01
「こんなアプリ、入れたっけ?」
"Be Alive"というタイトルのアプリがスマホの片隅に置いてあった。
アイコンには幾何学模様が描かれた剣と盾。
暗い部屋にスマートフォンの明かりだけが部屋の輪郭を朧げに表していた。
アプリ紹介動画視聴でアイテムが手に入るスマホアプリを狂ったようにプレイしていた紘一にとっては、こういった光景はよくある事だった。
表示されるアプリ紹介につられてついついダウンロードしてしまう。
やらずに放置しているアプリも出る始末だ。
ただ、このアプリがどんな内容だったのか、紘一には見当もつかない。
『寝ぼけてるうちに間違えて入れちゃったのかな』
アプリをしながら布団で寝落ちするのが彼の日常であり、夢と現の合間に、
ダウンロードしたアプリの一つなのかもしれない。
"存命"という名を冠したそのアプリのアイコンに紘一の指は吸い寄せられた。
『ハクスラ系のアプリかな』最近、良いハクスラやってないからなあ、と、横になったベッドの上で、アプリが立ち上がるのを紘一は待つことにした。
"Be Aliveを立ち上げていただきありがとうございます。"
"Be Aliveのデータをダウンロードしています。"
スマホの画面下にダウンロードの進捗を示すバーが伸びては縮み、伸びては縮みを繰り返している。
Wi-Fi環境下にある、紘一の自宅ではこれは全く問題ない。
しかも近年のネット環境の改善と、Wi-Fiの高速化で、1Gのダウンロードも
最早、数秒の世界になりつつある。それに伴うスマホの進化もまた著しい。
"Be Aliveのセットアップを行っています。"
"Be Aliveのセットアップが完了しました。"
"Be Aliveの最適化が完了しました。"
"お使いのAndroidスマートフォンのOSをButlerOSに書き換えました。"
"ButlerOSの最適化が完了しました"
"Be Aliveを起動しています。しばらくお待ちください。"
「え!?」
矢継ぎ早に表示されるメッセージの中に突拍子もないメッセージが表示され、紘一はベッドから飛び起きた。
「え、何今の、OS書き換えたって?嘘?」
『え、アプリのフレーバーテキストだよな、いくらなんでも…。』
"Be Aliveが起動完了しました。"
画面全体にグリーンを基調とした幾何学的なデザインが斜めに流れだした。
そして唐突に
「お初目にかかります。紘一様。わたくし本日より、紘一様のButler、つまり"執事"を担当させていただく者でございます。
とはいえ、わたくしにはまだ名もありません。宜しければこの名もなき執事目に、紘一様より名をお与えいただく栄誉を授かりたく存じます。」
"起動完了"の文字が中央に表示された後、紘一のスマートフォンは朗々と挨拶を述べてきた。
音声は落ち着きのあるいわゆる執事然とした丁寧な声だった。
紘一の思考回路は一瞬にしてぐるりと回りだした。
『いま、紘一ってたしかにいったよな。なんで名前入力もしてないのに知ってるんだよ。つか、OS書き換えたとか、執事とか意味わかんないんだけど、え、どういうこと?!』
「これはこれは。驚かせてしまったのであれば大変申し訳ありません。
後任のOS、Androidが蓄積していたデータをもとに、紘一様のお名前を抽出しておりました。しかし、Androidはあくまで大衆向けのOS。
今後、紘一様のワンオフ機となる為には、わたくしButlerが必要不可欠にございますゆえ。」
「後任のOSって…OSが書き換わったなんて聞いた事ないし、てかゲームアプリだよな、これ。」
「ゲームアプリ、ですか。そういった側面を持ち合わせている事も確かでございます。しかしながら、
このBe Aliveはあくまで"存命"が主目的でございますゆえ。」
画面は先ほどのグリーンを基調とした画面から切り替わらない。
『存命が目的ってなんだよ、あ!』
紘一は慌てて、画面下部に表示されていたホームボタンを押した。
すると見慣れた狼をモチーフにした待ち受け画面とゲームアプリやカレンダー、LINEなどが並ぶホーム画面へと戻った。
