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紫の瞳  作者: yohna
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 段々遠くなってゆく金色の髪が、人々にもまれて見えなくなるのはすぐだった。

 絶望的な気分で連れられる。

 人数は、有希を抱えた人を含めて四人。皆露出度の高い服を着ている。

(なんで、どうして)

 頭がぐらぐらと揺れる。その度に首が揺れて痛い。

 一体何が起きているのだろうか。唐突に突きつけられた事実に頭が追いつかない。

(もしかして、誘拐?)

 これがそうなのか。と、変に納得してしまった。この戦争の最中、よくあることなのだろうか。

(だけど、この人あたしの名前、知ってたよね)

 イシスの復讐だろうかと考えたが、彼は今アドルンド城へ移送中だ。情報を漏らすことは出来ないだろう。

(じゃぁ、誰が。なんのために)

 自分なんぞを誘拐しても、一銭の得にもならないというのに。

 有希がそんな事を考えてもどうする事はできず、気付いたら頭に布を被せられ、どこかの建物に入った。


 扉の開く音が聞こえてしばらくすると、ふわりと身体が浮き上がり、地面に落とされた。

「いたっ」

 したたか尻と肘を打ち付けてもんどりうつ。布を剥がされて、自分が男達に囲まれている事を知った。

 恐い。という感情が真っ先に浮かぶ。この人たちは自分に何をするつもりなのだろうか。良い事ではないことだけはわかっている。誰か助けに来てはくれないだろうかと、部屋を見渡す。どうやら宿屋のようで、右手にベッドが二つならんでいる。そして、背には窓がある。

 そもそも、この世界にルカとアイン以外、知人なんて居ない。 それだけしか知人が居ないのに、何故連れ去られなければいけないのか。そう考えると、ふつふつと憤りが湧く。

「……どういうつもりよ」

「どういうつもりもこういうつもりもねぇよ。俺等はお前を捕獲するように言われただけでぇ」

「誰に?」

 そいつァ言えねぇなぁ。と、にやにやと笑いながら言う男には、歯が数本無かった。

 この世界に居る期間はまだ短いが、こういう輩を見たことが無いわけではなかった。

 この町に来る前に、族に襲われて食料を奪われてしまったという村を見た。そしてルカが族の住処に押しかけて蹴散らした。彼等はその族に良く似ている。

――ああいう奴等は、金のために何でもやる。

 嫌悪を込めた言葉を言ったのは、ルカだった。

(誰に、頼まれたんだろう)

 そんな考えが頭をぐるぐると回る。あの底意地の悪いルカの兄、オルガだろうか。――そうだとしても、一体何のために。

 有希には何にも価値が無い。ただ珍しい瞳をしている以外、役立たずもいいところだ。

(――あ)

 あの人の、ルカの主人だからだろうか。ふと考えれば合点がいく。彼はこの国と戦争している国。敵国の王子だ。そして彼は騎士で、有希と契約しているがために身体能力が高まっている。だから、有希を殺して契約を終了させてルカを殺める。そういうことなら合点がいく。

 男達は獲物を目の前に舌なめずりしたように笑っている。有希が恐がっているのを楽しんでいる目だ。

「……ふざけないでよ」

「アァ?」

「あたし、殺されたりなんかしないんだからね!」

 すっくと立ち上がって、男達に向かって突進する。面食らった男達は、両手を広げて有希を捕まえようとするが、屈んで腕をすり抜けて、扉の取っ手に手を掛ける。

 扉を開けて、外に飛び出す。男達の怒号が聞こえる。

 右も左もわからずとにかく走り出す。すると突然壁際の扉が開いて、中から大柄な男が出てきた。急に止まることも出来ず、有希は思いっきりぶつかり、尻餅をついた。

「っきゃぁ!」

「うぉゎっ」

 男は小柄な有希がぶつかったてもなんてこと無かったようで「大丈夫かぁ?」と、手を伸ばして来た。

「ご、ごめんなさい」

 男は、オレンジ色の長い髪と褐色の肌が特徴的だった。男の手を取ろうとしたところで、腰に手がまわり、持ち上げられる。

「逃げてんじゃねぇよ」

 ぎくりと体がこわばる。

「やだ。はなして!」

 ぽかんと口をあけている男と目があう。

「助けて!」

「静かにしろ!」

 そう叫んだところで口をふさがれる。何度も唸り、そしてまた部屋に連れ戻された。

 今度はベッドに投げられた。起き上がろうとしたところで男にのしかかられる。先ほどとは違った意味合いでの身の危険を感じて両手足をばたつかせる。

(あの変態オヤジといい、こいつ等といい、この世界の風紀乱れてんじゃないの!?)

 ワンピースの襟元に手を突っ込んだかと思うと引き裂かれた。

「〜〜〜〜っ」

 そのままうつ伏せにひっくり返され、背中からワンピースを剥がれた。

「あるか?」

「いや」

 男達が意味のわからない会話をしている。有希は必死に胸元を押さえて身を縮めた。剥き出しになった背中にひやりと外気が当たる。震えが寒さからくるものなのか、恐怖からくるものなのかわからない。

 足首を掴まれて引っ張られる。

「や、やだぁ! はなして!」

 いよいよ身の危険を感じて、どうにか逃げられないかと身をよじる。

「静かにしろよ、オラァ!」

 ぱん。と小気味良い音がしたと思うと、左側の頬に痛みが広がる。耳がきぃんと鳴って、何も考えられなくなる。

 ごんごん。と、扉が叩かれたのはそんな時だった。

「あー、すいませぇん。えーと。ちょっといいですか?」

 能天気な声が聞こえて、ごんごんと扉を叩きつづける音が響く。無視をしようとしていた男の一人が、しつこいノック音に舌打ちをした。

「おい、お前黙らせて来い」

「あぁ」

 男の一人が扉の方へ向かう。扉を開ける音が聞こえたと思ったら、男が吹っ飛んで机にぶつかった。

 男達が驚いて扉を見やる。有希も驚いて見ると、先ほど有希がぶつかった男が立っていた。有希と目が合うと、一瞬憐憫のようなものが浮かんだが、すぐにニカッと笑った。

「いつの世も、どこの国でも、こういうことはやっちゃいけないよなぁ」

「テメェ、何モンだ!」

 族の男が褐色の肌の男に向かって腕を振り上げるが、大柄な体つきなのにすばやく動いて、鈍い音とともに族は床に伏した。

 しばらくすると、族は皆、床や机に伏して気絶していた。

「おう、嬢ちゃん。大丈夫か?」

 何事も無かったかのように、あっさりと笑うあなたのその笑顔が恐いとも思ったが、有希は頷いた。

「そうか。そりゃよかった。……あー、その、なんだ? 俺、隣の部屋取ってんだが、来るか? ちょいとでかいかも知れんが、妹の服で良ければ貸してやれる」

「あ、ありがとう」

 そう言って手を伸ばす。有希は今度こそ、その手を取った。


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