15
「"冠刀連合騎士団”に、"紅狼人"、それに"soul and sword"。これが今の関東のメインクランか。」
「はい。以前もお話しした通り”冠刀連合騎士団"は対強襲者を主目的にしております。対して"紅狼人"は対LIVINGを主に活動しています。"soul and sword"も対LIVINGですが、悪辣なLIVINGのみを狙っているのが特色ですね。」
「ふーん、なるほどなあ…。クラン、かあ。」
紘一とリヴは自宅でクランについて話をしていた。今まで、紘一は一人で戦ってきた。しかし、それにも限界があり、複数人での行動の方が対強襲者にしても、まだ未知ではあるが、対LIVINGでも高い効果を発揮するという事はわかっていた。だからこそ、流南華南姉弟に協力を紘一は求めた。個の力は弱くとも多数であれば乗り越えられる困難もあるだろう。しかし、巨大なクランであればあるほど機微な行動をする事は難しくなっていくはずだ。紘一はどこかしらのクランに加入する事を検討しているのだ。
「流南と華南はフリーなんだよな。瞬はどこかのクランに所属しているのか?」
「いえ、瞬様はクランには参加しておりません。」
「まあ、一匹狼的な感じもあるもんな。」
笑いを含んだ紘一の声は自室に響いた。夜の帳はおり、自室のデスクライトとスマートフォンの明かりだけが部屋の輪郭をぼんやりと照らしていた。
「…ところで、"冠刀連合騎士団"だけなんで、そんなに規模が大きいんだ?」
"冠刀連合騎士団"は現在1000人を超えるクランだが、それに次ぐ、"紅狼人"は50人強、"soul and sword"は40人程度だという。
「"冠刀連合騎士団"はクランマスターの烏丸源治の圧倒的な経済力によって巨大化したと言っていいでしょう。」
「経済力?」
紘一は一見"Be Alive"から離れたように感じる言葉に疑問符を付けた。
「はい。烏丸源治は、あの烏丸建築の現CEOであり、一代で会社を今の規模に持って行ったやり手です。」
「あの烏丸建築の!?」
烏丸建築と言えば、関東近郊でも有数の建築会社である。個人住宅を主に手掛け、デザイン性の高い住宅から一般住宅の改修などを請け負い、工事費の安さとそれに見合わない高度な技術をもって急成長を遂げている会社である。
「烏丸源治はこれと思ったパーティーやクランなどのLIVINGを社員として雇い入れ、建築業と並行して"Be Alive"の行動を業務として遂行しているのです。」
「そんなことが可能なのか?」
「LIVINGは世界を股にかけて行われている巨大プロジェクトです。そこに表立ってはいませんが巨大な資本が流れているのもまた事実。紘一様に提供されている"Be Alive"の特権などはその一例にすぎません。烏丸建築は雇ったLIVINGに強襲者の情報の収集、解析をさせ、その強襲者をいかに効率的に排除できるかのメンバーの編纂、そして討伐と一連を担っているのです。それによって"Be Alive"側からの資金援助が入っているために、所属するLIVING達に給料を渡すことまで可能としているのです。」
「そら恐ろしい団体だな…。でも、まあ、普通のLIVINGにとっては魅力的か。」
「ええ、そうでしょう。今まで特権があるとはいえ無給で戦ってきたLIVINGに給金まで支払われる。それは大きいはずです。」
紘一はリヴの言葉に深く頷くが、烏丸源治のやり方に違和感を覚えたのは確かだった。強襲者との戦いは、金でどうこう、といったものではないように感じるからだ。
「対強襲者を主目的とする規模の大きいクランは他にないのか?」
「十数人程度のクランになりますがいくつか。"グラスハート"、"DSV"、"銀導師会"がそれに当てはまりますね。ただ、"銀導師会"はクリスチャンによるクランとのことですから、"グラスハート"、"DSV"の二つでしょうか。」
「よし、"グラスハート"と"DSV"の代表にコンタクトはとれるか?」
