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その質問に、振り向いたそいつは、怪訝そうな顔をして答えた。
「なに、いきなり、そんな事わかるわけねーだろ。」
それに、そうだよな。と思いつつ、今まで押さえつけてた恐怖を吐き出した。堪えられなくなったのだろう、もしくは、こいつなら、話しても大丈夫と思うくらい信用していたのかもしれない.
黒づくめの奴を見てから、自分が死ぬこと知ることまで、起きたことを話した。死ぬ気なんてないけど、それでも、そんなことを考えてしまうことを。
「なんだよそれ、わかんねーよ。」
そう言われ、信じられる訳ないよな。と、冗談だと、そう言おうとしたら、
「でも、お前が本気なのはわかったから…そんな状況、わかんねーけど、でも…お前が死ぬのは嫌だよ。絶対嫌だ、もっとお前とバカやってたい…から」
そんなことを、途切れ途切れに、たどたどしく、真剣に言ってくれた。
もっと励ますとか、そんなことある訳ないと否定するとか、色々あるだろうに、死んでほしくないって、ただ、それだけを伝てきた。その顔を見て、言葉を聞いて、涙があふれた。強がりとか、取り繕ってたもの全部はがされた。
「死にたくない…死にたくない、なんで俺なんだよ!ほかにいっぱいいるじゃねーか!なんで俺なんだよ‼そんなに悪いことしたか?勝手に死ぬとか言ってきて、生きろって何なんだよ、お前が殺しに来たんだろうが、だったら…来てんじゃねぇ、嘘だって、そういってくれ…」
泣き崩れ、ただ吐き出した、言うつもりなんてなく、こんな姿、誰にも見せる気なんてなかったのに、あっけなく剥がされた。そんな俺に、何かを言うでもなくただ、背中に手を添えて、ずっとこんな弱音を、聞いてくれていた。
しばらくたって、やっと落ち着いた。眠れなくて、物音一つに怯えていたのが馬鹿らしくなるくらい、すっとしていた。改めて、死んでやるかと、思えた。
「ありがとな、おちついた。」
「ああ。」
死神見つけないと、運命だとかそんなもんだっていうなら、そんなもん無視してやる。絶対死なないって、目の前で言ってやろう。
「んじゃ、行くわ。死神見つけないとだからな。」
「ああ。」
立ち上がり歩き出した、そうやって公園を出る直前に、
「俺は信じねーから、お前が死ぬの、絶対笑ってやる。昨日みたいに、そんなの要る訳ないって、ンでその後、お前も彼女とか作って、ダブルデートとか、そんなもんやってやる。ジュース奢ったんだから、貸しだから、デート代お前持ちだからな。」
ああ、
「随分高いな、デートはともかく彼女は紹介しろよ、お前の悪行全部教えてやる。そんで振られろ。」
そう笑ってやった。
「あぁ、そーだな、そんなんじゃふられねーけどな。」
「じゃあ、あしたな。」
それに、[明日]と答えることができた。死亡フラグみたいだと思って、また笑えた。
死神を探して歩いた。そして、見つけた。初めて見た場所にそいつは、しゃがんで、こちらに背を向けていた。
「おい。」
そう呼びかけても反応しなくて、なにしてるのかと回り込むと、あの時の黒猫が寝てるのを見ていた。猫好きなのかと見ていたら、猫が息をしていないのに気付いた。
「あの時は、この子を見に来ていました。ここに何かあるのか、この子はここから動かないから、ここで静かに逝くのだと思って。最後に、あんな人が来るとは思わなかったけど、それも、あなたの友達が助けてくれました。おかげで、穏やかに逝くことができました、この子は。」
何かを言う前にそんなことを言われ、何も言えなくなった。邪魔されたくないと、そう言っているように思えたから。
「なにかよう?」
気が済んだのか、立ち上がりこちらを見た。
「もういいのか、そいつ。」
「はい、ちゃんと送れたから。」
