎度驚かされたが、今回のことが一番肝をつぶしたぜ」
「すごいでしょ。まあそれでね、城に招かれてたっぷり賞金も貰って、お姫様と結婚しないかって持ち掛けられちゃった」
「そいつはよかったじゃねえか。王様も気前がいいな」
まさしく英雄譚の締めくくりに相応しい話だ。
勇者は姫と結ばれて幸せに暮らしました。この上ないハッピーエンドといえる。
「断ったけどね」
「なにい!?」
この瞬間僕が勇者になったって聞いた時以上に鍛冶屋さんは驚いたんじゃないかな。
「なんでまた……っ! こんな機会二度とねえぞ!」
「まあ他に好きな人がいたからね」
「そうなの、か?」
「うん」
さあここからが大変だ。なにせ自分の心を守る防具は無いんだから。
僕にあるのはこの武器だけだ。
「鍛冶屋さん。貴女が好きです。僕と結婚してください」
「……。えっ……」
そうそう、そういえばここまで一言も言ってなかったけど。
鍛冶屋さんは、女、なんだ。
しかも僕とそう年も変わらないくらいの。二十前後かな。
男勝りな言葉で話す俺っ娘なんだよ。
なんで女一人で鍛冶屋やってるのって聞いたんだけど。
先代の父親が急死したから店を守るために、だって。
男の口調なのは鍛冶の腕前を他人に舐められないようにした結果だそうだ。
まあなんだ。店を守るために派手で良い武具作って宣伝したかったんだろうと思う。
地味なやつばっかり注文してごめんね。と、心の中では謝っておこう。今更だけど。
「俺で、いいのか? こんながさつで、可愛げなんかない俺で……」
「鍛冶屋さんはかわいいよ。ずっと君のいいところを見てきたんだ。僕は、貴女がいいんだ」
「あり、がとう。……はは、なんだろう。なんだか、すごく、胸がいっぱいだ……」
大粒の涙をぽろぽろ流し、顔を赤くして泣き笑いを浮かべている。
一国の姫君より貴女を選ぶという殺し文句は、どうやら効果があってくれたようだ。よかった。
まさか鍛冶屋さんのがっかりした時の顔が好きだったからとは口が裂けても言えないな。
気合を入れてやる気に満ちた顔が絶望に染まる。たまらない表情をするんだもん。
僕ちょっとサドっ気あってごめんね。まあ結婚したら大事にするから。
鍛冶屋さんはしばらく泣いた後、涙をぬぐってこっちを見る。
……泣き顔もいいな。はっ、いかんいかん。
「嬉しいよ……。でも、お前も物好きだよな。こんな流行らない鍛冶屋なんかに来ようだなんてよ。毎日暇で、つまんないかもしれないぜ?」
「ああ、それは大丈夫」
「えっ?」
その時外からドドドドーッとまるで滝のような足音がこの店へ向かって響いてきた。
そして扉が勢いよく開かれて、店の中に何人、何十人と人の波が流れ込んできた。
「な、なんだあ!?」
「ここが勇者の武具を鍛えたっていう鍛冶屋か!?」
「俺の剣を鍛えてくれ!!」
「いや私に防具を売ってちょうだい!!」
慌てふためく鍛冶屋さんはこの店始まって以来一度も経験したことのない、合わせて百足にもなろうかという客足にどう対応していいか分からなかった。
「おい! なにがどうなってるんだよ!!」
「なあに。僕の武具を鍛えたのはこの店だってあちこちで宣伝しておいただけさ。これからは忙しくなるね」
僕からのささやかな結納品だよ。この広告効果、受け取ってね。
鍛冶屋さんはこれから始まる地獄の労働ラッシュ、修羅場を想像して顔を青くしている。
ああ、なんて、なんていい表情するんだ。
結婚してよかった。これからよろしくね。
「今夜は寝られないぞっ」
「うるせえよっ!!」
これにてめでたくハッピーエンド。主に幸せなのは僕の方だけどね。