「はい、先方にはわたくしから連絡しておきます。直接会われるという事で良いでしょうか?」
もちろん、と紘一は返すと、紘一は新たな出会いに心を躍らせた。
明くる朝。
「おはようございます。紘一様。お目覚めの時間でございます。」
「…うーん、おはようリヴ。」
気だるげに目をこすりながらリヴの朝を告げる声で紘一は体を起こし、大きなあくびを一つする。
「早速"グラスハート"の代表の市川悠馬様からLINEが来ています。代読してよろしいでしょうか?」
「おお、はやいな。頼むよ。」
「こちら、グラスハートの代表市川悠馬です。そちらの"執事"リヴさんから連絡をもらいました。加入者はいつでも歓迎ですので、今夜予定が空いていれば、お会いできませんか?場所は追って私の"執事"サラから位置情報をお知らせします…だそうです。」
最後はリヴのいつもの声だが、読み上げた文章の声は代表の市川のものだろうか、落ち着いた男性の声だった。
「お前、そんな芸も出来るのか…。よし、今夜なら大丈夫。連絡しておいてくれ。」
階下から母の声が聞こえる。いつものテンへの餌やりの催促だった。適当に返事をして、階下へと降りる。テンがいつもの如く朝の挨拶と謂わんばかりに巨躯を躍らせながらじゃれついてくる。餌をやったら自分はシャワーを浴びて、身支度を整える。今日はMA-1に黒のデニム、白のTシャツ、プエルタデルソルのネックレス。今日は講義も少ないからクラッチバッグにしようか。シューズは黒のコンバースのレースアップ。決まりだ。家を出て鍵を閉め、大学へと向かう。
「コウ、おはよう!あ、そのネックレスおにゅーでしょ!?」
「おお、ユイ、あれ、これはじめてだっけ、この前安売りしてたからぽちった。」
いつものようにユイに駅前で出会う。元気な姿が見れるのはやはりうれしいものだ。
「ところで、合コンどうすんの?」
「ああ、やばい、全然考えてなかった…。どうしよっか。」
「ええー、コウにしては珍しいじゃん。ウチからは5人で良いかな?」
このところLIVING関連の出来事が多すぎて、すっかりと抜け落ちてしまったようだ。
「ユイも入れて5人か、俺たちは、俺、幹さん、タカ、あとどうしようかなあ、二回生の浦田君と内田君で良いかな?」
「ちょっと待って、私全員知り合いじゃん!」
ユイがからからといつものように笑う。
「今回は幹さんの快気祝いだから。我慢しろよ。この前奢っただろ?」
「それは私達の快気祝いじゃん!」
「ちょっと何言ってるか解らない。」
笑いながらユイが肩にパンチを見舞ってくる。電車の揺れと重なって意外と重い一撃になった。改札を出て、大通りを歩くと、タカに後ろから声を掛けられる。
「オッスゥ!」
「朝から声でかいな。」
「タカは元気だねえ。あ、そうそう、合コンうちら5人で行くから!」
タカにメンズのメンバーを伝え、日取りは幹川次第と伝えてタカ、ユイと構内で別れる。その時だった。
「オイ、田中紘一!」
そこには坪井アカネの姿があった。
「また、かたき討ち、か…。」
紘一の手がスマートフォンに触れる。以前と同じ赤いショートカットにパンキッシュな見た目の女は紘一の数メートル先で革のジャケットに手をかけて紘一を睨む。
「安心しなよ。今回はそんなんじゃない。警告しに来たのさ。第一、復讐の理由が無くなった。琢磨が目を覚ましてね。しかも私のことを覚えてると来てる。出会ったきっかけはすっぱりと忘れちまったみたいだけどね。」
「…警告?」
「そう。あんた、クランには加入してないんだよな?」
紘一は睨む視線から外さず頷きで答える。右手でポケットの上から触れていたスマートフォンから手を放す。
「"紅狼人"…。奴らに注意しろ。奴らクランに未所属のLIVINGを片っ端から狩りだしてる。」
「くろうと?ん、"紅狼人"か!対LIVINGの大きな規模のクラン、だな…。」
赤い髪と同じく塗られたルージュの端に少し傷がある事が、紘一の目についた。
