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紫の瞳  作者: yohna
23/180

23

 有希はダンテの手を引き、ルカはガリアンの肩を抱えながら来た道を戻る。

 行きにあった灯りはどこにもなく、ただただ暗闇を急いで上る。

 しんとした空気が一瞬をいつまでも長く感じさせ、有希の心は混乱するばかりだった。

(ティータが言ってた。指輪は引き合うって)

 快斗から渡された指輪が、老人と引き合っていた。ということは。

(あのおじいさんは、パパの騎士なの?)

 更に、ルカもダンテもガリアンのことを知っている風だ。

(とにかく、ココを出なきゃ)

 いつ見つかってもおかしくない状況で、そんな悠長なことは考えていられない。

 握った手に汗が滲む。心臓がばくばくと躍動して、呼吸も荒くなる。

(もうすぐ外だ)

 階段の終わりに着いた。扉の取っ手に手を掛けると、ルカに制止された。

「なに?」

 外にはナゼットが居る。なのに何故止めるのだろうか。

「ナゼットは扉を開けて待っているはずだ」

 ふと考える。

 もしもナゼットが見つかってしまっていたら、姿が見えないはずだ。でも、入り口にいてくれるなら、有希たちに見えるように居るはずだ。

「……あ」

「やられたな」

 どうりで効率よく進むはずだ。と、しれっと言われる。

「ど、どどどうすればいいの?」

「落ち着きなさい」

 ダンテが有希の手をきゅっと握って言う。

「……突破するしかないだろう」

 ルカがぽつりと言う。驚いて見上げると、老齢の二人も同意していた。どうやら有希に逆らう権利は全くなさそうだ。

「…………何も考えずにとにかく突っ走れ」

 暗闇の中でも、慣れた目がルカの瞳を捕らえる。しっかりと頷いて、扉から距離を置く。

 ふと、手が握られる。見上げると、扉を見据えている綺麗な横顔があった。

「行くぞっ」

 言うと、皆往々に走る。扉にぶつかるとそのまま押し開ける。

(まぶしい)

 朝日がちょうど目にかかり、有希の視界が一瞬ぼやける。

「出てきたぞ!!」

「かかれ!」

 ルカが予想した通りに、扉の前にはぐるっと囲んでいる人々の姿があった。みな手に持った凶器が朝日できらめいている。

 とにかく走った。かつて無いほどに大股に、そして真剣に。

 繋げた手がぴんと引っ張られる。それと同時に反対の腕も伸びる。

 ルカがガリアンと有希、有希はダンテと手をつないでいた。二人はどうしても走るのが遅い。

 真っ向から対峙して、突っ切るのは危険以外の何物でもないじゃない。そう思った直後、目の前の茂みから、ナゼットが現れた。

「ルカ、オヤジ、受け取れ!」

 そう叫んで何かを放り投げる。ルカは更にスピードが上がり、有希と繋いだ手が離れた。同時にダンテの手も離れる。

 ナゼットは投げたと同時に走り出す。手には大刀を携えている。

「嬢ちゃんはこのまままっすぐな!ティータが居る」

 有希は頷いて、男達に向かって走る。

 咆哮を上げると同時にナゼットは大刀を横に大きく振り、有希に剣を振り上げていた幾人を簡単に殴り飛ばした。

 傍目に、大刀が身体にめり込むのが見えた。

「ありがとう!」

 そう叫んでナゼットとすれ違う。

 左右からは男の野太い悲鳴が聞こえる。それを意図的に聞かないように、有希は精一杯走り抜ける。

 しばらく走ると、有希を呼ぶ声が聞こえた。そちらを見ると、目立たないようにと頭からすっぽりマントを被ったティータとアインが居た。

「無事なのね!」

 頭から足元までじっくり検分されて、ティータに抱きつかれる。

「ふ、二人も無事みたいね」

「ええ、僕等は足手まといですから」

 近くで馬の鳴き声が聞こえる。

「馬を繋いでいるの?」

「ええ、皆が戻ってきたらすぐに行けるように……」

 なら、荷物も全部あるのね。そう言うと有希は自分の荷を解き、アーチェリーケースを出した。

「ユーキ!? どこにいくんですか!」

「あたしも手伝ってくる!」

「無茶ですよ!」

 聞かずに有希はまた走り出した。


 剣を振り上げて声をあげる男の鳩尾に膝を埋めて、倒れた足を切る。

 ルカはこめかみから汗が流れるのを感じ、そのまま剣を翻して背後で構えている男の腹に剣を突き入れる。

 男は白目をむいて倒れた。

 息が荒くなるのを感じたが、休む間は無く敵はルカ達を襲う。

(何故、こうも多い――)

 牢破りが見つかることは見当がついていた。だが、いくらなんでも人数が多すぎる。

(それに、強い)

 その辺りの犯罪者にしては、こなれ過ぎている。それに団結力もある。

(どこかの小隊か)

 五十人はいただろうか。

「うわぁー!」

 大声を上げてかかってくる男の剣を避け、腕を切りつける。男は一転して悲鳴を上げて転がりまわっている。

「死にはしない」

 言い捨てて、次々と切りつける。

 ふと、遠くで男が悲鳴をあげて倒れるのを見た。その肩には矢が刺さっている。

「――まさか」

 ルカは茫然と呟いた。


「やった」

 有希は内心でガッツポーズをした。

 嬉々として次の矢を矢筒から抜く。アインにお願いして買ってもらった矢は、何度も練習したお陰で滑りが良い。

「次、次っと」

 矢を引いて狙いを定める。狙うのは、肩口。

(人を殺すのは嫌だけど、せめて戦力を削ぐことが出来れば……)

 面前に出てしまえば、自分が役立たずなのは重々理解している。だけれど、こうやって後方から支援することならできる。

 弓を構えて、キリキリと矢を引く。

 一度目を閉じて、弓のしなりを感じる。

(よし、いける)

 目を開き、狙いを定めて放つ。矢は綺麗に狙った男の肩口に刺さった。

 グローブをつけた右手をきゅっと握る。

「次っ」

 構えて矢を引いて、深呼吸をして目を閉じる。

 次に目を開いたとき、目の前に人の足が見えた。

「え」

 驚いて小さく声を上げると、頭上から野太い声が聞こえる。

「卑怯者の狩人はどこだ!」

 ココか、と、有希の真横に白刃の剣が刺さる。

(殺される)

 身体がすくんでしまって、動かす事ができない。ああ、見つかってしまったと、頭のどこかだけが冷静に事実を理解している。

 そもそも、人を射るなんて思う事がいけなかったのかな。なんて、変に熱が冷めてしまった。

 目を閉じて静かにしていると、男の悲鳴が聞こえて、男は倒れた。

「……なんで?」

 自分の足元に流れてくる血を、茫然と眺めていると、頭上から声が聞こえた。

「矢の流れから、どこから放たれているか簡単にわかるものだぞ」

 ルカの声だった。顔をあげると、血で汚れた後姿が目に入る。

「ルカ……」

「援護を頼む」

 言って、ルカはまた走り出した。幾人かを切りつけると、有希から近いところで戦闘をはじめた。

 ありがとう。その声はルカの耳に入ることなく消えた。

 有希は矢をきゅっと握って、また狙いを定めた。


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