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何を言っているのか分からない。状況が分からない。触れない、死神みたいなやつになんか言われている。何なんだろう、これは。死神みたい?まさか、
「なんだよ、死を見届ける?なんか俺が死ぬみたいなこと言って、なに、見たまんま死神でーすとかほざく訳?ああ、その凶器で今から殺しますっていう殺人宣言?」
そんなことを言ううことしかできなかった。嫌な予感しかしない、あんまりにも異常な状況で、さっきから変なことしか考えられない。馬鹿な考えだ、死神なんているはずがない。そんな考えを、そいつは、否定するように首を振った。
「そんなことはできない。私は、あなたが死後、その魂が迷わないように送るだけ。」
そんなことを言った後、そいつは、急に謝りだした。
「ごめんなさい。あなたに見えてしまうとは思わなかったから、本来は知らなくていいことなのに、こんなことになってしまった。でも、それでも、私はあなたに、最後まで生きることを諦めないでほしいと、そう願います。」
そう言って、去っていった。
その後、俺はどうしたんだろう、気づけば自分のベッドの上にいた。今日のことは本当だったんだろうか、ベッドの上にいるし、夢でも見ていたのでは?そんなことを考えても、騙すことすらできなかった。自分は死ぬのか?なんで、どうして?どうやって、そもそも本当に?調子が悪いわけでもない、自殺なんてまっぴらだ死ぬ気なんてみじんもない。でも、分かってしまった。感じてしまった、あれは本物だと。
急に、怖くなった、体が震えていた。……なのに、それ以上にムカついた。
ああ、イラついた、ムカついた、腹が立った、…怒りが、こみ上げてきた。
急に現れて、勝手に人に死ぬなんて言ってきて、そのくせあきらめるな?ふざけんな、だったら、俺は死なない。あいつの言う死なんて、踏みにじってやる。そのうえで、勝ち誇ってやる。あいつの呆気にとられた顔でも拝んでやろう。そんなことを思ったら力がわいた、それと、腹が減った。下に降りてご飯を食べよう、…なんか、変に落ち着いた。
「母さん、ご飯もらえる?」
下に行くと、キッチンに母がいたので、ちょうどいいと声をかけた。それに反応した母は、こちらに振り返り、俺の顔を見て何か頷いていた。
「やっと降りてきて、始めがそれ?まあいいわ。すぐに支度するから、座って待ってなさい。」
その言葉に従って待っていると、もう準備はできていたのか、すぐに用意してくれた。それに礼を言って食べ始めると、向かいに座った母が話しかけてきた。
「それで、なんかあったの?顔色は良くなったみたいだけど。」
そんなことを言ってきたので、思わず何が?と、返していた。それを聞いた母はあきれ顔になり、
「あのね、帰ってくるなり引きこもって、呼びかけても返事もしない。ドア叩いても、反応すらしなかった人を、心配しないわけないでしょ。一瞬見えた顔は、凄く蒼褪めて見えたし。」
そんな状態だったのか俺。それはともかく、あんなこと言えるはずもないので、
「まぁ、あったけど解決した。心配かけてごめん。」
そう言ってごまかした。
それに、母は何も返さなかった。ただ、こちらを静かに見つめるだけだった。目をそらしてた。居心地が悪くなったので、残りを掻き込んで礼を言い、席を立った。そんな俺に、
「わかった、今回は何も聞かない。その代わり、辛くなったり、耐えられなくなったらすぐに言いなさい。ちゃんと、聞いてあげるから。だから、無理はしないでね。」
凄く優しい声だった。強がりも、不安も、全部見抜いていて、そのうえで背中を押してくれた。泣きそうになったが、堪えられた。言葉に詰まり、ただ、「ありがとう」と、一言声に出すのがやっとだった。死にたくないと、強く思った。
朝になった、死神を探して街を回ることにした、学校はさぼった。いつ死ぬのか、それを聞いて、その日の対策を立ててやろうと思ったが、見つからない。でも、動いていないと嫌なことを考えてしまいそうで、じっとしていることもできない。そうやって街を回っていると、人気のない路地裏から声が聞こえてきた。確かめるため確認してみると、胸糞悪いものを見た。
