10
紘一と瞬の模擬戦のあくる日。紘一は午後の授業をすべて終え、待ち合わせ場所まで向かう。
「紘一兄ちゃん!」
流南が雑踏の中で元気よく飛び跳ねながら、手を振っていた。対して、隣にいた華南は柔らかい表情でお辞儀をして、紘一を出迎えた。
「待たせちゃったかな。」
「いえ、私達、塾がこの近くなんです。しかし、こんな近くにLIVINGの方がいらっしゃるなんて知らなかったです。」
二人とも学校から塾へ直接行くのだろう。前回会った時の甲冑姿の流南とプロテクター姿だった華南の、本来の姿がこの制服なのだろうと思うと、紘一になぜか安堵の心が生まれた。
「じゃあ、中に入ろうか。隠れ家だけあって、入り口も見つかりづらい所だからね、あ、そこ気を付けて。さ、ここ。」
「すげー、なんかこういうのわくわくすんな!な、姉ちゃん!」
「もう、流南ってば。」
ガチャリと、アルミ製のドアを開けると既に、瞬はヒーラーに変身し終えている状態だった。瞬はこちらを背にして彼なりの型なのだろうか槍を振るいながら待っていた。
「早かったね。こちらとしはもう少しアップしておきたかったんだけどな…。」
ふう、といいながらこちらを振り返って瞬はいつもの口調で自己紹介をした。
「君たちが、紘一の言っていた姉弟だね。鏑木瞬、宜しく。」
「瞬兄ちゃんね、よろしく!オレ、立木流南!流れるに南で流南!」
「え、あ、わ、わ、私は姉の立木華南…です。」
華南が慌てた表情で、うつむく。自己紹介の声も消え入るようだった。
「?」
華南の顔が真っ赤に染まっているのを紘一は訝しんだ。
「さて、四人が集まったところで、さっそく始めようか。三対一でいい。かかってきなよ。」
「な、瞬、なにいってる。戦いあうために集めたんじゃない!」
急な申し出に瞬は異を唱えた。が、瞬はそれに取り合う気はないようだ。
「戦ってみなきゃ、どんな戦い方をするのか解らないだろう。それに、落魄まではさせない。紘一ともやった模擬戦だ。」
流南は大げさなリアクションを取りながらも乗り気になった。
「うっそ、マジかよ!?でも、うん、まあ、よし、いいぜ!アラン、変身するぞ、ジョブ、ディフェンダー、変身ッ!」
「え、ちょっと、流南!そんな、戦えないよ、こんな人と、私…。」
流南は光に包まれると緑を基調とした甲冑に身を包んだ。左手には体をほとんど覆うほどの巨大な盾、右手には幾何学模様の入った、突撃槍。兜は龍が牙を剥いたような姿をしている。華南は急な展開についていく流南に驚くも、すぐに顔を伏せて、どうすればいいのか解らないといったようだった。
「華南、だっけ?君はやりたくないなら見ててもいいよ。紘一、君は来い。昨日の続きだ。」
「チッ、解った。やればいいんだろ!?流南、君のLvは?」
「俺今、ディフェンダーは18!ウォリアーで7!紘一兄ちゃん、俺が前に出る。瞬兄ちゃんに隙が出来たらすぐに攻撃して!」
「解った。リヴ、変身だ!」
紘一は光に包まれると赤を基調としたプロテクターに身を包んだ。そこで、紘一は何かの違和感に気付く。
『瞬?』
「おりゃあああああ!!」
盾と突撃槍を構え、文字通り瞬へと突進していく流南。それを事も無げに突撃槍の右側に避けてすれ違いざまに自身の槍を振り払う瞬。が、流南は突撃前にキャッスルプロテクションを使っていた為に流南に傷はつかない。キャッスルプロテクションは上限はあるが、それ以下の攻撃であれば、ダメージをゼロにする。上限を超える場合は軽減するスキルだ。リキャストタイムは50秒。
「でえい!」
