13
『良かった!良かった!!』
タカの病室をまず開ける、タカのご両親、その奥に。
「タカ!!」
「おう、紘一。え、てかはやくね?」
「もう、二度と、目を覚まさないかと…。」
そういうとボロボロと紘一の目から涙がこぼれ落ちてきた。
「あらあら、大の男の子が泣くんじゃないよ。」
「こっちだって泣いてないんだよ、紘一君。」
泣き出した紘一をタカのご両親が笑う。
「それよりよ、ユイも目、覚ましたんだろ?行ってやってくれよ。俺、ここ動くなって言われてるからさ。頼む。」
ああ、と一言返して、涙をぬぐい、ご両親に一礼すると、タカの部屋を出た。ユイの部屋はナースステーションを挟んで反対側。涙が止まらない。
「ちょっと、やだ、コウ泣いてるしー、うけるんだけど!」
「二人が意識、取り…戻したって。聞い、て、ホント、良かった。」
「やめてよ、ウチも泣けちゃうじゃん。もぉ、なんなのぉ?マジ、やめてよぉ!」
ユイは最後に会話したようにからからと笑いながら、紘一を指さして笑う。
「君が紘一君?ユイが世話になってるそうで。」
「…。」
「ちょっと、お父さん、コウはただの友達だから!怒らないでよ!」
ユイのお母さんはどこかの訛りなのかイントネーションが違い、お父さんは寡黙に怒りの視線を紘一に向けていた。それを慌てて制止するユイ。いつもと変わらない。そう、いつもと変わらない。この数日が紘一には今まで過ごしてきた20年よりも長く感じていた。それほど、紘一にとって二人は特別な存在なのだ。男女の枠に収まらない、本当の友情を紘一は二人に持っていた。
『良かった、良かった!』
その一言だけが紘一の頭を支配し、一日それが離れる事は無かった。
それから数日後。
「ああ、コウ、おはよー!」
「おはよ、ようやく今日から大学か。」
ユイと久しぶりに大学へむかう駅で落ち合った。この一週間ほどはずっと心のどこかにさみしさを感じていた紘一だったが、このユイのカラカラとした笑顔がどれほど、紘一にとって貴重な物だったかをユイを見て気付く。日常が戻った。それだけ。ただそれだけが、紘一にとって本当に貴重なものだったのだ。
「なんか、私達が意識なくしてる間に、でっかい事件あったんだもんね。」
ユイがSuicaで改札を通りながら、いまだに修復中の駅の構内を見回す。
「ああ、あんときはひどかったよ。周りに血だらけの人がたくさんいて…。」
あの事件から一週間以上がたった。紘一も慣れた手つきでスマートフォンを改札にかざす。
「でも、コウに何にもなくてよかったよ。私たちが起きたらこんどはコウが、なんて寝覚め悪すぎだもん。」
「まあね。亡くなった人もいなかったし、それが不幸中の幸いだよ。」
電車に揺られながら、二人はこの一週間について話をしていた。
「幹さんも目、覚めたって聴いた?」
「え、マジ、良かったじゃん!」
大学へ向かう大通りを歩きながら、目を覚ました幹川について話をした。
「合コンかあ、私の友達で良かったら、集めておくよ。地元の友達も何人か、東京来てるから。みんな出会いに飢えてるし。」
カラカラとした彼女のトレードマークを満面に広げながら、紘一と幹川の約束をユイが叶えてくれるとのことだ。
「よっ、ご両人!」
「おお、タカ!!」
後ろから自転車に乗ったタカに声を掛けられる。相変わらず、元気そうだ。
「もう背中の火傷、大丈夫なの?」
「ああ、あんなの唾つけ解きゃ治る程度だから!」
タカは鳥貴族で爆発に巻き込まれた際、ユイをかばい背中に軽いやけどを負った。そのことをユイから尋ねられて、いつもの如く元気な表情で、返していた。日常が戻っていた。
「おお、そうだ、これ見てくれよ。親からの退院祝い!」
タカが徒歩の二人に合わせて自転車にまたがりながら、自転車を指さす。そこには以前とは違う白のロードバイクがあった。以前は緑の自転車だったはずだ。
「こんな高いチャリ買ってもらえるとは思ってなかったからなあ、意識失ってみるもんだぜ!」
「おいおい、一歩間違ったら死んでたかもしれないっていうのに…。」
紘一はタカの新しい自転車自慢を聴きながらも、半分呆れていた。こんな何気ない会話も、大学に入って、三年近く、ほぼ毎日のようにやりとりをしてきたのだ。それがこんなにも貴重だったとは。紘一は心の中でそう強く感じていた。
