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「あぶない!」
突如、オレンジの影が華南を横につき飛ばすと影が叫ぶ。
「アブソリュートショットダウン!」
超高速の青い矢が強襲者の体を貫いた。体を捩って痛みをこらえる強襲者。
「な!?」
「紘一、ぼさっとしないで!」
「え、あ、おう、流南。合わせろ!」
「シルバーファング!」「サイクロプススラスト!」
紘一と流南が後方、左右から同時にスキルを発動し、強襲者の体は青い大小のオブジェクトに包まれ、そしてオブジェクトの光が強襲者を包み込むと強襲者は中空へと消えていった。
「危なかったわね。あなた、大丈夫?」
「は、はい、危ない所をありがとうございました。」
オレンジの影、複数の弦の張った弓を持ち、オレンジ色のプロテクターを要所要所に配した女性のLIVINGは、華南に尋ねながら手を差し伸べた。そしてその手を取る華南。
「まだパーティー組んだばっかり?しっかり連携しないとまた今みたいになるよ?」
「すみません…。」
「お、お前、嘘だろ?なんで、その恰好は?!」
「こんなところで会うなんて奇遇だね、紘一。二年ぶりくらい?」
バイザーによって目は隠されているが、その声としぐさ、覗く口元でそれが誰かは紘一にはすぐ理解できた。
「あなたは…?」
「あたし?あたしは岸田茉奈。紘一の…知り合いなの。Lv27、ハンターやってる。」
ただ、紘一には自分の元恋人である岸田茉奈がLIVINGとして目の前に立っている事に動揺を隠しきれないでいた。
「そんな、茉奈もLIVINGなのか…?」
「そっくりそのまま、その言葉をお返しするわ。紘一とこんな形で再会するなんて、奇跡にも程があるわね。」
茉奈はどんな時も余裕ぶった雰囲気を持っている。紘一と別れ話をしていた時でさえそうであった。
「ところで、この二人は?」
「今、一緒にパーティーを組んでる流南に、華南だ。」
「はじめまして、ホントに助かりました。私、立木華南といいます。」
「俺は弟の流南、よろしく、茉奈姉ちゃん!」
華南は助けられた礼を含めて深々とお辞儀をし、流南は親指を立てて、元気よく答えた。
「やだ、茉奈姉ちゃんなんて、私年下の兄弟とかいないから新鮮!」
茉奈は体をくねらせてその言葉に大層に反応した。
「流南君はイケメンね!華南ちゃんは目もおっきくて可愛いし、こんな妹弟いたら良かったのに!」
「そんな、かわいくないです、普通です…!」
そんなやりとりをみて取り残されていた紘一が横槍を入れる。
「お、おい、そんなことより、なんでお前、LIVINGなんかに…!?」
「やだ、紘一妬いてるの?フフ、なーんてね、LIVINGになったのなんて大体みんなおんなじ境遇でしょ。"Be Alive"、インストールしただけよ。」
紘一は突如現れたかつての恋人に動揺したまま質問したため、当たり前のことをつい訊ねてしまいすぐに質問を変えた。
「そう、そうだよな…。今は?一人で戦ってるのか?」
「ううん、私はクランに加入してるの。関東全域に所属者がいる、いま日本で一二を争う大きさのクラン、"冠刀連合騎士団"に所属して。パーティーもその中で組んでる。メンバーは固定じゃないけどね。」
「"冠刀連合騎士団"…。」
そ、とだけ呟いて茉奈はそのクランに所属した経緯を話し始めた。
「私、クランもパーティーも組まずに暫くいたんだけど、私、Lvが下のLIVINGを見つけては射程ギリから弓で狙って狩るっていう所謂初心者狩りみたいなことしてたのよ。」
「ええ、茉奈姉ちゃん見た目と違ってえげつねえ。」
流南の反応にぴくりともせず、そのまま茉奈は続ける。
「ただ、ある日、狙いが外れて、ワンショットで倒せなくて、そのまま、なし崩しに戦闘になったら、相手がクランに所属してたらしくて。そんで男四人かな?囲まれて絶体絶命!って時に、助けてくれたのよ。クランの代表の人が。それで誘われてそのままって感じ。」
「"冠刀連合騎士団"は代表烏丸源治によって勢力を拡大しているクランで1000人を超える規模の巨大クランです。関西に同じ程度の規模のクランはありますが、対強襲者を命として戦っているクランでは最大と言えるでしょう。」
リヴが注釈を入れるように、茉奈の言葉に続いた。
「そんな大きなクランがあるんですね、知りませんでした。」