「…なんだよ、びっくりしたあ、OS書き換えとかフレーバーテキストにしてはジョークが過ぎるよ。なんだったんだあのアプリは…とりあえず削除するか。」
アプリ一覧の片隅に置いてあった"Be Alive"のアイコンを長押しした。
「アンインストールが出ない…?」
「紘一様、大変驚かれている中恐縮ですが、既に"Be Alive"とわたくしは、このスマートフォンの中枢に置かれております。消去する方法は現状ございません。待ち受けやその他ホーム画面、使用感などは慣れていらっしゃるようですから、こちらで変更はいたしませんでした。」
「うあ…!?」
紘一は驚きのあまりスマートフォンをベッドの隅に放り投げてしまった。
それでもスマートフォンから"執事”を名乗る者の声が響く。
「驚かれているのも無理はありません。しかしこのButler、一度主君についたが最後、あなたの身の回りのすべてをお世話させていただく所存。どうかお赦しを。あなたは選ばれた方なのです。」
「えら、ばれた…?意味、わかんねえよ…。」
「あ、ああ!そっか、夢か。これは夢か。変にリアルな夢だな~。」
もう~、といいながら、紘一は頭から布団をかぶった。
「紘一様、お休みになられますか、かしこまりました。おやすみなさいませ。明日は定刻通り朝7時15分に起こさせていただきます。」
「はいはい、お休み執事さん…。」
遠くでスズメやムクドリの鳴き声が聞こえる。
カーテンから差し込む光が朝を告げていた。
「…ふぁ。ねむ。」
「紘一ー、起きてるぅ!朝ごはん出来てるから!テンちゃんにご飯だけあげてね!行ってきまーす!」
かあさんがバタバタと仕事に出かけていく音がする。
「おはようございます、紘一様。」
「ああ、おはよう…うわぁ!」
ベッドの隅に放り投げられたままになっていたスマートフォンから"執事"の声が響き、一瞬順応した紘一だが、それの違和感に気付き、
驚きの声を張り上げる。
「夢ではございません。そろそろ、現実を受け入れていただくよう。」
"執事"から機先を制される。
「いや、夢だろ、これは。」
「紘一様、貴幸さまと、ユイさまからLINEが届いています。内容はどちらも今日の哲学入門の宿題についてでございました。」
「…まじかよ、夢じゃないのか、いや、夢だよな、夢に決まってる!」
ベッドから転がり落ちるように立ち上がるとうろうろと部屋を歩き回る。
「お母様のご伝言通り、朝食が出来上がっております。
今朝のメニューは卵焼きとウインナーのソテ…」
「うるさい!!」
紘一は寝起きに乱れた髪をガシガシと書きながら執事の言葉に一喝した。
「まじでどうなってんだよ…コレ」
恐る恐るスマートフォンを手に取るといつもの画面が開く。
「そろそろ、朝食を召し上が…」
「うおわ!!」
一瞬訪れた通常に明らかな異常が入り込み、驚きのあまりスマートフォンを昨晩のように、ベッドの隅に放り投げる。
「紘一様、そろそろ慣れていただきませんと…」
「な、慣れるわけないだろ!?スマホが勝手に執事面し始めてどうやって慣れるんだよ、てか勝手に人のLINE見てんじゃねえよ!」
「申し訳ありません。執事たるもの、主人の方への連絡は一応、目を通しておきませんと。
もし不快でいらっしゃるなら今後対応を改めましょう。」
さて…という言葉が入り、再び"執事"は続ける。
「朝食をお召しになられましたら、いつも通りテン様にドッグフードを定量。シャワーを浴びて、8時16分の電車で移動。
8時40分より一限目の文化人類学の授業です。遅れませぬよう。」
「まじで現実なのかよ…」
「テン、ご飯!マテ!まあて!…よし!」
グレートピレニーズのテンのあたまを一撫でして、シャワーを浴びる。
ワックスで頭を整えて、ダークデニムに足を通してブルーストライプのシャツ、グレーのジャケットを羽織って、ブラックのリュックを背負い、左後ろのポケットにポールスミスの財布、右後ろにスマートフォンを入れて、鍵をかけて、家を出る。すぐに、BOSEのマイク付きイヤホンを通して、
「OK、グー…」
「その必要はございません、紘一様。わたくし目がおりますので。」
