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紫の瞳  作者: yohna
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 ベッドに横になり、有希は目を閉じる。

 マルキーへ来てからずっと、あわただしくてめまぐるしい。

 昨日も、今日も、有希は泣いたり怒ったりしてばかりだ。

 身体はぐったりと重く、睡眠を欲しているのがわかるのに、何故だか眠気はやってこない。

 明日はパティメートの元へ行き、マルキーの人々の十日熱の治療に行くというのに。

 右手の中指に左手を這わせる。指輪をなぞるように弄ぶ。

(お姉さん……オルガ……)

 有希が途中で泣いたからか、ルカは詳しく話してくれなかった。

 彼女は死ぬのをわかっていながら、仕方がないと受け入れて死んだ事。それがどれだけルカを傷つけたのか。

 見た事も無い姉に腹が立ったが、今考えてみればいくつも疑問が浮かぶ。

(どうして、お姉さんは死んでしまったんだろう)

 オルガーの部屋で、オルガーに殺されたという。

(どうして、オルガの部屋に?)

 ルカがダンテの元へ行っていた間、姉はオルガのところにいた。

(それは、侍女として? ――なら、オルガに仕えている時に)

 殺されてしまったのだろうか。

 そう考え、違うという事を思い出す。

(ルカが戻ってきて、契約してからの事だもん。その時にはもうルカに仕えてる事になってるよね。…………なら、なんで)

「なんで、部屋に行ったの……?」

 部屋に行く。

 暗い廊下。

 開いている部屋の扉。

 中から現れた女と、女に抱きつかれてはにかんでいる男の姿が脳裏に浮かんだ。

 途端、――こめかみの奥に、痛みが走った。

「っつう……」

 痛みを緩和させるように、両手でこめかみを揉む。

(……いまの、なに?)

 頭痛は一瞬の出来事だったようで、もう痛くない。余韻をかき消すようにこめかみを揉み続ける。

 見覚えの無い景色だった。見覚えが無いはずなのに、どこかで見た事がある気がする。

 恋人同士の逢引現場のようだった。

 顔も思い出せないが、女はとても幸せそうな表情を浮かべていた。

「…………ちょっと待って」

 こめかみを揉む手が止まる。

「あい…………びき?」

 ことんと、何かが嵌るような気がした。

「いや、でも王子と……そっか。お姉さんは王の子供じゃないから、オルガと血が繋がっている訳じゃないんだよね。なら――」

 そういうこと、なのだろうか。

「でもでも、だからってどうしてオルガが。……殺してしまうほどの何かがあったっていうの?」

 姉は知っていたという。それは、その『何か』によって殺められてしまうこと。

 姉の片思いだったのだろうか。

 その想いが行過ぎての事だったのだろうか。

(オルガ……)

 最後に会った彼は、とても寂しそうな顔をしていた。

 有希に焼き鏝を当てた残忍なその人と同じとは思えないほど。

(……この花)

 服の上から、胸元に手を遣る。

 リコリス、と呼ばれた花。聞き覚えはあるが、どの花かわからない。茎から控えめな蕾が三つ伸びている。花が咲いていたならわかったかもしれないのに。

 ルカの姉のものと、同じ花。

「……同じ」

 どうして、知っているのだろう。

 ルカは姉弟だから知っていてもおかしくない。

 でもオルガーはどうして判っていた?

 ――見た事が、あるから。

「それって……………うそ。うわ、わ、わあ、わあ!」

 がばりと起き上がり、ベッドから降りる。

 完全に目が冴えてしまった。

「ルカ、ルカ!」

 明かりのない部屋の中を、両手を前に突き出しながら扉を目指す。

 扉の取っ手を掴み、開ける。隣の部屋の行き、扉を乱暴にノックする。

「ルカ! ねぇルカ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど!」

 様子を見るように手を止めると、扉の奥で動く音が聞こえた。

 しばらく待っていると、扉が開き、ほの明るい部屋からルカが出てきた。

「もう少し静かにできないのか」

 そう言って、有希の姿を見て大仰にため息を吐いた。

「少しは恥じらいを持て」

「え?」

 有希は自分の格好を検分する。ロッティから借りている寝間着のロングドレスだ。厚手のものだが、それ一枚だと肌寒い。上着を着るのも忘れていた。

「ユーキさん、どうかしましたかー?」

 とんとんと階段を上る音が聞こえる。次いで、ロッティが階段から顔を覗かせる。その途端、ロッティの顔がぼっと赤らんだ。

「す、すみません!! あ、わ、わたし、そういうつもりなくて! ――すみません、私何も見てないです! 見てないですから、どうぞお気になさらず!!」

 そう言って手を顔の前でぶんぶんと振ると、ばたばたと音を立てて階段を降りていってしまった。

「…………なにが起きたの?」

「話があるなら聞く。いいからお前は着替えて下に来い」

「え? 着替えるの? これからどこか行くの?」

 ルカがまたため息を吐き出した。

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