3話「護るべき理想、討つべき現実」
─あらすじ─
学校に投稿するも、機械的な人間の在り方に唖然とする。
入学式に行く途中に、先生と衝突してしまい、戦う事を決める。
燃えるような赤毛の少女、セレナは内心焦っていた。
───まさか、彼が初日から問題を起こすなんて......!
出会った時から(良い意味で)変わった人だ、とは思っていたのだが、あの保守的な豚教師と戦闘沙汰になるとは思っていなかったのだ。
───私のせいだわ。
───あの時巻き込んでいなければ!
───自分の無力さの為に!
実は、あの豚とカルマが揉め事になった時に助けに入ろうと思っていたのだが、彼から目配せで「行け」と言われたのだ。
───あの時、助けに行かなかったのは大きな間違いだった。
既に心は決まっている。セレナは列から抜け出し、カルマの所まで夢中で駆け出していた。
☆ ☆ ☆
バースは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、下卑た笑い声をあげた。
「ふははは! 魔法が無ければ何も出来ないヴェルデのクソガキめ! この俺が直々に指導してやるよッ!」
膝をついた僕に近づき、首襟を掴んで片腕の力だけで難なく吊り上げてくる。
その片腕を掴み、拘束からの解放を試みるが、基礎的な膂力は僕の方が負けているようで、それは叶わない。
伊達に教師はやっていない様だ。更につよい力で絞め上げてくる。思考に霞がかかったように、意識が遠のいていく。
「ふん、クソガキめ! 死んで詫びろ!」
目の前の男の顔すら滲み、死を覚悟した。
☆ ☆ ☆
柔らかいベッドの上で目を覚ますと、目の前に見知らぬ先生と思わしき、30代程の茶髪で美形の男が立っていた。......ここは保健室だろうか?
「ん......」
「おっと、漸く意識を取り戻しましたか。大丈夫ですか? 話は出来ます?」
静かに頷くと、彼は同じく静かに微笑み、巫山戯ているのか、と勘違いしてしまうような上ずった声色で話し始めた。
「ワタシはマーレって言います。バースさんに迫害されていた教師団の1人です。......ところで、貴方は何処まで覚えてます?」
「え......? 首を絞めあげられて、そのまま僕の意識が堕ちたんじゃないんですか?」
すると、「ふむ」と頷き、一転して神妙な表情になり、話し始めた。
「......確かに貴方の意識が、首を絞めあげられることによって堕ちたのは事実です。......しかしながら、それ迄ががまるで嘘だったかの様に、バースさんの腕を力だけで粉砕したんですよ。」
───そんな馬鹿な! 僕の中に[別の存在]がいる訳でも無いだろう!
考えれば考える程、混乱は酷くなった。
「......動揺するのは解ります。しかし、安心してください。アレは貴方ではなく別の何者かが意識を乗っ取っている感じでした。恐らく、黒魔法に卓越した誰かが、貴方の意識が弱った時に介入したんでしょう。」
───当然、姉さんから黒魔法を学んだ時にその可能性も、珍しく真剣な口調で聞かされた。
「黒魔法っていうのはね、魔法の起源なのよ。それだけに絶対なの。......だから人をあやつる事だって出来る。そのうちカルマも操り人形にしちゃうよ☆」
言う人が言う人で、現実味を帯びすぎており、笑えなかったのだが、実際に自分の身に起こるとは思わなかった。
「まぁ、驚くのも分かります。ですが、1番にするべきは、セレナさんにお礼を言うことですよ。......最終的に貴方を救ったのは彼女なんですから。」
☆ ☆ ☆
「なぁーんてなァ!」
「何だとォ!ヴェルデのガキがァ!」
──私は、その光景に衝撃を隠せなかった。
教師が生徒の首を絞めあげている事。何より、カルマがそれを平然とした顔で許している、という事実に。まるで「呼吸など必要ない」とでも言いたげに。
(駄目だわ......これ以上近づいたら殺されそうな雰囲気ね......)