「昨日、襲われた、私一人でいる時に。まあ、返り討ちにしてやったが。ここで落魄するわけにはいかないんでね。とはいえ、無傷とはいかなかった。いまだに変身は出来ない。」
「…クラン未所属のLIVINGを狩ってるのはなぜなんだ?」
アカネは両手を少し上げてその理由までは知らないことを示した。
「さあ、そこまでは知らない。だが、未所属のLIVINGを狩りだしてるのはホントだ。わざわざ自己紹介してくれたからね。余裕があれば、痛めつけてでも吐かせられたんだが。」
この女ならやりかねんな、と心の中で呟き、顔が引きつらないよう留意しながら次の言葉を待った。
「おおよそ、"soul and sword"との戦争前にステータスをあげようって魂胆だろう。元々立場的にも対立しているクランだからね。"紅狼人"は下種な奴らの集まりだ。まあ、私と琢磨も似た様なもんだが、素人狩りだけじゃ飽き足らなくなってんだろうね。」
「じゃあ、俺や流南、華南、瞬もか…。」
「LIVING仲間か?それなら教えておいてやりなよ。一人歩きは危険だ、ってね。」
そう言うと、アカネは踵を返し、紘一から離れていった。
「"紅狼人"、か…。」
「いやあ、ごめんごめん!遅くなっちゃったね、取引先でもめちゃってさあ…!」
「あなたが市川悠馬、さん…?」
「そ。はじめまして。"グラスハート"代表の市川。社会人、って見ればわかるか。君は…学生?」
「ハイ、大学三回生です。」
スーツ姿に銀のスクウェアのメガネを掛けた男性は、紘一が学生と知ると、わかいねえ、とやおらに羨ましがった。見た目は30代中盤だろうか。身なりも整っており、何処か高級感を持っているように紘一には感じられた。東京タワーを見上げる位置にある遊歩道で二人は待ち合わせた。人目を避けるには良い場所のようだ。そう、人目を避ける必要がある。
「変身、する?」
「はい、わかりました。俺はファイターやってます。変身ッ!」
「おお、赤やっぱりカッコいいなあ。じゃあ、ボクも。変身。」
市川が光に包まれるとブルーを基調とした甲冑姿に両手に大剣を携えたウォーリアーがそこにいた。
「Lv23か、まだまだ、これからってところだね。」
「市川さんのLv、凄いですね…。」
両者は変身する事で初めて互いの戦力情報を開示できるのである。市川のLvは51、紘一にとっては2倍以上のLv差である。"Be Alive"はLvの足し算で戦闘能力が決まるわけではないと言うものの、これだけの高さを誇るには一度も倒されていないという実績が伴う。Lv51が戦闘能力の高さを物語っている。
「ま、名刺交換はこの辺で。変身解いていいよ。」
「は、はい。」
二人は変身を解き、元の姿へと戻る。
「さて、三回生ってことは未成年じゃないよね?ボクらクランのたまり場にご案内しよう。」
くるりと市川は紘一に背を向けて目で、付いておいでと合図した。
「BAR GLASS HEART…。」
「そう、ここがボクらの集会所。ここにちなんで、クラン名が決まったんだ。扉をお開けしましょう。さ、中へどうぞ。」
市川は慣れた手つきでシルバーのドアを開ける。中からはワイワイとした和やかな雰囲気に合わせて、普段聞きなれない穏やかなジャズが流れていた。
「今日は貸し切り、まあ、まだうちには正式加入じゃないけどメンバーを集められるだけ集めたんだ。」
あまり広くない店内には男女合わせて8人の人間が各々、様々なカラーのカクテルを飲んでいるようだった。バーテンダーは長い髪を結った、妖艶な女性である。彼女が振るシェイカーの音がジャズと相まって何とも心地よい雰囲気を醸し出している。紘一の顔を皆が見て、それぞれのグラスを少しだけ掲げる。
「あ、ちなみに彼女もLIVINGだから。うちのクランはみんな成人だし、仕事も持ってる。仕事の合間を縫って、戦ってるわけさ。愛さん、いつもの。紘一君も座って。あ、彼にも何か作ってあげて。」
「畏まりました。」
二人の前にカクテルが並ぶ。紘一の前には赤のカクテル。キールロワイヤルというらしい。市川の前には鮮やかなブルーのカクテル、この店オリジナルのグラスハートというカクテルが出された。