「じゃあ、夜、快気祝いに飲みに行くとすっか!」
「そうだね、今度は爆発事故に巻き込まれないといいけどねぇ。」
「悪い冗談はやめてくれ、俺がどれだけ心配したと思ってるんだよ!」
「紘一があんなに泣いてるの見たの小学生以来だったから、ちょっと笑ったわ。」
タカは人波を縫うように新しい自転車とともに構内に入っていった。
「じゃあ、コウ、また後でね!あ、あと今度ノート見せてね。さすがに休みすぎちゃったから。」
オッケー、わかった、と軽い返事と手をあげて紘一はユイに返しながら自分の講義の講堂に向かう。
『良かった、良かった。』
紘一の心はたった一つの言葉で満たされていた。
「よし!じゃあ、二人の退院を祝って。」
「「「カンパーイ!」」」
紘一の言葉とともに三人は生ビールの注がれたジョッキをぶつけ合った。がやがやと騒々しい居酒屋だが、普段三人が飲んでいる鳥貴族や庄やよりはワンランク高い、良い居酒屋である。ぶら下がる照明もおしゃれ度を上げている。
「…んぐ、ぐわぁあ、うまい!!」
「ああ!ほんと、やっぱり居酒屋のビールって違うよねえ!」
「今日は俺のおごりだ、つぶれるまでのんでくれ!」
「潰れるまでって、飲み放題じゃねえか!」
一同から笑いが溢れる。テーブルに料理が並んでいく。それにユイとタカはすぐに手を付けていく。二人にとって病院食は非常に味気なったと言い、それが今日の食欲に繋がっているようだった。ビールの進みも普段の飲みの時よりも数段速いようだった。
「これ美味い。ほい、ユイ。」
「ありがとぉ、よ、ん。あ、ほんとだ美味しい!」
「ここ美味いんだよ。前、幹さんから教えてもらったんだわ。」
「幹さんって、お前のゼミの先輩の?」
そそ。とちいさく返すと、紘一もビールを喉に流し込んでいく。今日の酒は美味い。
「そうだ、タカ、お前も合コンくる?幹さんの快気祝いに合コンするんだわ。」
「ウチ、一応女子側幹事ー。」
「え、じゃあ行くわ!」
二つ返事のタカに新たな出会いがあればいいなと心から、紘一は願う。タカは高校のころに付き合っていた彼女に二股を掛けられ、それ以来、特定の人との付き合いはない。大学に入ってから何人かの女の子から声をかけてもらっているようだが、一様に断ってきていた。
「紘一もそろそろ彼女作れば?」
「茉奈ちゃんと別れてからだいぶ経つもんね。」
「そう…だねえ。」
茉奈とは紘一が大学に入ってしばらくしたあとに合コンで知り合い付き合った別の大学の子である。なんとなく、うまが合わず、少しずつ距離が開き、結局は別れてしまった。なにがうまくなかったのか、今でも紘一はよくわかっていない。
「茉奈はなあ、悪い子じゃなかったんだけどね。…今どうしてるかなぁ。」
「よし、今LINEしろ。」
「ば、やだよ!何言ってんだ!」
「いえーい、LINEしろー!」
「ふざけんな!」
『紘一様、なんとお送りいたしましょうか?』
リブがスマートフォンの画面上にメッセージをポップアップする。それに即座に返信する。
『黙れ、お前までふざけんな』
「お、なんか送った?」
「送らねえよ!」
にぎやかな夜は穏やかに更けていく。
「ああ、飲み過ぎた。」
「今日はずいぶんと楽しんでおられたようで、わたくしもうれしく思います。」
「しかし、ほんと良かったよ。思ったより早く退院できて。」
リヴも紘一の気分がずっと沈んでいた事を気に病んでいた。今日の紘一はいつにも増して楽しげに見えた。やはり、日常に戻ったことが、紘一の心を晴らしていた。
「茉奈様とはもう二年ほど会われていらっしゃらないのですね。」
「まあ一回生の時にちょっと付き合っただけだからね。てか、そんなことまでわかるのかよ。」
「LINEなどの履歴を見ればわかります。」
「…"Be Alive"恐ろしいな。」
紘一はベッドに顔をうずめながら呟いた。紘一の日常は戻った。しかし、紘一にはひとつだけ気がかりがあった。
「瞬はどうしてる?最近見ないけど。」
「"Be Alive"には接続されているようです。しかし、それ以上のことは秘匿状態になっているようですね。」
「そうか。存命はしてるんだな。…瞬とも一週間以上あってないからな。」
