表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の話  作者: カラク
4/8

少年の話 1

 ああ、まただ。またやってる。面白いかねぇ、弱い者いじめ。まぁ、しょうがないから、止めるか。

「おーい、そこらへんにしといたら、また停学になるぞ。」

 そう、泣き入ってるのに、殴りかかっている奴に声をかけた。声をかけられた奴が苛立たし気に此方に振り返る。

「アァ‼、ああ、お前か。」

 そう呟きながら、声をかけられてやる気が失せたのだろう。胸ぐらをつかんでいた手を放し、もう完全に泣いているやつを追い払う。もう気自体は済んでいたのだろう、面倒がなくてよかった。

「また喧嘩売られたん?にしても決着ついてたでしょ、とっとと切り上げりゃあいいのに。」

 そういうと、本人にも自覚はあったのか、少しばつの悪そうな顔で、そうだけど、とつぶやいていた。気にしてもしょうがない、暇してるなら遊びにでも誘おう。

「ちょうどいい、暇なら遊びいかね、俺もう暇で暇で。」

そうしたら、そいつはきまり悪げに断ってきた。

「悪い、俺今からデートなんだは。」

呆れた、今からデートだってのに喧嘩してたのかこいつは。というか、

「それって、時間大丈夫なのか?」  「かなりまずい。こりゃ、こんかいもおごりになりそうだ。」

そう言って、ため息交じりにぼやきだした。自業自得だろ、彼女さんは可哀想だね。

「喧嘩もほどほどにしとけよ、今どきはやらねーよ。」

そう言うと、そいつは、

「わかってんだけどねー、なんか売られるんだよね。なんとかなんねーかね。」

とぼやき、

「マジでヤバイ、俺もう行くわ、また誘ってくれ。」

と言って去っていった。それに応と返し、どうするかなぁと悩んでいると、暗がりから猫の声がした。さっきまで喧嘩なんてしてた所に猫なんているのか?と思いあたりを探してみると、隅の暗がりに黒猫が居た。

 いじめられてたのを助けでもしたのかね。なんて思いながら、何となく猫に近づいてみると、意外にも逃げなかった。そっと手を伸ばしてみたら、やはり逃げず、そのまま触れたので、撫でてみる。すぐにのどを鳴らしながら頭をこすりつけてくるあたり、だいぶ人懐っこい。…かわいいな、おい。

 そうしてひとしきり猫と遊び、そろそろ行くか、と立ち上がった。もうだいぶ暗くなってきたな、とあたりを見回した。すると、その暗がりの中に、黒い布のような変なものが見えた。なんだ、と目を凝らせば、黒づくめのでっかい鎌みたいなのを持ったやつがそこにいた。

 やばい、と思い目をそらした。目をそらしてから、そんなものいるわけがないと思いなおした。あんな凶器持った怪しいやつ、出歩けるわけがない、そう思い、もう一度確かめてみようとそちらのほうを見た。そこには、先程と寸分たがわない光景があった。固まってしまった。やばい、逃げないと。頭の中でそんなことを考えているはずなのに、体はピクリとも動かない。なかば、パニックを起こしていると、黒づくめが動き出した。

「うわぁ嗚呼アアァ‼」

 走った。悲鳴を上げながら、なりふり構わずただひたすらに走った。走りながらも、あんな奴いるはずないと頭の隅で考えながら、それでも、恐怖に負けた体は、それから逃げるべく全力で走った。

 どれくらい走ったのか、気が付けば人気のない公園にいた。もうあたりは真っ暗で、街灯がついていた。人気がないのは不安だったが、こんな住宅街にあんなのがいるはずがないと思い、飲み物でも飲んで落ち着こうとベンチに座った。

「はぁ、何だったんだあれ。コスプレか?幽霊があんなもん持ってるなんて聞いたことないし、あんな暗がりで、あんなコスプレとかシャレにならんだろ。」

と、独り言をつぶやいて落ち着かせていた。だいぶ落ち着いたところで、今日はもう帰ろうと思い、腰を浮かせた。明日あいつらに話して笑い話にでもしよう、怖いし。

 翌日になり、昨日見たものが気になり、放課後、自転車で同じ場所に行ってみた。そこには何もなく、やっぱり幻か、コスプレ野郎だったんだろうとあたりをつけて、気分を晴らした。ただ、遊びに行く気にはならず、そのまま帰ることにして自転車を走らせていると、昨日の公園にさしかかった。すると、そこに奴がいた。昨日と同じ格好のまま、公園のど真ん中にそいつは立っていた。

 腹が立った。馬鹿にされていると思い、ぶちのめしてやろうと、怒鳴りながら近づく。

「てめえ、昨日といい今日といい、おちょくってんのか‼アァ‼面見せろ!!」

そう言いながらつかみかかる直前で、そいつは、特に焦るようなこともなく、淡々と声を出した。

「昨日はすみませんでした。まさか、見える人だとは気づかなくて。」

 そんな風に、素直に謝れるとやりにくい。いったん落ち着くことにしよう、それでも、こいつには文句言ってやらないと気が済まないが。

「なんでそんな恰好であんな暗がりにいたんだよ。今日、かなり笑われたんだぞ。」

と、苛立たし気に問い詰めると、そいつはこともあろうに、

「わたしは、あなたの死を見届けに来ました。」

と、いきなりこんなふざけたことを言い出した。

 やっぱりおちょくってんだろこいつ。そんなことを思い、武器を持ってるから強気なんだろと思い、そのでっかい鎌みたいなのに手を伸ばす。

「ふざけんな!そんなもんで威嚇してるつもりか、そんなおもちゃ、ぶち壊してやる。」

そう言って伸ばした手は、なにもつかむことはできなかった。

「は?」

 そんな声が口から洩れた、そいつは間違いなくそこにいる。なのに、なんで触れられない。わけがわからなくなり、とっさに殴りかかっていた、条件反射みたいなものだろう、少しでも脅威をなくそうとする、だけどそんな拳も、あっさりと空ぶった。そいつは少しも動いていないのに、そこにいるのに。訳が分からない、そんな思いを吐き出すように、気づけば叫んでいた。

「なんで触れられない、お前何なんだよ!!」

そんな叫びも、そいつは気にした様子もなく、繰り返しさっきの言葉を言っていた。

「何を聞いているのか分からないけど、私はあなたの死を見届けに来ただけ。それ以外は、何もない。」

 意味が分からない、なんだそれは、俺を殺すってことか?こんな変な奴に恨まれる覚えなんかない。そんな風に混乱していると、俺の様子に納得してないと思ったのか、そいつは、こんなことを言い出した。

「そんなに怯えなくても大丈夫です。私はもうじき死ぬあなたが、行く先に迷わないように、見届けに来ただけなのだから。」

 そうやってそいつは、見た目のまま、死神みたいに、何でもないように当たり前のように、俺が死ぬと告げてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