突撃を躱されることを織り込んでいた、流南は突撃槍を瞬に向かって薙ぎ払う。それを瞬は槍の柄の部分で受け止める。その硬直が起こる事を予見し、紘一はアスファルトを既に蹴っていた。剣を大きく振るう紘一。しかし、剣は瞬に届かない。プリセプツウォール、これも予見してはいた。だからこそ紘一の剣は弾かれない連撃で見えない壁を斬り続ける。
「んぐぐぐぐ!」
流南は瞬とつばぜり合いのような状態になっていた。が、それを崩したのは瞬だった。
「セイクリッドレイ。」
左手を瞬時に開いて、流南の腹部に光波を当てる。そして再び、槍を握ると連斬を振るう紘一に対して石突きで鳩尾を突き上げ、硬直させたのち、槍で振り払って吹き飛ばした。
『分かった、ローブだ!』
瞬のローブの色が以前は完全な白だったのに今は、灰がかっている。目の錯覚や光の当たり方ではない。それによくみるとローブのようなスキンに入っていた模様も昨日までは優美な模様だったのに、狂気のような禍々しさを感じさせる模様に代わっている。
「ぼおっとしてる暇なんて与えないよ!」
紘一の顔面にむけて槍先が飛んでくる。紙一重でかわす。
『今の当たってたら落魄してるぞ!?』
紘一と瞬は二度模擬戦を行ったが、その際は気付いていなかったが瞬はプロテクターのある部分のみを突き、斬る、払うとしていた。だが今の一閃はプロテクターもスキンもない顔面に向けての突きだった。
『瞬、怒りが昨日より増しているのか?!』
「サイクロプススラスト!!」
流南が突撃槍を縦に振るうと衝撃波が発生し、瞬に向かう。それを瞬は身を翻して躱す。そして、一足飛びに流南に近づくと盾を構えた流南に槍を振るう。当然ディフェンダーの盾には傷一つつかないが、連閃を繰り返し、流南を押し込む。
「こんのぉ!」
苦し紛れに突きださんとした突撃槍を躱しざまに今度こそ槍を腹部に突き刺す。甲冑に僅かながらひびが入る。反射的に肘を下げて槍を食らったところを抑える流南。それを見越したうえで既に槍から手を放し兜の上から思い切り流南を殴りつける瞬。紘一が喰らったように流南も壁際まで吹き飛ばされた。
「流南!」
たまらず、戦いの様子を見守っていた華南が叫ぶ。紘一はアスファルトを蹴り、盾を構えながら後ろから瞬の眼前まで飛び込む。
「シールドロア!」
そう叫ぶとプリセプツウォール、セイクリッドレイのリキャストタイムを伸ばし機先を制したうえで、剣で斬りかかる。槍で剣を受け止め、即座に蹴りで応戦する。それを盾で受ける紘一。同じ轍は踏まない。が、それも瞬は見越していた。受けられた蹴りを下ろしざま、紘一も拳で殴りつけ、吹き飛ばす。槍を持ち換え、槍を真後ろに突き立てる。体勢を立て直した流南の胸の甲冑に深々と槍先が突き刺さる。
「ぐわあ!」
盾で受ける事も出来ず直撃し、更に連閃を槍で加えていく。そして、盾を持つ右手の手甲に全力で槍を振るう。ガキリ!と鈍い音が走り、たまらず、盾を落とす流南。
「やめて!やめてください!模擬戦なんですよね!?やりすぎです!!」
華南があまりの苛烈な攻撃に中止を叫ぶ。
「まだだ、まだ足りない。足りないんだよ。なんなら、君も変身して止めて見せろよ。LIVINGだろ?」
「クッ…!な、なんて人!それなら!ジョブ、ハンター、変身!」
華南が光に包まれると黄色を基調としたプロテクターに身を包んだLIVINGに華南は変身した。右手には一張の弓。ただ、普通の弓とは様相が違う。弓幹に一本の弦とそれとは別に、まるでハープのように並んだ弦が平行して弓幹についている。これがハンターの弓だ。矢を射る為の弦と、音を奏でて邪を払うための弦が一つとなっている。
「クラックアロー!」
弓幹から伸びる弦を引くと何もなかったところに青い光の矢が発生する。これがハンターがいる矢、魔力の矢である。クラックアローは、攻撃力の高い純攻撃スキル、華南の持つ現行最高の攻撃だ。矢を放つとビュンという音ともに、瞬の数ミリ横の壁に大きなひびが入った。