「もう、やめてください。お金なら渡したじゃないですか。」
「なにが、俺ら、遊んでるだけじゃん。」
「そうそう、金はくれるっつうから貰ってやっただけだし、寧ろ、もっと遊んでくれってことなんじゃないの~?」
「あ~あ、こいつ泣いてるよ。そんなにうれしいですか~遊んでもらえて、しょうがないよな~、お金までもらっちゃったんだし。」
胸糞悪い、目の前が真っ赤に染まる気がした。人が…、こんな奴らは要らないだろ。飛び出して一人を後ろからぶん殴り倒した、驚いてる隙にもう一人の腹を蹴ってやった、そのまま倒れこんだので、ついでに顔面を蹴りぬいた。
「いきなり何しやがる!!」
最後の奴がそんなことを叫んでいたので、その隙に殴った。一発じゃ倒れなかったので、服をつかみ何度も殴った、最初の奴が起き上がりそうだったので、ちょうどいいと、掴んでたそいつを投げ渡してやったら、二人もつれながら倒れたので、そのまま蹴りつける。二人目の奴が、口から血を流して呻いているのが聞こえてきた。それがうるさかったので近づき、腹を何度か蹴りつけた。その後離れていると面倒なので、掴み起こし、他の二人に投げつけた。三人揃ったので、そのまま蹴り続けた。何度も殴った。
「ごめ…ごめんなさい。」「も、やめ」「口、歯が、あぐ」
何か言っている、それに構わず、続けた。服が血で汚された、血を飛ばしたやつを殴った。何か言ってきてる奴がいた、踏みつけた。呻いている奴がいた、蹴り飛ばした。
そんなことしていたら、急に後ろから押さえられた。
「お前、やりすぎだって、もう血まみれじゃねーか。落ち着けって!こんなんお前らしくもねー。」
そんな声が聞こえてきたが、構わず、体を起こしたやつの顔を蹴りぬいた。
「辞めろって!!」
うるさい、俺は死ぬってのに、なんだってこんな奴らが何で生きてんだ、ふざけるな。そんなことしか思えず、押さえられても構わず暴れた。
「落ち着けって!!」
いきなり殴られたので、そっちのほうを向くと、泣きそうになりながら、俺を見てる奴がいた。
「落ち着けって、とりあえず逃げるぞ、警察とかこられりゃやばい。」
そう言って、そいつは、俺を連れて走り出した。
どれくらい走ったか、息を切らした状態で思い、そいつに声をかけた。
「もう、いいんじゃないか?だいぶ、離れた、だろ。」
その声に反応してそいつは、止まったかと思うと振り返り、いきなり殴ってきた。それに驚きながらも、「なにすんだよ。」
と、そう言うと怒鳴られた。
「何じゃねーだろ、やっていいレベルとっくに超えてんだろあれ、血塗れだったじゃねーか、あいつら殺す気かお前は!」
「あんな奴ら、死んで当然だろ。」
「どーしたんだよ、お前らしくもない。大体やりすぎて止めるのは、お前の役目だろーが、いつもと逆じゃねーか。」
そんな事を、泣きそうな顔で言っているのをみて、段々落ち着いてきた。
「悪かった。」
それを聞いたそいつは、安心したように息を吐くと、そのまま歩きだしたので、後ろを付いていくことにした。しばらく歩いていると、公園が目に入ってきた。するとそいつは、その中に入っていったので俺もついていき、ベンチに腰掛けた。飲み物を買ってきたそいつは、俺に炭酸を手渡すと隣に腰掛けた。…口の中切れてるのに、わざとだな。
「何があったんだよ、お前昨日から変だぞ。」
「変って何が。」
「昨日変なの見たとか話したかと思うと、今日になって急にさぼるし、さっきの見ても、お前あそこまで絶対しなかったじゃん。それなのに何もないとか、ありえねーだろ。」
それに、俺は黙ることしかできなかった。死神とか、言えるわけもない。何もしゃべらない俺を見て、業を煮やしたのか、さらに話しかけてきた。
「まぁ、なんつーの、一応友達だし、何度も世話になってっから、出来る事なら?俺も力になるし?聞くぐらいなら時間もあるし、いくらでもできるっつーか。」
そんな事をこちらから顔を背けながら言った、柄にもないことを言って、照れてるのだろう。それを見て、耐えられなくなり、声を出していた。
「なぁ、もうすぐ死ぬってわかったらおまえどうする。」