それを聞いて、眠ってるように見えた猫を見、覚悟を決めた。
「俺はいつ死ぬ?」
そう、切り出した。するとそいつは、一瞬驚いていたが、すぐにそれを消して答えた。
「わからない。ただもうあまりないとしか…」
その言葉に呆れ、文句を言おうとしてやめた。フード越しでもわかるぐらい済まなそうにしてるから、本当のことなんだろう。
「あまりってことは、一週間はないぐらいか?」
「そんなには、多分二日もないくらい」
あっさりといいやがる、まぁいい、もう覚悟はきまってる。
「なら、それ以上生きてやるよ。お前に嘘つき野郎と、ああ、コスプレ野郎って罵ってやる。さんざん脅かしてくれたしな。」
そう告げてやった。すると、死神は固まり動かなくなった。そのまま、不安になるくらい時間が経って、ようやく言葉を発した。
「はい、楽しみに待ってます、そうなるのを。」
本当に楽しみな、凄くうれしいと、そう感じさせる声で、それに拍子抜けさせられた。もっと文句なんかも言ってやろうと思ってたのに。
もういいかと、猫の死体を抱き上げ、歩き出す。すろと、
「その子、どうするのですか?」
と聞かれた。
「埋めてやるんだよ、公園在っただろ。最後に遊んでもらったし、このままは可哀想だ。」
「ありがとう…ございます。」
「なんでお前が礼言うんだよ。」
公園に着くと人目につかないとこを探した。そうやって目を付けた場所に穴を掘っていると、気になったのか子供が来た。
「お兄ちゃんなにやってるの?」
「猫埋めてやってんの、このまんまは可哀想だろ。」
「フーン、僕も手伝う。」
そう言って穴を掘り始めたのを見てまぁいいか、と手伝わせた。埋め終わり、木の枝を指して墓を作り、手を合わせた。なんとなく、こいつの分も生きよう、そう思ったから。子供は、俺を見て真似してたかと思うと、こちらを見て、笑い出した。
「お兄ちゃんやさしい!!」
それに、鼻で笑い、そうかよと答え、
「んじゃ、気をつけて帰れよ。」
そう告げて、帰ることにした。後ろからバイバーイと声が聞こえたが、振り返るのは面倒だったので、手を振ることで答えた。
翌日になり、あいつに会い、次になれば俺の勝ちと教えた。それに嬉しそうに笑いながら、楽しみだ返してきた。ほかの奴が何の話?と集まってきたが、適当にごまかした。
そうやって、あっけなく今日が終わった。やっぱり出鱈目だったんだなと、奢りどうしようと、帰っていると、昨日の公園にさしかかった。そこから、お兄ちゃんと声が聞こえ、振り向くと昨日の子供が、手を振りながら、こちらに走ってきていた。妙になつかれたなと思いながら、あぶねーぞと声をかけようとしたら、
死神がいた。
慌てて辺りを見回した、案の定クルマが見えた、趣味が悪い、死にたくないふざけるな、どうする?怖かった、子供は笑ってる、母親か?気づいたのか叫んでる。死ぬのは嫌だ、あぁ、でも…手伝ってもらった借りがあった。
飛び出していた、子供が車に気づいて止まってしまった、突き飛ばした、間に合ったぁ、後悔した、でも、あ、びっくりしてる、大丈夫そうだ。うん、まぁ、これなら、死神が来た驚いてるな、あぁでも、最低にはならなかった。なら、いいや。
目の前で轢かれた、生きると、死なないと言ってくれたのに……あなたは、まだあるのに。でも、死が晴れていく、泣いている…泣けている、生きてる。運命は変わった。
彼に近づく、こちらを見ている、命が終わる。 …何も出来ない、せめて何か聞かないと、わらった?
「 」
何もいえない、この人は命を全うできなかった、救えたのに、運命を変えられた人なのに、何もしてあげられない。逝ってしまう、せめてその先が、光溢れるばしょであるように。
「あなたは、命を救いました。運命を変えられました。 …貴方を尊敬します。」
なら、いいかな、勝ったんだ俺は。