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紫の瞳  作者: yohna
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 リフェノーティス達がリビドムへ戻るということは、有希が何か言うよりも前に通達されていたようだった。

 その日のうちに準備がなされ、夕方頃には出立してしまった。

 見送りには有希とルカが。それからパティメートとロッティが立ち会っていた。

『リビドムは誠意を私達に見せてくれました。私達兄弟はそれに誠意で応えたい』

『……それは、こちらの要求を飲んでくれるということかしら?』

『それも、言葉ではないもので応えたい』

 流暢に会話をするパティメートに驚いたのは有希だけではなかったようで、有希のすぐ隣に立っていたロッティも絶句していた。

『……その言葉が、真実である事を信じているわ。――もし虚実であった場合……』

『その時も責任を果たそう』

『………………個人的には色々言いたいことも確認したいことも山のようにあるけれど、とりあえずこの場はユーキに免じて退散するわ。私たちの主君の寛大さに感謝して欲しいわ』

 リフェノーティスはそう言うと、有希に向き直る。

『ユーキ。お願いだから、無茶だけはしないで頂戴』

『うん、大丈夫』

 笑って言うと、リフェノーティスは小さくため息を吐いた。

『あなたの大丈夫はいまいち信用ができないのよね……』

『う……大丈夫だってば……』

 ちらと振り返り、仏頂面で立っている騎士を見る。

『ルカだって居るし』

 ね、と念を押すように言うと、リフェノーティスは少し困ったというような苦笑いを浮かべた。

『それもそれで、不安要素アリなのよ……』

『?』

 きょとんとする有希にリフェノーティスは微笑み、頬を撫でる。

『――私たちは、なによりも貴方の事を第一に考えているわ。それを忘れないで』

『――――うん』

 頷いた有希に満足気な笑みを返し、リフェノーティスはさて、と呟いた。

『そろそろ行くわ。――あれこれ言ったけれど、なにかあれば、ユーキの騎士様が逐一報告してくれるでしょうし、実はあんまり心配してないの』

 リフェノーティスの視線が有希を通してルカへと注がれる。ルカは驚いたようで、ちょっと目が見開かれていた。

 ふふっと笑ったリフェノーティスは目を細める。

『ホラ、私情報屋だから。――貴方、アドルンドでは十日熱で死んだ事になっているわよ。気をつけてね』

 そう言って、踵を返して行ってしまった。

 しばらく歩くと、待ちかまえていた騎士と用意されていた馬と合流できたのか、馬に乗って行ってしまった。

 影が小さくなるまで見送り続けた。




「ルカが、死んでることになってる……」

 部屋へ戻り、ベッドに座ったままの体勢でこてんと横になる。

 リフェノーティスが残した言葉を反芻しながら、その真意を推し量ろうと考える。

「そうだよね……だってルカ、あたしの所為でリビドムに来る事になったんだもんね。――アドルンドがルカがいなくなったことを説明するよりも、十日熱で死んじゃったって言ったほうが体裁がいいのかもしれないよね」

「お前の所為ではないと何度も言ってるだろう……」

「!?」

 がばりと起きあがると、ルカが眉間に皺を寄せて立っていた。

 とても何か言いたげである。という出で立ちだ。

「い、いつの間に……」

「断りは入れたつもりだ」

(つもりって……)

「一体どういう心境の変化だ」

「え?」

「アドルンドに向かうと言ったことだ。――俺が、言ったからか」

 違う。とっさにそう言おうとしたのに、言葉が喉につかえてでてこなかった。

 本当に違うのだろうか。違うと断言できるだろうか。

「ユーキ」

 ルカの為にアドルンドに行くことになればいいのにと、思わなかったと言えるだろうか。

 コツコツと足音が近づいてくる。

 その音から逃げるように、顔をそむける。

 ――もっとも、真っ赤に染まったその顔が、それで隠せるとは思っていないが。

(なんで)

 有希自身、なにが起きているのかがわからないのだ。

 なんで顔が赤くなっているのだろう。心臓がどきどきとうるさいのだろう。

 ルカは、もうすぐ傍まで来ている。

「~~~~っ」

 ぼすっと枕に顔を埋める。

「……………………」

「き、ききききのう、っていうか、今日は、ごめん……ありがとう」

「――――あぁ」

「あとゴメンちょっと今……顔……みないで……」

「………………」

「な、泣いたから! 目はれてるの!」

 嘘だけれども。

 嘘をついてでも、この顔は隠さなければいけないと思った。

「あっち向いて」

「は?」

「話すから……あっち向いてて」

 たっぷり時間を置いた後、盛大なため息が聞こえた。

 その後、コツ、という足音が。

「…………向いた?」

 こっそりと、盗み見るように枕から顔をはずすと、ルカの背中が見えた。

「あのね……」

 どう話せばいいのだろうか。

 目を閉じて、大きく深呼吸した後、もういちどあのねと言う。

「あのね……夢を見たの」

「夢?」

「そう。夢の中で、ヴィヴィに会ったの。……これって、ただの夢だと思う?」

 しばらく沈黙していたルカは、さぁなと小さく言った。

「ただ、あの魔女なら有りうるかもしれないな」

「うん。あたしもそう思う――それでね、ヴィヴィは日の沈む空でまた何かが起きているって言ったの」

「日の沈む空……」

「パティも行けって言ってくれたから。――日の沈む空の方に、きっと国の象徴もあるんだと思うの」

「――――リビドムはいいのか」

「大丈夫。きっとルカがリフェと連絡を密に取り合ってくれるだろうから、心配してないよ」

 そうなのだ。

 リフェノーティス達を見送った後に聞かされたのだが、魔女の子供であるルカには実は魔術士の素質があるらしく、水晶を使用しての会話などができるそうなのだ。

 ルカの出自が知られてしまう為、極秘とされていたらしいが。

「………………」

 ルカが押し黙る。すごく不愉快そうな顔をしている気がする。

 そして振り返りそうになったルカに、有希は声を上げた。

「わぁ! きゅ、急に振り返らないでってば!」

 枕をたぐり寄せ、有希とルカの間に枕を挟む。

 コツコツと足音が近づいてくる。それに比例して、枕も有希に近づき、とうとう枕に顔を埋めた。ルカが目の前にいる。

「………………」

 ぽすんと、頭に手が置かれた。

 その手は有希の髪の毛を一房すくう。

「――――俺は」

 ちゅ。と、音が聞こえる。

「いつもお前に救われているな」

 持たれていた一房が、するりと落ちる。

 その後、ルカは踵を返して部屋から出ていった。

「………………なに?」

 先ほどの出来事をなぞるように、頭に手を当てる。髪を一房梳いて、目に涙を溜める。

「なんでぇ?」

 顔は真っ赤で。

 心臓はどきどきとうるさくて。

 そんな姿を見られたくなくて。

 泣いてしまいそうだ。


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