華南は素直な反応見せる。LIVINGは関東周辺に2万人程度いる。しかし実質、活動している者は約半数。それ以外はLIVINGの特権だけを利用し、強襲者討伐等をしない者が多い。それはある意味当然だ。自ら死地に飛び込むのを是とする人間は少ない。まして、本当に意識を狩り取られて、完全に意識不明になったり、肉体に大きな損傷を追ったりというリスクが付きまとう。それでも戦うという意思を持つのは半数でも多い方だ。そのうちの1000人以上が加入しているとなれば、その規模がいかに大きいかわかる。
「もし、私が"冠刀連合騎士団"に加入してなかったたら、今頃あなたたちも私の獲物だったかもね。」
「悪い冗談はよせ。二人が怖がる。」
「あら、ホントよ?」
紘一が茉奈のジョークを制する、が、茉奈はそれをものともしない。付き合っていた当時から彼女は変わっていないようだった。
「それで…茉奈姉ちゃんも今の強襲者を倒しに来たの?」
「そうよ。クランのメンバーとそこのスタバで待ち合わせてたんだけど、早めについちゃって。そしたら、あなたたちに先を越されたの。それにしても華南ちゃん、私が飛び込まなかったら落魄ものだったよ?あまり功を急いじゃダメ。」
茉奈が話題を変えて先の戦闘に話を戻した。
「そうじゃなくて、あまりに…あの強襲者が可愛そうで、早く…倒してあげなきゃって、それで…。」
「強襲者がなぜ強襲者になったか調べてるの!?そんなの攻撃の手を鈍らせるだけよ!」
華南の答えに茉奈は怒りをあらわにした。そしてリヴがそれに続く。
「茉奈様の仰る通りでございます。華南様は紘一様に感化されたのでございます。」
「紘一、またなの!?あなたって人は!!」
「な…なんだよ!?」
「あなたは誰に対しても優しすぎるのよ、それがあなたの良い所なのかもしれないけど、時と場合によるってことをこの二年で全く学んでないのね!呆れるわ!」
怒りの矛先が紘一に向かう。二人が別れた直接の原因は紘一自身は気付いていなかったが、この優しさこそが別れの原因、茉奈との心の距離を広げていったのである。
「そう、言われても…。」
紘一は口ごもる。そんな紘一に憤然とした茉奈だが、華南へと向き直る。
「まったく!…まあ、いいわ。それでもパーティーとしてやってるんだし、私が口出しする事じゃないわよね。ただし!自分の危険がパーティーに危険を及ぼすことがある事は忘れないで!」
「は、はい。」
華南は肩をすくめて、反省の意を表した。
「ん、あ、ちょっとごめん、クランの子たちからだわ。…もしもし?うん、そう…そう、先越されちゃったの。今例のビルの屋上。はい、うん、今下おりるねー。」
茉奈はヘッドギアと一体になったヘッドフォンに耳を当て、予定通り到着したクランメンバーと会話した。
「さて、私は行くね。あ、そうだ紘一?」
「な、なんだよ。」
「気が向いたらLINEしてよ、消してないんでしょ、私のLINE。」
紘一はバツの悪そうな顔で沈黙し、それで茉奈への返答とした。
「茉奈姉ちゃんと紘一兄ちゃんは付き合ってたの?」
「え!う、うん、まあ、そう、だね。自然消滅しちゃった、けど…。」
「やっぱり!そんな空気でしたもんね!」
元のTully'sに戻り再び紘一はコーヒー、流南華南はフラペチーノを飲みながら先の茉奈の話題になっていた。こと恋愛ごとには二人は弱くないようだ。
「お、俺のことはどうでもいいだろ、二人は、付き合ってる人とかいるの?今の子はみんな早いっていうし。」
「私は…まだ、つきあったりとかは…ないです…。」
「オレは今はいない、女って面倒なんだよ、あれこれさあ。」
流南は頭の後ろで腕を組み、もはや過去の出来事として語っている。たいして、華南は紘一に対して突っ込んだ時とは対照的にいやに弱気に答えた。
「流南はなんだかんだでモテそうだよね。華南も全然見た目いいのに、勿体ない。」
「見た目なんてよくないですよ!もう、さっきから!なんなんですか!」
華南は紘一のやり返しに大きな瞳をつむって、強く否定した。もちろん、それに肯定するようなタイプではない事を紘一は知ってのことだったが。
『茉奈なら、きっと、そうでしょう?とかって言って否定しないんだろうなあ。』
紘一は心の中で元彼女の言動を想像した。
『あなたは誰に対しても優しすぎるのよ、それがあなたの良い所なのかもしれないけど、あなたは私の彼氏なのよ?』