「さて、ちょっとうちは他のクランと比べて年齢層は高めだけど、だからと言って君を邪険にするようなメンツじゃない。良かったらでいい。返事も待つ。加入は歓迎だよ。さ、飲んで。ボクのおごりだから。あ、飲んだら帰さないとか、そういうのじゃないからね。」
わざとらしく市川は笑う。促されて口にするとシャンパンとカシスの華やいだ香りが口いっぱいに広がる。
「おいしい…。」
「ふふん、愛さんのカクテルは東京でも指折りだからね。LIVINGとしても一流だよ。彼女、こう見えてもマーシャリストなんだ、趣味がキックボクシング。酔って手を出したら火傷じゃすまないんだ。」
「よしてください、私の印象が悪くなるでしょう?」
愛と呼ばれたバーテンダーが涼やかにほほ笑む。素敵な女性である。
「ん?あ、ちょっとごめん。え、"DSV"の神崎君からだ。飲んでて。ちょっと表いくよ。」
市川がスマートフォンの着信音を鳴らしながら店の外へ向かう。シルバーのドアが開いてまた閉じる。紘一は居場所なく、キールロワイヤルを口に運ぶ。普段こんなしゃれたバーに足を踏み入れる機会はない。紘一にとっては初めての経験である。そんな場所で一人というのは非常に気まずい。そんな時、紘一のスマートフォンにも着信があった。
「これ、だれだ?」
「紘一様、これは坪井アカネ様の携帯です。」
リヴが知らない番号からの着信のそれに応える。スツールから降り、シルバーのドアに向かう。
「えっと、俺もちょっと表出ますね。」
愛に一言告げて、ドアを開ける。そこには焦燥の表情を浮かべて何やら電話越しに応答している市川がいた。それを横目に紘一もアカネからだという電話に出る。
「田中紘一か!?」
「坪井アカネ、どうした。電話なんて。」
随分と焦った声でアカネが叫ぶ。
「奴らだ、"紅狼人"だ!襲われてる!何とか今、人通りのある所まで逃げてこれたが、奴ら本気だ!言いたくはないがお前しか頼れる相手がいない!助けてくれ!」
「た、助けろって、お前!クソ、分かった、今どこだ!?」
「位置情報取得、大学前の大通りに。」
アカネが答える前にリヴが答える。火急の事態に紘一はすぐさま行動した。
「市川さん、知り合いのLIVINGが襲われてる、助けに行きます!」
「そっちもか!"DSV"のメンバーも何人も襲われたらしい。まずい。ここも奴らに知られているかもしれない…。こっちのことはこっちでなんとかする。君はその知り合いの所へ、早く!」
「ハイ!」
東京タワーを横目に浜松町駅へと走る。大学までは電車を乗り継がなければならない。
「紘一様、タクシーに乗られた方が早く着きます。タクシー代は"Be Alive"が負担できます。」
リヴが紘一に提案する。リヴは現在の交通状況を把握し、最短ルートを行くという。すぐに、手をあげてタクシーを捕まえる。目的の大学を伝え、ルートはこちらで指定すると、タクシーの運転手に告げる。電車で乗り継げば40分ほどの距離を20分で近くまで来た。
「こ、ここでおります!」
料金はスマートフォンで支払える。紘一はドアを自分で開け、転げるようにタクシーから降りる。
「アカネ様はここから100m以内ですが、それ以外にLIVINGの反応が9人。お気をつけて!」
リヴの警告が響く。スマートフォンのディスプレイにアカネの位置とそれ以外のLIVINGの反応が示される。紘一が掴めるという事は敵対しているLIVINGも同じ情報を掴んでいるという事だ。今は紘一よりも敵対しているLIVINGの一人が一番アカネに近い。目の前の角を曲がれば大通りだ。
「アカネ…!待ってろ!」
読んで下さった方に最大限の感謝を。
ユニークPV100件を越えました。本当にありがとうございます。
今後も不定期ではありますが、更新をできる限り続けていきたいと考えています。
ぜひ、今後もお付き合いください。
コメント、評価、ブックマーク、紹介、心よりお待ちしております。