眉間にしわが思わず寄ってしまう。
そう、昨夜からこのスマートフォンに棲みついた"執事"がのたまうのだ。
「では、CLY GROUNDから数曲流しましょう。わたくしの所為とはいえ、あまり、気分が乗り気でないようですから。」
「自分の所為だってわかってはいるんだな。てか、曲の好みも知ってるのか?」
「勿論でございます。先代OSのAndroidで流されていた曲とあなたの歩数、スピード、スマートウォッチから入る脈拍で、その日の気分などを分析させて頂きました。いかがですか。」
「…悪くないよ。」
溜息が出る。しかし、本当に執事のような働きをする。
ミクスチャロックを流す執事が世界にどのくらいいるのかは解らないが。
最寄り駅へ入ったタイミングで"執事"がイヤホン越しに声をかけてくる。
「紘一様。敵が半径100m以内、近くにおります。お気を付けください。」
「はあ、敵?なにそれ?」
「"Be Alive"は文字通り『存命』のことでござ…」
「コウ、おはよー。」
声を掛けられて慌ててイヤホンを外す。
「お、ああ、お、おはよう…。」
どうしたの?といいたげに少女が紘一の顔をのぞき込んでくる。
同じ大学学部の同じゼミの同期、田川ユイである。
ユイは屈託のない笑顔を誰にでも向ける。肩まで伸びた黒髪が清廉さよりも溌溂さを表すような誰にでも好かれる子である。
「コウ、哲学のレポート終わった?LINE返してくれないから。」
「あ、ああ、ごめん。昨日早く寝ちゃってさ。終わってるよ。」
さっすがあ、と大げさに笑うとこちらの肩を叩く。
「コウは相変わらず優等生だねえ。私は一限さぼってレポートよ。」
「またかよ、文化人類学先週もやすんだろ?」
ユイは性格は明るいが大学には勉強に来ているよりも自由な時間が欲しくて、通っている方が正しく、いつもこの調子だ。
「まだあと二回休めるから前期は余裕でしょ。」
「いやまあ、そうだろうけどさぁ。どうせ後で今日のノート見せろって言うだろ。」
当たりっという風にニカッとユイは笑うと改札を通りながら、こちらに振り返り、先ほどとは違う暗い顔でこちらを向いた。
「そういえば、四回生の幹川先輩のこと知ってる?」
「え、幹さんなんかあったの?」
「一昨日から急に意識を失って回復してないんだって。」
電車に揺られながら紘一はその事実に驚愕した。
「家で眠ったまま、全く起きなくて医者も理由がわからないって。」
四回生の幹川先輩は面倒見の良いゼミの先輩だ。
紘一も入学時から可愛がってもらっていた一人だ。
ユイもゼミの先生である大須賀教授づたいで聞いただけで詳しくはしらないが、その容体について心配しているようだった。
「それでね、それだけじゃないの。」
あくまで噂の範囲を出ないんだけどと口ごもった。
「どうした?二人して暗い顔して!」
大学の最寄り駅から歩いていると、後ろから自転車の男に声を掛けられた。元気をそのまま形にしたような大柄の男だ。
「タカ、おはよぉ、タカ知ってる?意識不明になってる人が増えてるって話。」
タカ、木島貴幸、紘一の小学生からの幼馴染で学部が違うが同じ大学で学んでいる。そのつてでユイとも仲良くなった。
「その話か。まだテレビのニュースにはなってないけどな。」
そういいながら彼は自転車に乗りながら紘一たちと歩調を合わせ、スマートフォンを取り出した。
「ほら、ハッシュタグ意識不明、ちょっとバズってるんだよ。」
そちらには年齢も性別もバラバラな人たちが謎の症状で意識不明になっていることを情報交換する為、Twitterで多くの人が呟いていた。
「なんなんだろうね。うちのゼミの先輩も意識不明で…。」
「まじかよ。なんかの奇病、とかなのかなあ…。」
医学部にも貴幸はつてがあるらしく、それとなく聞いてみると言うと、ペダルを漕ぎだし大学の構内に人波を縫うように入っていった。
「…心配だな。幹さん。」
「そうだね…。」
暗い言葉から次の言葉が出てこなかった。
授業の予鈴が鳴ると、学生たちがそれぞれの教室へと歩き、二人もそれにつられて歩き出した。
「じゃあ、レポート頑張れ、12時締切だからな。」