唐突に茉奈との別れ話のシーンが頭をよぎった。誰に対しても優しすぎる。それは紛れもない紘一の長所であったが、10代の終わりの少女にはそれを長所と認識できるだけの余裕はなかった。いや、今の茉奈にもないであろうし、女性の多くはそれを肯定的にとらえることは出来ないであろう。裏を返せば彼女であっても特別視されないのである。女性にとってそれは悲しいことである。
『あれ以来だんだん距離が離れていったんだよなあ。懐かしい。もう二年も経つか…。』
「あの…聞いてます?」
「え!あ、ごめん、ちょっとぼおっとしてた!」
華南の問いかけで我に返った紘一は声を裏返しながら返した。
「その、今日はすみませんでした。前回、ちゃんと動き確認したのに…。」
「ああ、そのこと。気にしないで。まだ実験段階だし、回数を重ねれば自然とできてくると思うから。」
華南は申し訳なさそうに俯いたが、紘一はそれを見て華南を励ます。
「おかげで茉奈姉ちゃんとも知り合えたわけだし、結果オーライだろ?姉ちゃん気にすんなよ!」
流南もそれに続いた。
「ありがとう、ございます…。」
華南の声は、なおか細くなっていた。
「ぎやぁあぁうあうわうぅぇぇえええうえうおぅぅぅぅ!!」
鬱蒼とした森の中で絶叫が木霊していた。しかし、その声を聞き取る事のできる人間は限られている。その声の主が強襲者だからである。
『あと、何体倒せばいい?』
長身痩躯の青年は自問した。彼の両手に握られているのは大振りの鎌のような武器であった。漆黒のローブに身を包み、肩や腰回りにプロテクターをつけたその青年は、強襲者の絶叫を聴きながら、既に次の目標を目で捉えていた。それは蜘蛛の半身に人間の上半身を無理やりくっつけた様な、異様な姿をしたクリーチャー、強襲者であった。その強襲者は足の一本を鋭くとがらせながら、黒いローブの青年の胸を貫かんと跳躍した。
「スゥ…フッ!!」
息を吸い、短く吐く。同時に鎌の刃を大きく左から右へと振るう。尖らせた足を薙ぎ払う。振るった鎌の勢いをできるだけ殺さずに上段に流れるように構えなおして、今度は縦に鎌を振るい、人間の半身部分を縦に両断する。声帯で声を発するわけではない強襲者は断末魔をあげる。鎌の刃が樹木の根に突き刺さっても、それをすぐに抜きはらい、今度は左手を次の目標に向かって伸ばす。そこから放たれる青白い光波が次の目標の強襲者を弾き飛ばす。弾け飛んだ着地点にはすでに青年が鎌を構えて待つ。地面に強襲者が激突する前に、鎌が閃く。
「ぎえぇえいやぁゃぎゃああ!」
鎌が空を斬る音、その音が鳴るたび、強襲者の断末魔が響く。何時間、この光景が続いているだろうか。ここは富士の樹海、青木ヶ原樹海である。人々の怨嗟が集う場所である。その怨嗟が形を成したのが強襲者である。この場所は強襲者が無限のように湧き出でる。それはこの場所を死に場所として選ぶものが後を絶たないからだ。
『まだ、まだ足りない…!』
青年は自問に答えを出した。いや、それは答えというにはあまりに抽象的な物である。どれくらい足りないのか、本人にもわかっていない。青年はすぐに頭を切り替える。今、考えに捕らわれ手足を止めれば、強襲者にすぐに落魄させられてしまう。襲い来る次の強襲者から放たれる光波を紙一重でかわす。こちらの光波はまだ出せない。光波を避けながら身を捩って、鎌を振るう。浅い。なればと、脚をさらに踏み込む。強襲者の光波が頬の皮膚を焼く。それを気には留めない。今は倒すだけだ。青年の頭の中は渇いていた。飢えていた。ただ、冷酷なまでに正確に鎌を振るう。嘗ては槍だったその鎌は、青年によってより強力になるよう鍛えなおされ、今の形を成した。嘗て、純白だったローブも彼の思念に染まるように黒になった。嘗て、誰もが端正だと認めた顔立ちは今や、怒りや憎しみに歪んでいた。樹海に彼の息、鎌の風切り音、強襲者の断末魔が幾たびも幾たびも聞こえては消えていった。
読んで下さった方に最大限の感謝を。
ユニークPV100件を越えました。本当にありがとうございます。
今後も不定期ではありますが、更新をできる限り続けていきたいと考えています。
ぜひ、今後もお付き合いください。
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