9 増築
フェンネルさんの体が淡く光をおびているように見える。
窓が開いているわけでもないのに、優しい風に揺れるように、髪がなびく。
ミシ…ギシギシ……パキッ…
部屋の天井がメキメキと音を立てて成長している。この家自体もフェンネルさんが魔法で作り出したものだったんだ!
2階には木製の螺旋階段を登ってきたんだけど、枝がどんどん伸びてきて階段の続きを作り始める。
3階を作ってるんだ…上からもいろんな音がする。
ほんの数分の事だったと思う。フェンネルさんが、ほぅと息を吐いて杖を下ろした。
「さぁ、これでいいでしょう」
「お部屋、増えちゃったんですか!?」
魔法を使って増築とは…恐れ入りました。
光る水晶の入ったカンテラを持ってさっそく3階に上がるよう勧めてくれる。ちなみにこのカンテラもフェンネルさんが植物で作ったらしい。光源が石だから、木製でも大丈夫だね。
3階は2階と同じ間取りのようで、1つが私の部屋、もう1つはまた何かに使うだろうってとりあえず作ったみたい。
そしてここにも素敵なバルコニー!!
「えっ、ベッドがある!!」
なんと部屋の中にはベッドと、テーブルと椅子のセットがあった。床から生えてるから、備え付けってやつだね。
ベッドは蔓が幾重にも編まれてできていて、中は空洞。でも頑丈にできていて、安心して眠れそう。
テーブルは大きすぎず小さすぎないベストサイズ。イスは居間にあったのと同じ三本足のやつだ。可愛いなぁ。
「とりあえず最低限の家具は作りましたけど、また増やしていきましょうね」
「ありがとうございます…こんなに良くしてもらって…」
「いいんですよ。いきなりこちらの世界に来て大変だったでしょう。少しでも気持ちが落ち着けるといいんですが…」
「そう、ですね。でも木に囲まれているとなんだかリラックスできそうです」
「良かった。ご家族も心配してるでしょうし、エルフの里に連絡を入れて帰れるのか…情報を集めますね。それまでのんびり過ごしてくださいね」
あ、その辺のことを説明してなかった。
「あの、私はあちらの世界に家族はいないんです。いえ、いるんでしょうけど、私は孤児として生きてきたものでして…なのでですね…このままこちらで生きていこうかと!思ったりしていて。生活の目処がたつまでで大丈夫なので、ここに置いてください…」
最後の方は声が小さくなってしまう。
「……珊瑚さんがそれでいいのなら、私の方は何の問題もありませんよ?そうとなれば部屋をしっかり整えないといけませんね!」
フェンネルさんがムンッ!と何やらやる気を見せている。
「誰かと一緒に暮らすのは随分と久しぶりで、なんだか楽しいです。好きなだけ居てくださいね」
そう言ってもらえると、迷惑をかけるばかりでは無いんだと思えて嬉しいな。
寝具の予備があったはず、とフェンネルさんはいそいそと下に降りていくのだった。
そうそう、居間にあった三本足の椅子は床とくっついてなかったのを気になって聞いたら、移動させたくてノコギリで切り取ったんだって。
意外と豪快な所あるのね………
そろそろ物語が大きく動き始めます。
読んでいただきありがとうございます!