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「アカネ様はここから100m以内ですが、それ以外にLIVINGの反応が9人。お気をつけて!」
リヴの警告が響く。スマートフォンのディスプレイにアカネの位置とそれ以外のLIVINGの反応が示される。紘一が掴めるという事は敵対しているLIVINGも同じ情報を掴んでいるという事だ。今は紘一よりも敵対しているLIVINGの一人が一番アカネに近い。目の前の角を曲がれば大通りだ。
「アカネ…!待ってろ!」
大通りを前にして目の前に不良じみた男が二人、裏通りを塞ぐように立ちふさがる。
「おいおい、ヒーローのお出ましか?」
「ふふん、ここは通さねえよ。通りたいんなら俺たちと遊んでからだ…。」
「どいては、くれないよな…。変身ッ!」
紘一は光に包まれると赤を基調としたプロテクターを身に着けたファイターへと変身する。
「あん?あのアカネとかいう女と同Lvくれえか。俺ら二人の相手にゃならねえなあ。変身。」
「先にお前をやってからあの女をいただくとするか。変身。」
一人の男は斧のような形をした大剣を担いだ灰色のウォーリアー、もう一人は迷彩柄の無手、つまりマーシャリストだろう。
『クッ、Lv26とLv24、まともにやりあえば敗ける…。なら、まともにやらなきゃいいだけだ!』
紘一は幾何学模様の入った盾を持つ手を真っすぐ伸ばし、剣を隠すように構える。ウォーリアーにはリーチでは敵わないがマーシャリストにはリーチで上回る。
「…どうした、かかってこないのか?まあ、口だけでも達者なのは特筆すべきなのかもしれないけどね。」
「んだと、このガキぃ!?」
「なめてんじゃねーぞ!」
露骨な挑発にウォーリアーとマーシャリストが載る。ウォーリアーが先に地面を蹴って斧を上段から振りかぶって迫る。
「サイクロプススラストォォ!」
『引き付けて…今だ!』
斧の刃と衝撃波が当たる直前まで引き寄せ、構えたままぎりぎりでウォーリアーの後ろに回り込むように躱す。サイクロプススラストは上から振り下ろしたときにのみ発動が可能なのは流南と小林琢磨の動きで学習済みだ。でなければ、ソードオブフルムーンの存在理由がない。
「ッシャア!」
ウォーリアーを躱したと同時にマーシャリストが拳を引いて殴りつけに来る。これがスキルだろうと、ただの体術であろうと紘一には関係がなかった。既に紘一は盾を持つ手を伸ばし体勢を整えていた。
「シルバーファング!」
「ぐはあ!?」
シルバーファングは盾を突き出すように構えた時にのみ発動可能なスキルだ。剣を隠すように構えたのは、剣での攻撃を読みにくくするためでもなく、そちらに注意をそらせて盾での攻撃、シルバーファングを放つ体勢を整えるためだ。シルバーファングで吹き飛びはしなかったが、マーシャリストのプロテクターが大きく破壊され、体勢を崩す。
「くらえ!!」
盾に隠すように構えていた剣を全速力で相手の肩口から腰まで振り抜き、迷彩柄のマーシャリストを切り裂いた。青い四角のオブジェクトが大小まざって溢れ出し、そして光に包まれていく。それを見る間もなく紘一は変身を解き、大通りへと走り抜けた。
「お見事です。あと三つ先の雑居ビルにアカネ様はいます。階段で屋上へ向かって移動しているようです。」
「わかった!」
リヴが賞賛とアカネの現在位置について早口で伝える。状況は切迫している。アカネは昨日の戦いでまだ変身できる状態ではない。"紅狼人"の人間に見つかれば文字通り餌食となる。
「ここか、よし、エレベーター…エレベーターで上がるぞ!」
「ビル内の地図です。エレベーターを上がり、右に出てその先が屋上です。」
紘一はエレベーターに乗ると表示されている最上階のボタンを連打する。エレベーターが上昇していく。古い雑居ビルの低層ビルだ。紘一の気持ちとは裏腹にエレベーターは遅々として進まない。ようやく最上階。扉がようやく開く。そして右へ。
「な、いきどまり?!」
右に曲がったその先には大量の段ボールや空き箱、不用品の類だろうか、山積みになり天井まで塞いでいた。
「いえ、設計上はここから上がっていけるはずです。遮蔽物を破壊しましょう。シルバーファングがもう使えます。」
そういうと紘一の体は再び光り、ファイターへと変身し、左手の盾を前に突き出す。
「シルバーファング!」
轟音とともに、目の前を遮っていた様々な段ボールや空き箱などが粉々になり、同時に屋上へのドアも破いたのだろう。その先に満月が煌々と輝いていた。
「いくぞ!」
「ア、アカネ!!」
「…お、遅いじゃないかよ…くそ。ゴホッゴホッゴホ!」
