表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
be alive  作者: ROM99
6/16

06

「ぐはっ、ごほごほっ、うぇ、うぐぅ…」

「ふう、さすがに今日はこれで終わりだね。」

うずくまったまま、もはや、立つ事すらできなくなっている紘一に対して、ようやく息が上がってきた程度の瞬。これが今の二人の実力の差だった。

朝から晩まで続いた修行は、砕けた紘一のプロテクターに回復スキル、スチームキュアをかけては、砕き、回復しては砕きを続けた。

いかにLIVINGとなって身体が強化されているとはいえ、中の人間は人間でしかない。紘一のスタミナは、瞬の十数度目のセイクリッドレイで、完全に底をついた。

「変身解除…ウーロン茶でいいね。さすがに今炭酸飲んだら吐くでしょ。」

「変身…解除…。案外、優しいんだな…。ごほごほっ…。」

冷蔵庫を開け、グラスにウーロン茶をつぎながら、瞬は振り返らずに言う。

「まあ、愛弟子に優しくするのは当然でしょ、なんてね。ほら、飲みなよ。」

「す、すまない…」

グラスを掴む手もおぼつかないほど、疲弊していた紘一は注がれたウーロン茶を一気に飲み干した。そして、グラスをテーブルに置くと崩れるように、床に寝転んだ。

「まったく、だらしないなあ。その程度じゃ、かたき討ちは当分先だね。なっさけない。」


瞬は目にかかる前髪を触りながら、紘一の状態を侮蔑した。瞬はソファに体を預けると、今日の批評を始めた。

「うーん、まあ、まず圧倒的にステータスが足りなすぎる。Lv6なんてはっきり言って問題外だよ。ただ、戦い方は悪くないんじゃない。僕としてはこざかしく映るけど。」

瞬は紘一の戦いぶりに目を見張るものがある事は素直にほめた。

「ただ、その戦い方は強襲者には通用しないな。相手が人間であれば、驚きもすれば、たじろきもするだろう。けど、強襲者は怨念に取りつかれた魔物。動物みたいなもんだ。小手先の技術に驚くほどの知能を持ってないのさ。」

横たえた体を紘一はゆっくりと起こす。

「だからこそ、今回、瞬、君に、手解きを受けたいんだ。」

「まあ、暇な時なら相手してあげるよ。こんなに朝から晩までやるのはごめんだけどね。全く、年下の弟子なんて扱いづらくてかなわないよ。」

瞬も自分のグラスに入ったコーラを飲み干すと、紘一に帰るよう促した。まだ瞬はここに残ると言う。紘一はその疲れた体を引き釣りながらビルを後にした。

「メリー、今日のことはクランの皆には黙っといて。」

瞬のスマートフォンに入っている"執事"のメリーは聡明そうな女性の声で答える。

「宜しいのですか、有能なファイターですのに。クランにスカウトしても。」

「まだ、その時じゃないよ。それにあの紘一って人、まだきっと色々考えてる。」

「あら、随分、あの方を買ってらっしゃるのですね。妬けてしまいますわ。」

"執事"のメリーはおどけた調子で瞬をからかった。


紘一はボロボロになった自分の体を引きずりながら、爆発のあった鳥貴族まで、足を運んだ。封鎖線ははられているが、警察などはもういないようだ。人目を気にして封鎖線の中に入り、スマートフォンを開く。

「強襲者の気配は?」

「もうこの周辺にはいないようです。いわゆる呪縛霊ではないようですね。南東の方角へ向かったようです。後をつけましょう。」

「ああ、そうしてくれ。」

スマートフォンの中の"執事"リヴは、強襲者の跡を捜索し、方角を示した。

「どうやら地下に行ったようですね。」

そこには地下鉄の入り口。まだ、人の出入りのある時間だ。スマートフォンの画面に従い、進んでいく。そして着いたのは…。

「地下鉄のホーム…。」

「恐らくは、ですが、ここで命を絶ったのでしょう。そして、ここが強襲者の思いの強い場所、つまりは居所となったのでしょう。」

「じゃあ、なぜ、トリキに?」

これも推察ですが、と前置きし、リヴは続ける。

「強襲者は孤独の末に命を絶ったのではないかと。だからこそ賑わっている場所への憎しみを募らせる。それが今回の爆発になった、という事でしょう。」

「そうか…。」




翌日、体中が悲鳴を上げて指一本動かすのが精いっぱいという状態で目を覚ました紘一は自室から這いずるように階下に降り、グレートピレニーズのテンに餌をいつものようにやり、そのままどっかりと、リビングのソファに体を横たえた。