「なんとかそれまで、終わらすよ。文化人類学、ノートお願いね!」
言葉の返事の代わりに片手をあげると紘一は教室へ向かった。
教室内のいつもの定位置につくと右ポケットからスマートフォンを取り出すと、携帯をサイレントにする。
すると画面にいつもの表示とは違い、ポップアップのようなものが画面中央に表示された。
『先ほどの意識不明の方々の件、"Be Alive"と関りがあるかと。』
「なっ…!?」
片手で持っていたスマホを両手でがっしりと掴み、画面を見入る。
辺りを見回し、紘一は小声で尋ねる。
「どういうことだよ…!」
再びポップアップで"執事"がそれに答えた。
『落魄、といいましょうか。精神と肉体と同一にあるはずの、精神だけが破壊された状態の事です。
精神が破壊された方々が意識不明となっているのでしょうな。』
「はい、講義をはじめまぁす!」
一限目のチャイムと同時に文化人類学の教授が教室に入ってくる。
「前回は…魂魄についての話だったわね。魂は精神、魄は入れ物。つまり、体ね。古来魂魄は別々でコレらが分たれる事で死んでしまう。
魄から、抜け出した魂は宗教や、文化、時代によって様々だけど、新しいステージだったり、新しい入れ物に入ったりして…」
"執事"の答えの下に丁度LINEの返信欄をまねたような入力欄があった。
『これで会話できるのか?』
しかし、紘一は返信するべき言葉が見当たらず、ただ、呆然と画面を見続けるほかなかった。それに感づいたか、"執事"は続けた。
『"Be Alive"の戦闘に負けた場合、落魄します。"Be Alive"はその戦闘に負けないためにある特定の人物にのみ、配られたアプリであり、ButlerOSはその人物を助けるために組まれたOSなのです。』
入力欄に紘一もあわてて入力する。
『ちょっと待て。戦闘ってなんだよ。負ける?どういう意味だよ』
音にはないが"執事"の落ち着き払った声が聞こえる様だった。
『文字通り戦闘です。ただし、近代戦闘のような重火器を使う事ではありません。専用の武器と防具を身に着けて戦います。基本的には剣、槍、弓、魔道具が武器、甲冑、プロテクター、保護スキンなどを防具と言います。』
紘一には"Be Alive"のアイコンにあった幾何学模様の入った剣と盾を思い出された。
『馬鹿言うなよ。なんだそれ、何で戦うんだ?ていうか何と戦う?』
『"Be Alive"、つまり存命するためです。何とという回答に対しては、基本的には"Be Alive"のアプリ保持者同士でございます。
しかし、最終的にはレイドボス、強襲者ということになります。』
「意味が解らない…」
「どの部分で?」
教授がこちらを振り返る。
「あ、ああ、と講義が終わった後個別に質問します!」
つい口に出てしまったようだ。
『"Be Alive"は存命する事が目的なのに戦いあう、殺しあうのか?』
『そうですね。そこだけをみると一見殺し合いに見えますが、"Be Alive"の敗者は"Be Alive"の勝者に対して魂、我々はスピリットと呼んでいますがそれを捧げることになり、そのスピリットを使って、勝者は自分や自分の武器、防具、スキルをレベルアップしたり拡張したりできるのです。』
『強くなるために勝つ。負けたら魂、スピリットはもう戻らない?』
『お察しの通りです。』
『じゃあ、幹さんも…"Be Alive"のアプリを』
しばらく、"執事"は沈黙した。
『そうではないようです。幹川様には"Be Alive"を利用した形跡がありません。恐らく強襲者に襲われたのかと。』
「魂、霊魂はしばしば霊媒師によって、現世に呼び戻される事もあります。シャーマニズムと言って、世界中で見られる現象ですね。」
教授は紘一と"執事"のやりとりをしらぬまま続けている。
『教習者ってさっきも出てきたな。』
『おそれながら強襲者でございます。紘一様。ただの誤字かと存じますが、念のため。強襲者はこの世界に漂う行き所を失い淀み切った魂が魔物と化したものです。
人の目には見えませんが、"Be Alive"のアプリ保持者なら可視化できます。』