体中傷だらけになり着ている服もあちらこちらが破けている。
「ああ、もうおせえよ。来るのがあと5分早けりゃな。」
そして傍らには服が破け、傷がつくほどの暴行を働いた主であろう赤、いや紅色のプロテクターで身を包んだLIVINGがいた。右手には鋭くとがった紅色の剣、左手にはまるで炎を模したような形の盾が握られている。恐らくファイターなのであろう。
「この女にはうちのメンバーが三人やられてるんだ。ただスピリット稼ぎに落魄させただけじゃ済ませられなかったのさ。ちょっと痛い目みてもらわないと…割が合わねぇんだよ。」
「よせ、これ以上はさせない!」
「おうおう、カッコいいねえ、が、たかがLv23程度のファイター一人でどうこうできるとでも思ってんのか?」
紘一のヘッドギアに目の前のファイターのLvが表示される。62。今までLv差のある相手と戦ってきた紘一でもここまでの差は無かった。絶望的な数字である。さらに時点は悪い方へと転げる。
「志狼さん、遅くなりました。」
方々のビルから、"紅狼人"のメンバーが飛び移ってきた。その数、6人。
「てめえ、裕也をやりやがって!ただじゃすまさねえ!」
先ほどのマーシャリストといたウォーリアーもいる。完全に囲まれている。
「アカネ、お前、俺の女になれよ、そうしたら助けてやってもいいぞ。」
志狼とよばれたファイターは、アカネに問いかける。
「ふ、あんたの"アレ"をかみちぎっていいなら、考えてやるよ。あたしは小林琢磨にほれてるんだ。他を当たりな。」
「この状況で剛毅だねえ。ますます屈服させてやりたくなるよ。まあいい。お前はデザートにしよう。ディナーのメインはそこのヒーローだ。で、どうするんだい、ヒーローさんよ。この人数相手に勝てるとでも?」
「…そうだな。あんたがこのたったLv23のファイターの俺に恐れをなして、袋にしようって言うなら勝てないだろうな。まあ、関東でもそれなりの規模のはずの"紅狼人"のトップがそんな恥ずかしい真似はしないだろうが。」
「あ?」
紘一は大げさなまでに仰々しく志狼と呼ばれた男を煽る。
「あ、そうか。あんたがトップってわけじゃないのか。言ってみればバイトリーダー的存在、社員がいてその下、みたいな?"紅狼人"の代表は今日は来てないのか?折角だから会ってみたいと思ったけど。残念。」
「…んだとこらぁ、志狼さんなめてんじゃねーぞ!?」
「てめえ志狼さんになんて口きいてんだ、あ!?」
「ぶっ殺すぞ、こるぁ!?」
周囲を囲む悪辣なLIVING達から怒号が飛ぶ。
「てめえ、調子こいてんじゃねえぞ、俺が、"紅狼人"のトップ、三上志狼だ!三下程度がほざいてんじゃねえ!」
「うそだろ、あんたみたいな小物が?信じられないな。」
「…こンのガキがぁ!!おめえら、手出しするんじゃねえ、俺がこいつを殺す!落魄だけじゃ済まさねえ!」
志狼が剣と盾を構えなおして、紘一へ突っ込んでくる。
「おらあっ!」
紘一がいまだ体験した事のないほどのスピードで、突進し、剣を振るう。それを紘一は志狼の右手側に躱す。紙一重。
「うるああ!!」
即座に振った腕を戻して紘一に裏拳を見舞う。
「ぐあっ!!」
振るわれた裏拳を盾越しに受けた紘一はまるで投げられた石礫のようにまっすぐに屋上ののフェンスまで吹っ飛ぶ。ぐしゃりと音が鳴り、フェンスが歪む。
「達者なのは口だけか、あぁ!?」
剣で斬りつけられたわけでもないのに盾にひびが入る。このLvまで殆どを防御力に費やしてきた紘一の防御の要の盾が一撃で、である。
「達者なのは口だけって、さっき俺が言ったセリフだな…。くそ、盾にヒビ入ったよ。」
『なんて強さだ、瞬とやりあった時の比じゃない。別次元の相手だ、が、賭けにさえ勝てば、勝機はある!』
「どこまでもふざけた野郎だ。ギリギリまで痛めつけてやらぁ。…おるぁあ!」
一瞬でフェンスにもたれていた紘一に迫り、紅色の剣で袈裟斬りに斬りつける志狼。咄嗟に紘一は盾で自身をかばう。ガキイィッという金属音とともに盾が二つに割れる。どうやら剣の刃は腕のプロテクターまでをも切り裂いたようで熱にも似た鋭い痛みが紘一を襲う。
「ぐうっ!」
紘一は追撃されぬよう先程よりも深く志狼の右手側へと体を入れる。ぽたぽたと血がプロテクターの隙間から溢れ出る。拳を握りしめて痛みに耐える。しかし、それでも紘一は態度を改めない。
「なるほどね、確かに強いよ。さすが、"紅狼人"の自称トップってだけはあるね。ところで…。弱い者いじめして優越感に浸るのもいいけど、賭けをするなんてのはどうだ?」
「あン?」
「10分間、あんたが俺を一方的に攻撃する。俺はそれを避け続ける。反撃はしない。それで10分間逃げきれたら俺の勝ち。負ければ俺もアカネもあんたの好きにしていい。」