瞬が紘一の前から姿を消して一週間以上がたつ。とはいえ、今まで接点があった方がおかしいのだ。"Be Alive"が無ければ出会う事のなかった相手の一人だろう。そして出会う事は無かったであろう別の二人。
「流南華南は?」
「ちょうどテストの真っ最中なようで、戦闘などのログは残っておりません。」
「そっか、中高生は中間テストの時期か。懐かしいなあ。てか華南は進路きまってるのかな?」
「そこまでは。個人情報になりますので。」
紘一は自分の個人情報は完全に把握されているのに、と頭の中で悪態をついたが、一応これでもリヴは"執事"なのだ。仕方ない。
「テスト終わったら、ご飯でも連れてってあげようかな。二人にLINEおくっといてくれ。俺はもう寝るよ。頭痛い。」
「畏まりました。マイマスター。」
その週の日曜日に紘一は以前、LIVING戦の時に戦い方を詰めたTully'sに来ていた。
「お、紘一兄ちゃん!」
「こんにちは、誘って下さってありがとうございます、それになんだか乗っかる感じになっちゃって。」
「ああ、良いの良いの。気にしないで。さ、そこ座って。」
流南華南姉弟をテストの慰労と前回の戦いの感謝を兼ねて、ランチでも、というのが紘一の提案だったが、流南華南姉弟はそれに対して、勉強を教えて欲しいと返してきた。流南は中学二年生、華南は高校三年生。どちらも大事な時期なのである。
「前回のテストの問題用紙はあるよね。うん、まあ、解る範囲だな。華南のも貸して?」
「ああ、はい。漢詩がどうも苦手で…。」
「あ、姉ちゃん、いつもので良い?紘一兄ちゃんは…もう飲んでるか。じゃあ、さきやっててー。」
流南は注文を取りにそのままバックだけ置いてカウンターに向かった。下はナイキのジャージに上はパーカー。元気な流南の姿がそのまま服に現れている。華南は紘一と隣り合う形で座る。華南は夏に向かう季節に合わせてワンピースとデニムのジャケットという、流行を抑えた装いだ。流行に敏感であることがうかがえる。万年、スキニ―ジーンズにシャツ、ジャケットを着ている紘一には新鮮に映る。
「華南はおしゃれだね。なんか、制服よりもかわいいよ。」
紘一は素直に感想を述べる。それに対して顔を赤くして華南は否定した。
「いやいやいや、そんなことないですよ。普通です!」
「今の女子高生はみんなおしゃれだしねぇ。で、えっと漢詩だったっけ。」
そして二時間半ほど、二人についてテストでわからなかったところ、塾でついていけていないところを重点的に勉強した。人に教えるという事が無かった紘一にとっても、新鮮なものだった。人に教えるというのは自分が深くそして、根本から理解していないと難しい。そして、疑問点を相手に解決してもらうのだ。優しい事では決してない。勉強が不得手ではない紘一にとっても、それは例外ではなかった。
「さて、こんなもんかな?あとはまだある?」
「いえ、私は十分です。こんなにわかりやすく教えてもらえたの初めてです。」
「オレも数学と化学つまづいてたから、ありがたかったよ。また、テスト前とか教えてよ!」
「わかった。まあ、俺が教えられることは教えるよ。ところで二人は進路きまってるの?」
流南と華南はそれに和やかに答える。
「私は福祉の専門学校に通おうと思ってるんです。学費の足しにって、バイトもしてるんですよ。」
「俺は一応、工業高校に入りたいんだ!機械系の学校!推薦で入れるように勉強中!」
「福祉に工業か。すごいな。俺なんて今でもなりたい職業なんてないからなあ。」
そんな時、紘一のスマートフォンが振動する。それに合わせて、流南、華南のスマーフォンも。
『近くに強襲者の反応です。敵意が急上昇しています。何か起こす気かもしれません。』
紘一は二人に目配せをした。頷く二人。
「Lvはいくつくらいだ?」
「Lvは22といったところでしょうか。ここから南西のビルの屋上です。お気をつけて。」
「急ごう、紘一兄ちゃん。」
紘一は頷くと、筆記具をしまい、三人でTully'sを後にする。南西のビルを見上げると青白いぼんやりとしたひかりがちらついている。
「動きは前回と一緒だ、覚えてるな!」
「もちろん!」「大丈夫です!」
走りながら紘一は姉弟に問いかけ、それに即座に答える。