実際、私が止めに入っても無駄だろう。何故か全然、魔力を制御出来ないし、そんな状態で向かっても火に油を注ぐ可能性だったある。
「ククク......おい、バース、まだ気づかねぇかぁ? お前のマジックキャンセラーとやらは俺には効かねぇんだよ! どうせ、一定以上の魔力を持つ人間には意味ねぇんだろ?」
──口調も彼らしくない。こんなに口が悪くは無い筈だ。
「フン、そんな人間数える程しかおらんわ! そうやって解除させようとしても無駄じゃあ!」
「じゃあ聞くぜ? なんで俺は、こうやって首を絞められて、生きてられると思う? もう3分超えたぜ?」
「ぐっ......」
──そう、魔力の扱いが卓越した人間なら、身体が死に至っても、魔力のみで全身を制御出来ると、聞いた事がある。 勿論、そんな芸当が出来るのは世界中を探しても、10人と居ないが。
「答え、分かってんだろ? そうだ......魔力で身体動かしてるから、生きてようが、死んでようが関係ねぇんだよぉっ!」
──一閃。有り得ない角度で振り抜かれた右脚は、彼を殺している左腕を容易く両断した。
刹那、同情にも値する叫び声が廊下に響き渡る。
「がぁぁぁぁぁぁああああああああああああ! 貴様、絶対に許さんぞぉ!」
「ふぅ、これでやっと普通に息が出来るようになったな。......痛そうだなぁ? 痛みを止めてやろうか?」
──嫌な予感がした。彼の言う「痛みを止める」というのは、息の根も同時に止めてしまう方法では無いのか?
そんな思考すら振り切って、カルマの方に駆け出していた。──バースを助ける為では無く、カルマに人を殺めさせない為。
「カルマっ! もうやめてっ!」
──圧倒的殺気。触れてしまえば、焼き切られる、本能的恐怖を呼び起こす、未だ味わった事の無い感覚が全身を支配する。
「あぁ? ......確か、お前はコイツのダチか。......ったく、そんな泣きそうな顔してんじゃねぇよ......、シラケるだろうが。」
「えっ......?」
「大体、俺の目的は無差別殺人でも、陵辱でもない。......世界の歯車。世界が正しく動く為には、不要な人間を取り除く必要がある。コイツには生きる価値が無かった、それだけの事だ。」
「そんなっ......! それは紛れも無い悪よ!誰かを犠牲にして得られる利益なんてっ......」
「そうだ......俺は紛れも無い悪だ。だが、大義ある悪は正義だ。正義と悪は決して相反するものではねぇ。よく覚えておけ!」
──何も間違っていない。彼の行動には、道理がある。だけど、──それでも私の理想は譲れない。 皆が笑顔で暮らせる世界、誰も犠牲にならない世界。
「カルマッ! それでも私は、貴方を止める!」
「そうか、それが......お前の答えか。失望した。──言っておくが、これは"俺"固有の意思じゃない。カルマ自身の考えでもある。よく肝に銘じておけよ。」
不良から回収した魔法剣の柄を握り、刃を出す。この紅い光は、屈強な彼でさえ斬ってしまうだろう。
「へぇ、それなりにやると見た。なら俺も容赦はしねぇぞ!」
──刹那、カルマが消えた。戦闘において、相手を見失うのは致命的......
「どこ見てる?」
背中側から殺意が感じられた刹那、振り向きざまに剣を一閃する。掠りでもすれば良い。それだけで、深手は負わせられる筈......
「ふん、なかなか良い魔力持ってんじゃねぇかぁ! だが、残念だったなぁ? 肝心の剣術がそれじゃあ、剣も止まって見えるぜ?」
「素手で魔法剣を掴んでおいて、飄々としてるなんて、とんだバケモノね......!」
「ケリはつけてやるよ! ──魔力解放。」
「くっ!?」
圧倒的な魔力の奔流が魔法剣を介して襲いかかってくる。身体を灼くような痛み。
──このままじゃ死ぬ......!
咄嗟に魔法剣を手放して退いた。
「良い判断だ! あともう少しで、お前の身体が魔力に耐えられずに、血管の何本かは吹っ飛んでたかもなぁ!?」
カルマは余裕そうな表情で、奪った魔法剣で肩を軽く叩いている。刃の色は黒。
見ただけで解る。あれに触れたらヤバい......
「お褒めの言葉、嬉しいわね。じゃあ、私も少し貴方を驚かせてあげましょうか。」
一か八か、魔法の詠唱を開始する。
──持てる魔力の全てを注ぎ込み、先祖より伝わる禁忌魔法を構成......
「──其は絶望。深く堕ち行く希望の楔は深淵にて明日を砕......」
詠唱も残すは半分という所で、カルマは目の色を変えた。
恐らく、本能的に理解したのだろう。この術の能力と"彼"自身に対する危険性を。
「てめぇ! その業の本質を分かってやってんのか!?」
──えぇ、解っていますとも。この身を滅ぼしても、理想は護りますから。
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尚、プロローグから読みやすくした訂正版も同時進行で書いております!このオリジナル版とは別に投稿しようと思ってます!そちらもよろしくお願いします!