表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の瞳  作者: yohna
54/180

54

 客人二人がリフェノーティスの家にやってくると、ヴィーゴは奥にあるリフェノーティスの部屋へ行き、セレナは長旅だったということで湯を使った。

 その間にエストと有希は夕食を作り、あっと言う間に晩餐の時間になった。

 リフェノーティスは初対面の有希の為に二人を紹介してくれた。

 ヴィーゴ・コロとセレナ・ビューテント。二人はリフェノーティスと同じくリビドムに仕えていたらしい。

 セレナは黒の騎士で、ヴィーゴと契約しているらしい。右手には黒い指輪がはまっていた。

(あぁ、色号と同じ色の指輪なんだ……)

 有希の指輪は紫で、ティータ達の指輪は茶色だったと思い返すと、心臓の辺りがきゅっと痛んだ。

「それで、早速なんだけどユーキを連れてってくれるわよね?」

 五人で小さなテーブルを囲みながら食事を終え、エストが食後のお茶を入れているとリフェノーティスが言った。

 食事をしながら、かいつまんで有希の話も済んでいた。

「んなこと言っても、どうせ連れて行かせるんだろ?」

 そう言ってヴィーゴはコップをあおる。一人だけ酒を飲んでいるので、吐き出した息に酒気が混ざる。

「まぁね」

 そう言って笑うリフェノーティスはどこか砕けていて、あぁ、仲良しなんだなぁと見ていて思う。

「私は大賛成よ! 愛する人の為に危険を顧みずに行くだなんて、どうしようもなく無謀だけど良い話じゃない」

(愛する人って言うわけじゃないんだけど……しかもさらっと無謀って)

 セレナの左手はずっと有希の頭の上に乗せられている。常に有希の頭を撫で続けている。

「セレナ、あなたほんっとうに人の話聞かないわね」

「あら、私ちゃんと聞いてたけど?」

 リフェノーティスが溜息をつく。タイミング良くエストがリフェノーティスの前に紅茶を置く。湯気と共に馨しい匂いが立ち込める。

「とにかく、私は賛成。ヴィーゴは?」

 セレナに睨まれたヴィーゴは、のんびりと酒を飲んで、有希を見た。

「俺達は今から、リビドムを回って薬を配る。だから遠回りをすることになる」

「うん、わかってる」 

 間髪入れずに返事をする有希に、ヴィーゴの片眉が上がる。

「いい返事だ。――だがな、わかってるか? それは十日熱の蔓延しているところに行くって事だ」

(十日熱……そうだよね。リフェが薬作ってたもん。それを配るのが、この人たちの目的だもんね)

「それも、わかってる」

 きゅっと唇を結ぶ。

「わかってねぇな。お前さんが十日熱に掛かるかもしれねぇっつってんだ」

(あ、そうか)

 死に至るかも知れない病が蔓延しているところに、のこのこと赴く。そういうことだ。

「セレナは騎士だから掛からん。まぁ掛かってもそんなにたいした事じゃない。ちなみに俺は昔掛かって生還したタチだ。二度と掛からん。だから俺たちはそういう死地に向かう事ができる。――お前さん、十日熱に掛かった事は?」

(おたふくと水疱瘡と麻疹は……って、関係ないか)

「……ない」

 はぁ、とため息が聞こえる。同時に酒のにおいがぷんと鼻につく。

「ない。……けど!」

 皆の視線が有希に集まる。

「死ぬ気もない! だからついて行きます!」

 思い切り机を叩くと、紅茶を置こうとしてくれていたエストがびくっと反応する。

「あ、ごめん」

「あぁいや。まぁ……飲めよ」

 こくんと頷いて紅茶に手を伸ばす。その手はカップを掴む前に、セレナの腕にからめとられる。

 気が付けば、有希は隣に座っていたセレナの膝の上に居た。そしてまたぎゅうぎゅうと抱かれている。

「あぁもう、なんて短気で健気なの! 可愛い! 可愛いわヴィーゴ!」

(短気って、褒めてる?)

 背中に当たるやわらかい感触と、ふわりと香るいい匂いが心地良い。そういえば、両親も有希を抱きしめる癖があったなぁと思うと、抱擁が久しぶりで懐かしい。

「こまっしゃくれたガキだなぁ……リフェノーティス。また変なの拾ったなぁ」

「あら、ユーキはいい子よ? 気は利くし、よく手伝ってくれるし。整頓がとっても上手だったわ」

「そりゃお前がド下手なだけだろ」

「あら、違うわよ。みんなが上手なだ・け」

「そうかよ」

 そう言って、コップの酒を全て飲み干す。

「おうマセガキ。お前の度胸に免じて、連れてってやっても良い」

「ほんと?」

 その言葉を発したのは、有希ではなくセレナだった。

「やったわね、ユーキちゃん。リフェノーティスに感謝しなきゃね!」

「え、え?」

(何でリフェ?)

 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる腕に、もごもごと反抗して身体を反転させる。すると今度は背中から羽交い絞めにされたが、リフェノーティスの顔が見えた。

「だって、ヴィーゴったら最初っから反対してたもの。あなたにもそうだったんでしょ? リフェノーティス」

「そうなの!?」

 驚いてヴィーゴを見ると、机に突っ伏して寝ていた。盛大ないびきをかいている。

 リフェノーティスは何も言わずにただ微笑んでいる。

「ユーキちゃんも、よっぽどリフェノーティスに気に入られたのねぇ」

 まぁ、私も気に入っちゃったけどね。そう言ってまたぎゅうっと抱きしめられる。

「ぎゃっ」

 腕が喉に掛かって首が絞まる。あぁごめんなさいとセレナが腕を緩める。

「……リフェ、大丈夫だって言ってなかった?」

 話が違う。と口を尖らせて言うと、リフェノーティスはあら。と笑った。

「大丈夫だったじゃない」

「でも、ヴィーゴさんは反対してたって……」

「でも賛成したわよ」

 それはここに居るみんなが証人よ。と、微笑んでいる。

(そりゃぁ、結果的にはそうなったのかもしれないけど……)

 もし上手くいかなかったらどうしていたんだろう。

「ヴィーゴがお酒に弱いからいけないのよ。付け込まれるっていうことを考えもしないんだから」

「え?」

(それは……)

 背中で「あぁ、こわっ」という呟きが聞こえた。

「元々、酔いに任せてゴリ押しするつもりだったの……?」

 返事はなく、ただニッコリと美しい笑みだけだった。

「そもそも、私に歯向かおうっていうのが気に食わないのよ」

 そう言って、リフェノーティスは紅茶を飲み干した。

(…………これが大人っていうことなのかなぁ)

 どこまで計算し尽くされているのか。考えるだけで感歎の息が出る。

「あぁ、だからリフェノーティスは敵にまわしたくないのよ! エスト! エストはこんな大人になっちゃダメだからね! あぁ、ユーキちゃんもこんな狡賢い大人になっちゃイヤッ」

 また力一杯抱きしめられる。

(う、で、出る)

「せ、セレナさんっ」

「そんな他人行儀な呼び方イヤッセレナって呼んで!」

 更に腕に力がこもる。

「せ、せせれなぁああの、腕、うで。ごはん出る……」

「リフェ、紅茶も一杯飲むか?」

「お願い。――セレナ、あなた年甲斐もなく可愛い子ぶるのやめたら」

「あなたがその口調直したら考えるわぁ~」

「せ、せれな……」

 そして聞こえるのはヴィーゴのいびき。

 そうして、夜は更けていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