前編
「おはよう、あなた。」
「…誰?お姉さん、誰?」
君ももうお兄さんと言える年なのに、君は私のことをお姉さんと呼ぶ。
「私はあなたの妻よ。」
「妻?僕、結婚してないよ?」
私はふふふ、と笑って、今日も君に残酷な真実を告げる。ごめんね、と謝りながら。
私も、空も泣いていた。そんな悲しい朝の中、私は今日もポソリと呟く。100回目の
「初めまして。」
は、宙に飲まれて静かに消えた。
君、あなたが記憶をなくしたのは私たちが結婚してちょうど一年目の夜だった。私たちは学生のうちに結婚したから、あなたはまだ20になったばかりだったわ。あなたは職場の飲み会に行くと言って、夜遅くに家を出たのよ。
まだお酒を飲める歳になったばかりで、あまり慣れていなかったのね。夜12時の暗い帰り道、あなたはこけて、頭を打ってしまったの。それも、強く。通りすがりの人が救急車を呼んでくれて、なんとか助かったけれど、あなたが再び夫として私の元に戻ってくることはなかった。あなたの記憶は、少年時代まで巻き戻ってしまっていたの。
それでも、いつか記憶が戻るだろうと思って待ったわ。でもね、もう一つ重要なことがわかったの。
あなたはね、眠るたび記憶がなくなってしまっているのよ。