少女の話
また一つ死を見届け、不思議な人に会おうと病室を訪ねると、あの人はいなかった。どこにいるのだろうとあの不思議な感覚を追っていくと一つの部屋にたどり着いた。
(談話室?)
中からは笑い声が聞こえる、楽しそうで暖かい雰囲気が扉の前にいても感じられる。ここに彼はいるのだろう。自分が中に入るとこの雰囲気が壊れてしまうんじゃないかとためらっていると、中から聞こえてきた彼の穏やかな声に惹かれるように中に入っていた。
中に入って彼を探すとすぐに見つかった。子供に囲まれて楽しそうに笑っていた、みんなであの人の持っているスケッチブックを見ているようだ。
「ね~これなに~?」
「とりかいてくれた?」
「ここどこの場所~?」
「あぁ、これはまだ描きかけでね出来てからのお楽しみ。鳥描いてきたよ、ほらカッコいい鷹の絵。あぁ、ここは僕にも分からないんだ、何かで見たのを描いてみたからね。」
「かわいいのがよかった~。」
「あれ、鷹ダメ?カッコいいよほら、こうグワーって感じで。」
「スズメとか、インコの方がかわいい!」
あ、落ち込んだ。
「そっか~、ごめんね。今度かわいい鳥描いてくるから、でも鷹カッコいいよこう強いし、縁起物だよ、きっと病気なんてやっつけちゃうよ。」
妙に鷹を押している、好きなんだろうか?
「病気治る?」
「うん、きっと治るよ、すぐ元気になる。」
「そっか~ありがとう!大事にするね。」
「ありがと。じゃあ、次はあ…」
目が合った、どうしよう、とりあえず頭を下げた。それを見たあの人は嬉しそうに笑った。
「今日はここまでにしようか、また描いてこなくちゃだしね。」
「じゃあ、明日ね。」
「今度は俺の描いてよ」
あの人は手を振りながらこっちに来た、そしてこちらを一瞥した後部屋を出て行ったので、私も彼の後に続いて部屋を出た。
彼の病室に変える道すがらに会話はなかった、移動しながら一人でしゃべっている人になるので当たり前だけど、それでなくとも私とはしゃべれなかっただろう、いろいろな人に声をかけられているから。医者や看護師、同じく入院している人や、見舞客らしき人からも声をかけられている。
「今日は早いですね、どうかしたんですか?」
「ちょっと頼まれて、それを仕上げようかと」
「おぉ、今日も生きてるなお互い。」
「当分は死にませんよ。」
「あら、このあいだはありがとうございました。主人も喜んでましたよ、戻るなら押しましょうか?」
「あぁこの間の、喜んでくれましたか、それは良かったです。そこまででもないですし、大丈夫ですよ。早く顔を見せてあげてください。」
話しかけられるたびに笑いながら答えている、話しかけている人も随分と楽しそうだ。
病室に戻るだけで随分と掛かった。
「悪かったね気づかなくて、声をかけてくれればよかったのに。」
にこやかに笑いながらいい、ベットに移った。その言葉に返さず、
「絵・・・描くんですね。」
と聞いていた。そんな言葉に彼は嬉しそうに笑い、
「うん、描くよ結構評判はいいんだよ。ほらこんなのとか、こういうのも頼まれたりして。」
そう言って彼は、持っているスケッチブックを私に見せてくれた。本当に色々描いている、動物の絵、景色の絵、そして、たくさんの笑っている人の絵があった。本当に幸せで、嬉しそうな絵の雰囲気に惹かれ少し見ていると、
「あぁ、それはこの間退院してった子にあげたやつだね。真ん中の子がそうでね、凄く嬉しそうで見てるこっちまで嬉しくなってきてね。」
家族三人の絵だった、子供の後ろに母親がいて父親が二人を包むように抱きしめている絵だった。他にも色々と教えてくれた、夫婦の絵、大勢の友人に囲まれて笑っている絵・・・ベットに座って優しく笑う女性の絵。
「描き終わってすぐのことでね、結局本人に見せてあげることができなかったんだ。」
「そう・・・なんですね。」
この人も死を見送ってきたのだろう、私と同じ、
「だけど家族には渡せてね、その絵を見た瞬間に泣き出してしまったけど、喜んでもらえたよ、泣きながらそれでも笑ってありがとう、と言ってくれた。」
違った、同じように死を見届けても私には決してみられないものを見ていた。少し悲しそうに、でも嬉しさと誇らしさが混じった顔を見て羨ましいと思った。・・・少しうつむいている様子を見て彼が声をかけてきた、それに何でもないと返し
「たくさんの笑顔があるんですね。。・・・すごく素敵だと思います。私は好きですこの絵。」
「・・・・・・・ありがとう。」
その声が震えていたのに気づいて、彼のほうを見ると笑顔だった。本当に嬉しそうに、今にも泣きだしそうなのを我慢しているようなそんな顔だった。その顔から目が離せなくなっている私を知ってか知らずか、もしくはただ照れたのか、顔をそらし、
「今日も話聞かせてくれるのかな?」
そう早口で言っている彼を見ておかしくなった。笑ってしまったのだろう私を見て拗ねてしまったのかさらにそっぽを向く彼を見て少し笑ってしまった。
「そうですね、では優しい人の話を・・・」
お詫びではないが、そう言って話を切り出すことにした。