「外した!」
「これでやっと三対一だァ!」
瞬は華南の懐まで飛び込まんと高速で駆けた。それを紘一が阻む。
「シルバーファング!瞬!怒りに飲まれ過ぎだぞ!?」
衝撃波を食らい足を止めた瞬に、紘一は盾を構えてしがみつくように、体当たりをした。
「うるさいんだよ!」
密着したところに、瞬は無理くりに引きはがし膝を鳩尾に打ち上げる。続けざまに離れながら槍で紘一を斬りつける。
「ぐっ!」
「隙あり!!」
流南が二人がもみ合っている隙に、突きを放つも、瞬はすんでで躱す。合わせるように華南が矢を一本、二本と連続で放つ。そのうちの一本が、瞬の肩に当たる。ローブの防御力によって刺さりはしないが、大きく体勢を崩す瞬。紘一が再び走り込み、剣を振るう。
「チッ、セイクリッドレイ!」
それを光波で吹き飛ばして止める。
「まだまだぁ!」
体勢が整い切れていない瞬に、流南が連続で突きを放つ。それを槍で捌きながらも、視線はハンターの華南から外さない。
「姉ちゃん!」
「ポエムオブナイト!」
そう叫ぶと弓幹に並んだ数本の弦を親指ではじくと軽快な音が辺りを包む。
「よし、サイクロプススラスト!」「シルバーファング!」「バンドルシュート!」
ポエムオブナイトはシールドロアの真逆、味方のリキャストタイムを一秒縮める。そして、三人の持つ攻撃スキルを瞬の正面、左右からほぼ同時に放つ。
「セラフィムストーム!」
自身を中心に強力で大型の魔方陣を築き、魔法陣の中にいる物には攻撃を、魔法陣の外からの攻撃には防護を張るスキルLv25で習得可能なヒーラー最大の攻撃魔法である。リキャストタイムは120秒。当然、シルバーファングを打つために接近ししていた紘一とサイクロプススラストを槍でのダメージを上乗せしようとしていた流南は、魔法陣の餌食となった。そして魔法陣の外から放たれた三本の魔法の矢、バンドルシュートは弾かれる。
「…そんな。」
「ぐあ…」
「うぐぅ、うう…。」
「僕にこれを使わせるのは君たちが二組目だよ。発想は悪くないんだけどね。君たち姉弟ならどこかのタイミングでポエムオブナイトは使ってくるだろうとは思っていたから。ただ、サイクロプススラストがディフェンダーである流南にも打てること、ウォリアーのLvが7だという情報を流南が喋ってくれたおかげで、ソードオブフルムーンや他の攻撃スキルは来ないことが確定した。」
槍を杖のように突きながら、朗々と語る瞬。
「あとは紘一だが、紘一は思いついたことにすぐ飛びつく癖がある。多分、ポエムオブナイトを聞いた瞬間に自分のリキャストタイムを確認して即座に合わせて撃ったんだろうね。策士策に溺れる、ていうやつだよ。」
そして槍の穂先を華南に向ける。
「華南、君があの時、紘一を信じて、ポエムオブナイトではなく、バードオブフェザーを選択したうえでポエムオブナイトを使っていれば、セラフィムストームも間に合わなかった。選択を間違えたね。」
バードオブフェザーは5秒間だけ味方の素早さが上がるハンターのスキルだ。しかし、素早さが上がるというのは単純な話ではない。自分の素早さに自分の脳が付いていかなければ却って、足かせになる事もある。
「ただ、押されていた事は事実。なかなかの実力だよ。初めてにしては三人の息もあっているようだしね。ま、合格点をあげて良い。」
「合格?瞬さんとパーティーを組む資格がある、ということですか?」
合格という言葉に訝しんだ華南は質問で返したが、瞬は否定の言葉でそれに答えた。
「いや、僕はこのパーティーには参加しない。」
「ぅぐぐ、なんだって?」