「また、行き場を失った霊魂は時に邪悪なものに化けて、人間を苦しめたり田畑を荒らしたり、災害を引き起こします。
それをシャーマンたちが浄化したり、あるいは神格化する事で、人々の安寧に努めてきたのですね。」
『しかし、強襲者は脆弱なものも少なからずいますが、非常に強力なものも多いのです。そういったものに対しては、ただ、アプリを保持しているだけでは絶対に勝つことが出来ません。
だから、互いに戦いあい、より多くのスピリットを集め、強くなる必要があるのです。
強襲者も同じくスピリットを食い成長します。彼らに見境はありません。目に移った人間を食い散らかし、時にはその地に災いを起こすのです。』
『それに対抗するために、人間同士殺しあえってことか?』
『その点に関しては私の説明が不足しておりました。
"Be Alive"保持者には我々ButlerOSがついています。
主人のスピリットを他のアプリ保持者つまりLIVINGから奪われたとしてもButlerが身代わりとなって
スピリットの根幹を守ります。しかし、守れるのはあくまで根幹だけです。"Be Alive"の保持者の権利、強さメリット、
そして、LIVINGであったことの記憶等を失い、しばらく意識も戻りません。とはいえ、一時的にです。』
一時的という言葉を見て、紘一の心の隅に安堵感が芽生えた。
『落魄はどの程度でもどるかは人によりけりですが、あくまで一時的な物なのです。一部、戻らない人もいますが。
しかし、強襲者に襲われた人間は違います。その襲った強襲者を倒さない限り、目を覚ますことはありません。倒しても、戻らない。
その危険性もあります。』
「田中君、Twitterか、LINEか知りませんが、講義を聞かないなら出ていきなさい!」
「え、ああ、す、すみません!!」
「田中紘一君ね、レポートの点数下げておくから、覚悟しておきなさい!!じゃあ、講義の続きね…ほら、荷物纏める!」
「つまり、俺は多くのLIVINGを倒して、強襲者を最終的に倒せるようにしなきゃならないってこと?」
「仰る通りでございます、紘一様」
かくして、文化人類学の講義から追い出された紘一は学内の会議室へと逃げ込み、スマートフォンと対話することになった。
「なんで俺が。戦うなんて生まれてこの方、喧嘩もしたことない。」
それに…と言いかけて、紘一は口をつぐんだ。
「それに、なんでございましょう。」
「戦って勝てば、相手の意識を一時的か、永久的か奪うんだろ?そんなことできっこないだろ、普通に考えて!」
「では、強襲者を野放しにして、原因不明の病気として永久に、落魄した状態の人を生み出し続けていくのですか?」
「それは…そうだけど、俺じゃなくてもいいだろう!」
普段は温厚を体現するような人格の紘一が珍しく声を荒げた。
「そもそも"Be Alive"だってなんで俺なんだよ!たまたま、アプリ開いただけだろう!!」
もしButlerが実体化していていたなら肩をすくめて首を左右に振ったであろう。
「たまたま、ではありません。わたくしが先ほども申し上げた通り、貴方は選ばれて"Be Alive"のアプリ保持者LIVINGになられたのです。
貴方の性格、特徴、行動指針、生存背景、様々な点をスマートフォンやスマートウォッチのAndroidから情報収集分析し、"Be Alive"のアプリ保持者に選ばれた。貴方なら戦ってくれると。」
紘一は唇を噛みしめたまま俯いた。それに…と"執事"は続けた。
「敵はもうすぐ近くに来ています」
「え?」
会議室のドアがガチャリと開くとそこには見知らぬ男が立っていた。
「ここは良い所だなあ。周りに学生もいねえから騒いでもいいし。」
どうみても学生とは思えない。髪を金に染め上げ、
ドカジャンを羽織り、下はニッカポッカ。唖然とする紘一からやっと言葉が一つ出た。
「なん、なんですか?」
Butlerが叫ぶ。
「紘一様、逃げてください!LIVINGです!」
男が紘一を下から上まで嘗め回すように見回すと薄ら笑いを浮かべ、スマートフォンを取り出すと小さく声を出した。
「変身。」