「リヴ、俺が勝てそうな強襲者のリストアップは終わってるか。」

「ハイ、勿論でございます、紘一様。しかし、今日は午前中の講義はございませんし、しばしお休みになられた方が良いかと。」

「わかってる。この状態じゃ勝てる相手にも勝てやしないしな。ただ、行くところがあるんだ。」

うめき声をあげながらソファから立ちあがると、自宅を出る準備をよたよたとしながら始めた。




コンコンコン、紘一は樫製のドアを叩き、中の人物に尋ねる。

「失礼します。神田先生、いらっしゃいますか?」

「はあい、どうぞー。」

ガチャリと、創設以来作り替えられていない重厚なドアは、泰然とした雰囲気を保ったまま、開いた。

「あら、珍しい。田中君ね。この前の講義、追い出された分の補填でも、しに来たのかしら?」

「いや、そういうわけじゃなく、質問がいくつか。お時間宜しいですか?」

神田涼子教授、この大学の文化人類学の教授にして、文化人類学、とみにシャーマニズムに関しては権威ある壮年の女傑である。

「どうぞ」と一言いうと顎でソファに座るように促した。

「そうそう、ちょうど美味しいコーヒー豆をゼミ生からもらったのよ。田中君コーヒー飲むわよね。」

「ああ、ありがとうございます。」


「さて、どんなご質問かしら?」

対面式のソファに腰かけ、満面の笑顔で聞いてくる。彼女と紘一の前にはよい香りのたつコーヒーが淹れられていた。

「なんというか、その、霊は、どうやったら、開放されるんでしょうか?怨念や悲哀を抱えたまま死に、誰かに救われることもなく漂ったり、その場に固執したり…。それを解決すれば何か変わるのでしょうか?」

「ふーん、なるほど、面白いわね。そういう発想をざっくりと、シャーマニズムと呼ばれるけど、この世界には多くのシャーマンと呼ばれる人たちがいる。彼らはそれぞれの方法で、その怨念や悲哀を浄化する事で霊を開放してあげるの。」

神田教授はコーヒーを一口すすってからさらに続ける。

「例えば、祭、って私たちはイベントの一つとして楽しむけど、そこには霊的な意味合いも強く合って、五穀豊穣を祈る祭もあれば、霊を鎮める地鎮祭、なんていうのも、その最たるものよね。日本では神主さんと呼ばれるシャーマンを呼んで、祝詞を唱えて酒を霊に振舞って、その地にいる霊を鎮めるのよ。」

「霊を敬うという事ですか?」

「そうね、そういう側面もあるわ。あとはエクソシストに代表される強制的に除霊するタイプね。そちらは悪質な霊を儀礼によって退治してしまう。ただ、こちらの場合は、シャーマンが強くなければいけないわ。除霊に失敗すればタタリやケガレを残すことになる。」

聴きなれぬ言葉に紘一は首をかしげる。それに神田教授は反応した。


「ケガレっていうのは、忌まわしく思われる不浄な状態。死や疫病などによって生じて、共同体に異常をもたらすもののことよ。ケガレはほおっておくと更なるケガレを呼ぶわ。だからこそ、除霊するのであれば徹底して除霊しなければならない。」

「ケガレがケガレを呼ぶ…。」

「そう、霊を鎮めるか、退治するか。霊を開放するには大きく分けてこの二つ、というわけ。もう一つの質問の方ね。これは、そうね。解決が何を指すかによるわ。例えば、孤独を抱えた霊に孤独ではない事を伝えたり、恨みを抱えたまま霊になったものには恨まれる側に罰を下す、といったものがあるわね。どう、答えになったかしら?」

「…はい、ありがとうございます。貴重な時間を使わせてしまって。」

「いいのよ、学生の悩みを聞くのも教授の仕事だもの。ほら、せっかく美味しいコーヒーなんだから、飲んで。ま、あなたにはあなたなりのやり方があるはずだわ。無理はしないで、ね?」

「え?あ、は、はい…。」

そういうと紘一は残りのコーヒーをぐいと飲みほした。


「それじゃあ、失礼します。ありがとうございました。」

「また何かあったらおいで、コーヒー淹れるくらいしかできないけどね!」

パタンとドアを閉まる音がすると神田教授もコーヒーの残りを飲み干した。

「LIVING、か…。私もあと三十年若ければなってたんでしょうけど。強力なシャーマンを疑似的に生み出し、除霊にあたらせる。この方法が本当に正しいかはわからないけれど、この世界はタタリとケガレに満ち溢れている。それも事実よね。」