「よし、ここを裏から…よし、大丈夫だ。ここから登ろう。」
ビルの裏手の路地に入り、そこで三人はそれぞれ光に包まれるとLIVINGへと変身する。軽やかにビルとビルの間を飛び移り、目標のビルの屋上へと到達した。
「この強襲者はいわゆる捨て子でした。若すぎる母に産み落とされ、このビルの屋上で捨てられ、そのまま遺体となったようです。」
「そんな、可哀そうに…。」
リヴの報告に華南が泣きそうな顔でそれに反応した。
「紘一兄ちゃん!姉ちゃんいたぞ!あっちだ!」
「ぁぁぁああああぁぁぁ、ううぅぅぅぅうううぅぅううう…。」
そこにはまるで、青白い光を放つ毛虫のようなクリーチャー、強襲者がいた。
「くっ、生まれてそのまま、なんて。辛すぎる。人や世界を恨んでも仕方ないかもしれないが…。解放してやろう、俺たちで!」
「ああ!」「はい!」
「行くぞ流南!華南はバフとデバフをかけ終わったら弓で援護してくれ!」
紘一はそう叫ぶと、強襲者の左に回り、アスファルトを蹴って一足飛びに強襲者を斬りつけんとする。
「えううう!!」
強襲者は針を逆立て、紘一を寄せ付けない。紘一も強襲者の体を斬る事はかなわず、逆立った針を切り捨てるように斬りつける。
「オレの槍なら!」
強襲者の右に回った流南が針の隙間を突撃槍で突く。ぐさりと音を立てて強襲者の体に突き刺さる。
「ぎぅぅぅうううぅぅぅ!」
叫び声ともうめき声とも取れない声でさけぶと強襲者の体が膨らんだようになったかと思うと、逆立った針の何本かが、矢のように飛び出し、突撃槍でついていた流南と針を斬っていた紘一に何本もの針が突き刺さる。
「ぐわっ!」「しまった!!」
針と言えどもその力はつよく、何本も直撃した二人は大きく吹き飛んだ。
「ミストキュア!!」
即座にそれを見て、華南が二人のプロテクターの補修にかかる。さらに注意をそらすために矢を強襲者へと穿った。一本、二本。
「ううえぅううぅうう!!」
強襲者が体をうねらせて、華南へと迫る。華南は更に続けて矢を放つ。
「バンドルシュート!!」
三本の矢が同時に回転しながら強襲者の針をはじき肉体に突き刺さる。
「華南!下がれ!!」
紘一が叫ぶも華南はさらに矢を放つ準備をして、弓を引いては撃ち、引いては撃ちと何度も打ち込む。
「おねがい、たおれて!」
「姉ちゃん!!」
強襲者の体が再び膨らむと、前方の華南に向かって複数の針を放ち、その針が華南へと迫った。
「あぶない!」
突如、オレンジの影が華南を横につき飛ばすとオレンジの影が叫ぶ。
「アブソリュートショットダウン!」
超高速の青い矢が強襲者の体を貫いた。体を捩って痛みをこらえる強襲者。
「な!?」
「紘一、ぼさっとしないで!」
「え、あ、おう、流南。合わせろ!」
「シルバーファング!」「サイクロプススラスト!」
紘一と流南が後方、左右から同時にスキルを発動し、強襲者の体は青い大小のオブジェクトに包まれ、そしてオブジェクトの光が強襲者を包み込むと強襲者は中空へと消えていった。
「危なかったわね。あなた、大丈夫?」
「は、はい、危ない所をありがとうございました。」
オレンジの影、複数の弦の張った弓を持ち、オレンジ色のプロテクターを要所要所に配した女性のLIVINGは、華南に尋ねながら手を差し伸べた。そしてその手を取る華南。
「まだパーティー組んだばっかり?しっかり連携しないとまた今みたいになるよ?」
「すみません…。」
「お、お前、嘘だろ?なんで、その恰好は?!」
「こんなところで会うなんて奇遇だね、紘一。二年ぶりくらい?」
バイザーによって目は隠されているが、その声としぐさ、覗く口元でそれが誰かは紘一にはすぐ理解できた。
「あなたは…?」
「あたし?あたしは岸田茉奈。紘一の…知り合いなの。Lv27、ハンターやってる。」
ただ、紘一には自分の元恋人である岸田茉奈がLIVINGとして目の前に立っている事に動揺を隠しきれないでいた。
読んで下さった方に最大限の感謝を。
ユニークPV100件を越えました。本当にありがとうございます。
今後も不定期ではありますが、更新をできる限り続けていきたいと考えています。
ぜひ、今後もお付き合いください。
コメント、評価、ブックマーク、紹介、心よりお待ちしております。




