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紫の瞳  作者: yohna
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 あの小屋を出てから数日。靴の無い有希はルカに負ぶさって移動をしていた。

 全ての服が小さくなってしまった有希と、防寒具を有希に渡してしまったルカは、幸い凍傷になる前に町に辿り着く事ができた。けれども有希が風邪を引いてしまい、逗留することになった。

 有希は食事時以外はずっと眠り続け、二日経った頃には熱も下がり動けるようになった。

 防寒具と食糧、それから馬を調達すると、すぐに町を出た。

 雪の量がそんなに多くない今のうちに動かなければ余計に時間が掛かってしまうからだ。

 くしゃみを一つして、ずれてしまった耳当てを直す。

 有希が馬に足が届くようになったので、今回は馬が二頭いる。縦に並んで移動しているため、会話が殆ど無い。

 ぼんやりとルカの後姿を見ながら、ひたすらに考え事をしてしまう。

 気になって仕方がないのは、あの埃くさい小屋での出来事。

『その花は――――あのひとの花だ』

 オルガに殺されてしまった、ルカの前の主人。

 その人にあったという、花――。

(あれ? 待って)

 花があった。花の刻印が。

「っていうことは!」

 ぽろっと言葉が出る。不審そうにルカが振り返る。

「な、なんでもない! なんでもないよ!」

 ぶんぶんと首を手を振ってはぐらかす。ルカは仏頂面の眉間に皺を刻むと、また正面に向き直った。

(魔女だったっていうこと!?)

 ルカの背を見る。

 以前魔女と恋愛をしていた人。

 以前魔女を愛した人。

(そっか……魔女か……)

 なんだかそれだけで、いろいろなものがしっくりときてしまい、戦意がそがれてしまった。なんだか仕方がないと思ってしまうのだ。

(だって魔女だったらしょうがないじゃん……かないっこないっていうか……)

 言って、はっと気付く。

(いやいやいやいや、かなうとか、かなわないとか、そういう問題じゃないんだってば!!)

 はぁーっと長いため息を吐き出して、頭から引き離そうとぷるぷると頭を振った。冷たい空気が首に入り込み、鳥肌が立った。

 髪の毛が伸びて首周りが温かくなったが、それでも寒いものは寒かった。

 長く長く伸びていた髪は膝あたりまであったが、逗留していた町で前髪を眉上で切り、後ろ髪は腰辺りで切りそろえた。だが、いまだに慣れない。

(でも、なんで急に)

 八年間も止まっていた成長が、どうしてこうも突然訪れたのだろうか。

 前兆はあっただろうか。

 何か変わった事はあっただろうか。

 思いつくものは一つしかない。

(成長が始まる直前に、力がまた戻ってきたこと……)

 本当にそれがきっかけなのだろうか。

(……ヴィヴィならわかるのかなぁ)

 何でも見透かしてきたヴィヴィ。彼女は有希の成長を『止まっているだけで、いつか元に戻るかもしれない』と言っていた。もしかしたら有希の成長が止まっていた理由も、成長した理由も知っているのではないだろうか。

(ヴィヴィ、今何してるんだろう……)

 有希に無理難題を吹っかけて消えてしまった薔薇の魔女は、今何をしているのだろうか。

(トウタさん達も……まだ追いつかないのかなぁ)

 町に向かう途中、魔物に遭遇した際に別行動になってしまったとルカが教えてくれた。

 ちらりと後ろを振り返るが、誰の姿も見当たらない。

 ――すぐに追いつくだろうとルカは言っていたのに、未だに合流できそうな気配はない。

(会ったら、ちゃんとお礼言わなきゃ)

 もう一度振り返る。やはり人の気配は無い。雪に埋もれた景色は代わり映えなく、はらはらと降る雪がただただ有希達の足跡を消してゆくばかりだった。

「ユーキ」

「え?」

 ルカが前方を指差していた。

「誰かが作った雪部屋がある。あそこでひとまず休む」

 ルカが指差したのはかまくらだった。

「え? え? かまくら? なんでこんな所にあるの!?」

「町から町へと行く商人や兵士達が作っている。この時期珍しい事もない」

「そうなんだ……」

 山を越えたという実感が今更やってくる。山は有希達の背にそびえ立っていて、いかに過酷だったかを知らしめるようだった。

 雪部屋に入ると、ルカが手早く食事の準備をはじめる。その間に有希は水袋へ綺麗な雪を入れに行く。

 雪を手で掬って、入れる。

 なんだかいつもよりも短時間で出来たような気がした。

「…………」

 かじかんで少し動きが鈍い手だが、8年間付き合ってきた手とは大きさが違う。

 立ち上がった時に視野が高い位置にあるのも、伸びた手足も、膨らんだ胸も、長い髪の毛も。

 違和感ばかりで現実味がない。

「…………他人のものみたい」

 ルカに呼ばれ、水袋の口をしめてからルカのもとへ行く。

 雪小屋――かまくらの中は心なしか暖かかった。

「風も入り込まないし、人が寄ればより温度があがるからな」

 そうなんだ、と有希は貫頭衣を脱いで襟巻きを正す。

 ふと、ルカの視線を感じた。

「…………なに?」

 何を考えているのかさっぱりわからない顔に問いかけると、その首紐、と小さく言った。

「首紐?」

 襟巻きの下に、トウタの髪紐が巻いてあった。

「――あぁ、トウタさんのね。 寝込んでいる間に掛けてくれてたみたい」

 よくよく見ると、その紐の一部が結んであるのだろうか、絡まっている場所がある。

「なんなんだろう、早く治るようにっていうおまじないかな」

「紐、だけか」

 いぶかしげなルカに首をかしげる。

「うん? そうだよ」

「そうか…………」

 それ以降、ルカは黙り込んでしまった。

「ルカ? この紐がどうかしたの?」

「いや。この後から急いで王都へ向かうぞ」

「急いで? トウタさんたち待たなくていいの?」

「あぁ」

「わかった。早く会えるといいね」

「――――あぁ」

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