神田教授はひとり呟いた。




「紘一様、先ほどの質問の意図は何だったのですか?」

「え?ああ、いや、俺たちLIVINGは強襲者という悪霊と戦うのが目的だけど、それ以外の方法は無いのかって考えてね。」

「戦う以外の方法、ですか…わたくしには解りかねます。」

紘一は大学前のSUBWAYでハニーオーツのサンドイッチを頬張りながらリヴと会話していた。

「まあいいよ、今日の夜、強襲者と早速戦おうと思う。あと、強襲者についてなぜ、強襲者になったのかを調べられたら調べてくれないか。」

「畏まりました。」

その後、紘一は午後の講義に参加し、夜を待った。


そこは雑居ビルの屋上。

「ここ、か…。」

室外機の並ぶ、何も変哲のないビルの屋上、しかし、夜だから、という理由ではない、陰鬱な雰囲気が辺りに漂っていた。

「寒いな…。」

「ハイ、強襲者が現れる場所にはその霊力に反応して、周囲の温度を下げます。お気を付けください。既にここは強襲者のテリトリーです。」

紘一の声にリヴが注意を促す。見渡す限り、人影などは無い。にも拘らず、何かの気配を感じる。何かいる。

『終わらない、終わらない、終わらない、終わらない、終わらないぃぃぃぃぃぃ!!!』

「な、なんだ、何か聞こえた!?」

「紘一様、強襲者の怨念が形を成しつつあります、変身を。」

「わかった、…変身ッ!」

紘一の体を光が包むと赤を基調としたプロテクターのLIVINGへと紘一は変身した。


「あれは…!?」

先ほどまでに何もいなかった、屋上の手すりの隅に青白い、人の陰のようなものが紘一の目に映った。

「終わらない、終わらない、終わらないんだよぉおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

陰は慟哭し、それとともに人型のクリーチャーへと形を成した。それは体中の皮膚だけを剥かれ、全身の筋繊維がむき出しになった人の姿のようだった。

「Lv6、グールです。あれは、自らに課せられた仕事が積もりに積もり、無理な残業の末にパニックを起こしこの屋上から飛び降りました。生者への憎しみよりも、自分に対する怒りが彼を強襲者へと変えたようです。」

「いわゆる、ブラック企業で働いていた人間の末路か…。可哀そうに…。」

リヴは同情の念を感じた紘一に叱責した。

「感情移入しては攻撃の手が緩むだけです。それに、その心の隙間に入り込み、場合によっては紘一様の精神をむしばむ存在が強襲者なのです。気を付けてください、強襲者がこちらに気付きました。襲ってきます!」

「うぐわぁぁあああぁぁぁあぁっ!」

強襲者は叫びながら紘一に向かって腕を振り乱しながら襲ってくる。振り乱した腕にぶつかり、紘一は反対側の手すりへと激突する。

「ぐわっ!」

ぶつかった手すりがぐにゃりと曲がる。紘一が立ち上がる間もなく強襲者がさらに突進してきた。

「があ、ぐはっ!」

「終わらないぃぃぃぃぃぃ!」


叫びながら強襲者はギリギリと両手で紘一の首を締めあげた。紘一の体が浮かぶ。

「強襲者は自分の味わった苦痛の体験を、LIVINGに強制しようとします。ビルから紘一様を落とすつもりです、脱出してください!」

紘一はその声に反応して右手の剣で、強襲者の顔を斬りつけた。

「ぎゃああぅうぅうぅぅぅぅぅ!」

強襲者は痛みにひるみ、手を離した。そのまま顔を押さえて二歩、三歩と後ずさった。そこに紘一が語り掛ける。

「俺は…俺は、あんたの苦しみを理解してあげることは出来ない、代わってやることも。でも、苦しみをここで終わらせることなら出来る!俺は、LIVINGだから!俺があんたを開放する!」

そういうと、紘一は一足飛びで強襲者に飛び込むと袈裟切りに一閃し、その反動で胴を薙ぐ。今度は左手の盾で顔を殴りつけると、今度は強襲者が反対側の手すりに激突した。

「うおおぉぉぉぉぉ!」

紘一が咆哮し、体をぶつけるように、剣を強襲者の腹部に突き刺した。

「終わらない、終わらないんだ、終わらないんだよぉぉぉぉぉぉ!」

痛みによる叫びではなく、心の叫びを口にする強襲者。紘一の体を引きはがそうと、両の手で紘一の肩を押さんとする。

「大丈夫、終わりだ。終わるんだ、安心してくれ。ここで終わる。」

そういうと紘一は左手の盾を落とし強襲者の肩を抱いた。そして、刺さった剣をさらに深く突き刺した。

「終わる、終わるのか、オレの、オレの、終わり…。良かっ……。」

突き刺した剣から青いサファイヤのような四角い大小のオブジェクトが溢れだす。そしてオブジェクトの光が強襲者全体を包むと強襲者は中空へと姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