「まだ無理して立たなくていいよ。あれの威力は折り紙付きだ。紘一は四人で、っていったけど、元より僕はパーティーに参加するつもりはなかったんだよ。あえて、気が進まないという言い方をさせてもらったけどね。僕はヒーラーというジョブを選択しているけど、スタイルは全方向においてソロ戦闘用の万能型だ。だから、ヒーラーの特色である味方のバフ系のスキルは習得していない。」
「いてて、じゃあ、瞬兄ちゃんの言う合格って?」
流南がやっとのことで上半身を起こす。
「君たち三人でパーティーを組めるかどうかの合格不合格か、だよ。僕は僕で強襲者を狩る。幹川、だっけ?その先輩の意識を狩った強襲者がどこにいるのか調べが付いた。今日中にやらせてもらう。いい相手を紹介してくれてありがとう、紘一。もうしばらく、ここで休んでいくといい。僕は行くよ。強襲者を相手に暴れさせてもらう。」
瞬が変身をとく。
「君達ならいいパーティーになると思う。集団戦を覚えて、もっと強くなりな、じゃあね。あ、冷蔵庫の中身は勝手に飲んでいいから。」
そういうと瞬は、隠れ家を出ていった。
「すげえつええな、あの兄ちゃん。」
流南がコーラを飲みながら、感想をこぼした。
「俺は瞬以外のLIVINGの強さをほとんど知らないけど、確かにあいつはLv以上の強さを持っている気がするよ。」
華南が、紘一と自分の分のウーロン茶をコップにつぎながら、自身の瞬に対する感想を言う。
「性格も良いんだか悪いんだかよくわからない人ですね。」
確かに、瞬は余裕を持った態度で人と接するが、こと、戦闘となると狂人じみた性格が表に出る。戦闘が終われば、的確に戦闘を批評し、課題を与えることだってする。
「最初はカッコよすぎてどうしようかと思ったけど…。」
「え、ごめん、なんだって?」
「いえいえいえいえ、何でもないです何でもないです!」
ぼそりと呟いた本音を紘一に拾われそうになり、慌てて、両手を振って何もなかったことにする。
「しかし、パーティーか、紘一兄ちゃんがいるのは心強いし、なんつうか、三人、上手くかみ合ってたよな!」
「そ、そうね!うん、上手くいってた気はするね!」
紘一は頷くとともに自分の瞬に対する考え方を語った。
「そうだね。そう、多分、そこなんだろうな、瞬がパーティーに入らないのは。」
「え、どういうこと?」
流南がその素直さで疑問を口にする。
「流南はディフェンダーとして強襲者や、他のLIVINGたちの的にならなきゃいけないだろう?だけど、瞬は自分でも言っていたように万能型で自分一人で何でもこなせてしまう。そうなると、流南が本来、的にならなきゃならない場面で、瞬が目立ってしまって、連携が機能しない、なんていう事もあるんじゃないかな?」
「そうか、ゲームアプリとかならヘイトを稼ぐ、っていうやつですよね。」
「そう。でも現実はゲームのようにヘイトを稼ぐなんて芸当は出来ない、だから割り込んででも流南が相手の攻撃を引き受け、それを華南がサポート。俺が隙をついて攻撃する。そういう流れが良いんじゃないかな。」
「確かに。ヘイトを稼ぐって、現実には置き換えられない事象ですもんね。」
「うん、それいいじゃん。紘一兄ちゃんは攻防一体のファイターだし、華南は元ヒーラーで現ハンターだからバフも回復も出来る!俺たち二人の時よりずっと、戦いが楽になるじゃん!」
華南が両手を合わせて喜びを表現する。
「そうだね、紘一さん、良ければ、今後一緒に行動しませんか?きっといいパーティーになれますよ、私達!」
「勿論、初めからそのつもりだったんだから。改めてこれからよろしくね、流南、華南。」
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