「ケッ、馬鹿が!そんな下らねえ賭けに乗るわけはねえだろうが。俺に勝った時のうまみは何もねえ、それに反撃しないんじゃなくて出来ないの間違いだろうが。同じファイター同士、Lv差は歴然。特に俺はスピードと攻撃力に特化してる。てめえの、のろまな攻撃なんて喰らう前に俺がてめえを八つ裂きに出来る。」
『賭けにはのってこない、か…。』
紘一はわざとらしく微笑みを浮かべる。
「窮鼠、猫をかむとも言うぞ?」
「あいにくと、俺は猫じゃなくて狼なんでな。おしゃべりはおしまいだ。いたぶらせてもらうぜ?」
志狼が一瞬かがんだように見えたその刹那、間合いを詰めて剣を振りかざす。紘一はそれに反応して自らの剣を両手で持ち、剣で受け止める体勢をとる。
「馬鹿が!」
ガンッという鈍い音が紘一の頭蓋の中で響く。志狼は右手で剣を振りかぶったが、攻撃に使ったのは火を模したような盾であった。顔を守るヘッドギアが一撃で砕け、紘一は宙を舞い、アスファルトに体を強かにぶつける。紘一の視界が歪む。目の焦点が合わず、脚に力が入らない。剣は、ある。剣を杖代わりにして、何とか体勢を起こそうとする。
「おらあ!」
「ごはっ!!」
上体を起こしたところを今度は腹部を全力で蹴り込まれ、腹部のプロテクターにヒビが入る。別の痛みに今度は視界がはっきりとする。その代わりにやってくるのは、横隔膜がこれ以上いかないところまで上がる事による呼吸困難だ。
「…っぁは!っぐ!!」
のたうち回る紘一に対して周囲のLIVINGが囃し立てる。
「おいおい、もうお終いかよ、情けねえぞ、もっと楽しませろ!」
「志狼さん、もうやっちゃってくださいよ、そいつに裕也やられてるんすよ!?」
「外野は黙ってろや。今やってんのは俺だぞ?」
志狼の一言で周囲のLIVINGは一斉に押し黙った。
「おい。」
「ぐ、があ!」
志狼は雑に紘一の髪を掴み上を向かせ無理やり立たせる。同時に髪がちぎれる音が聞こえる。
「だいぶ舐めた真似してくれたなあ。この代償は高くつくぞ、おい。今日で、"DSV"も"グラスハート"もお終いだ。てめえも死なねえ程度に加減してやるが、死んだほうがマシかもしれねえ、そんくらいには痛めつけて、やる、ぜ!」
志狼は剣を握った手で胸を思い切りなぐりつける。ザリザリと嫌な音を立ててアスファルトを削りながら紘一はアスファルトの上を滑った。
「ハハハハッ、最ッ高の夜だ。」
煌々と満月が辺りを照らしていた。
「ぐあ、があ、がはあ!!」
「おらおら、最初の威勢はどうした!?」
志狼は途中から剣と盾を投げ捨て、紘一を拳、あるいは脚で、蹴り殴り、叩きつけ、弄んでいた。何分たったであろうか。もはや紘一のプロテクターは見る影もなく、プロテクターの下のスキンのみが彼を守っている状態だったが、それもあちこち擦り切れてしまっている。
「ふふ、てめえの赤いプロテクター、気に入らなかったんだよ。紅は俺だけが付けて良い色だ。」
それでも紘一は剣を離していなかった。それは紘一の意思の表れでもあった。
「ケッ、生意気な野郎だぜ。気に食わねえ。」
紘一は最早息も絶え絶えといった表情だったが、何度倒されても立ち上がり、そして剣を握り構えた。
「もうお終いだ。いい加減飽きてきたぜ。」
「…はぁ、はぁ、俺も丁度飽きてきたところだ…。この賭けは、俺の、勝ち、だ。」
「あン?」
紘一が勝利宣言をしたのとほぼ同時に青い閃光が志狼の胸を撃った。
「ごあぁあ!!」
志狼が咄嗟のことに反応できずに、もんどりうってアスファルトに転がる。紘一はその様を見てすぐに剣を捨て、一直線にアカネに駆け寄る。
「うわあ、なにすんだ!?」
アカネを砂袋を担ぐような体勢で背負うと紘一は最後の力を振り絞って、屋上のフェンスを飛び越えた。
「逃げるんだよ!この勝負、俺の勝ちだ!」
紘一は落下する瞬間に叫ぶ。
「ライカウィング!」
着地する寸前にふわりと一度、アカネを担いだ紘一の体が浮き、落下の衝撃はプロテクターをほぼほぼ壊された紘一でも耐えることが出来た。
青い閃光、アブソリュートショットダウン。ハンターの攻撃スキル。
「チッ、射抜くまではいかなかったか。紘一、貸しが一つ増えたわね。」
道路を挟んだ反対側のビルからオレンジ色のプロテクターに身を包んだ茉奈は一人呟いた。
読んで下さった方に最大限の感謝を。
ユニークPV100件を越えました。本当にありがとうございます。
今後も不定期ではありますが、更新をできる限り続けていきたいと考えています。
ぜひ、今後もお付き合いください。
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