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第九十七話 デリフィナ

 

「ギャー! 爆炎小僧っ!」


 夜が明けて顔に日差しが当たると、子供は筏の上で眩しそうにして目覚めた。

 しばらくはぼーっとしていたが、目をパチパチとして周囲を確認して僕を見つけると絶叫した。


 そして直後に奇声を発して逃げようとした。


 が、筏の上だということが分かったのだろう、ゴロリと転がり四つん這いなってこちらを警戒しながら聞いてきた。


「其方は何者じゃ?」


 薄汚れた粗末な服は裾がボロボロに擦り切れ、鎖を断ち切ったけど手枷、足枷が残っている。

 長くグシャグシャな髪の隙間から大きな目がこちらを見みている。

 粗末な格好だけど顔立ちは整っている。

 切れ長で大きな目は藍色、薄い水色の髪は短いけれど細い眉と小さな鼻は女の子のようだ。


「僕はシオン。

 何で海賊に捕まってたの?」


 見た目は十歳ぐらい、でも雰囲気というか様子がおかしい。

 違和感を感じながら聞いた。


「……。

 何故、妾を助けた?」


 色々考えながら話し出す。少し(とげ)がなくなり視線を落として聞いてくる。


「たまたまだね。

 インギルから仲間を逃すためにあの船に乗り込んだんだ。そしたらあのオッサンが君を連れてきた」


「あの船に一人で乗り込んだのか?」


 隠すことでもないのでそのまま答えたら呆れたような言葉が返ってくる。


「うん。成り行きでね。

 少し船に穴を開けてすぐに逃げるつもりだったんだけど、(ことごと)く魔法を相殺されて結局はぐれちゃった」


 周りを見渡しても一面海だ。

 一応北に向かっているけど、少し沖に出たみたいで陸地は見えない。

 まずは逃げることを優先したし、他に船の姿は見えないからもう少し進路を西にしても良さそうだ。


「そうか……。

 妾はデリフィナ。エナリアスのデリフィナじゃ。

 まずは救ってもらい助かった。ありがとう」


 エナリアスのデリフィナ。

 エナリアスは一族の名前か。

 しっかりとした礼をした後、髪を掻き上げると綺麗な顔が見えた。

 ボロボロの服なのに、金属の首輪をしてる。

 手枷、足枷とは違う重量感のある首輪を見てるとデリフィナが言った。


「これは呪術具だ。

 手枷をされてても逃げ出そうとしたら、強引につけられてしもうた」


「呪術具?」


「そうじゃ。妾は水棲魚人(サハギン)の族長の娘。

 泳ぎは得意じゃからの。

 海の中に逃げられぬように呪術具で縛られておるのじゃ」


 何だか厄介な子供を助けてしまったっぽい。


「見てると痛そうだし、外せる分だけでも外そうか?」


 軽く足を踏み出すと、デリフィナは警戒して後退った。


「あっ!」


 そんなに警戒しなくてもと思ったら、そのまま海に落ちてしまった。


 おいおい……。

 水棲魚人(サハギン)なので大丈夫だろうと思いつつも、僕もデリフィナを追って海に飛び込んだ。


 ザンッ。


 透明度の高い海だ。

 飛び込んだ視界のすぐ先に沈んで行くデリフィナが見える。

 手の掛かるお姫様だと思いながら、手を伸ばすと、視界の先でデリフィナがブクブクと沈んで行く。


 手枷足枷で上手く泳げない上に、重さがあるようでどんどん沈んで行く。

 何故かデリフィナは必死で暴れているし、ゴボゴボと泡を吐いている。


 流石に心配になって一気に腕を伸ばしてデリフィナを捕まえると、急いで海面に浮上した。

 ゼーハーと荒い息をしているデリフィナを筏に押し上げて声をかける。


水棲魚人(サハギン)って泳げないのか?」


「そんな訳あるかーっ!」


 咽せながらデリフィナが答える。


「いや、溺れそうになってたぞ」


「これには訳がっ!

 人魚の涙(マーメイドティアー)のせいじゃっ!」


 デリフィナが何故か急に仁王立ちして偉そうに胸を張って言った。


人魚の涙(マーメイドティアー)?」


「あっ、いや、妾はそんなこと言ったかの?」


 僕が聞き返すとデリフィナはオドオドとシラを切ろうとする。

 いや、確かに人魚の涙(マーメイドティアー)って聞こえたんだよね。


「あぁ、言った。確かに人魚の涙(マーメイドティアー)って言ったよ」


「いや、それは聞き間違いじゃないかな……」


「まぁ、言いたくないなら聞かないから。

 それよりまた溺れそうになっても困るから、取り敢えず手枷足枷を外すよ」


 人魚の涙(マーメイドティアー)は気になるけど、デリフィナを問い詰めてまで聞きたいことでもないので、話を手枷足枷に戻した。

 重そうな鉄の枷は見てるだけで痛そうなんだ。


「えっ? これを外すのは難しくないかの?

 無理やり外すのは恐いんじゃが……」


 またデリフィナが後退る。


「多分、大丈夫だよ。すぐにできるから」


 そう言いながら腰の巾着から空間魔剣を取り出した。


「ギャー、やめて!

 このままでいいから斬らないで」


 デリフィナが手をブンブンと振り回して拒否するので、手がつけられない。


「いや、本当に切れるか試すだけだから」


「嫌じゃー。妾の手が切り落とされるー」


「いや、痛くないし、手枷と足枷だけ切るから」


「いーやーじゃー! 絶対上手くいかんし」


「この剣は切れ味がいいから大丈夫だよ」


「そう言って、妾の腕を切るつもりじゃろー」


 泣きながら鼻水垂らすデリフィナを見てると、何でこんなことをしてるんだろうとアホらしくなってきた。


「あー、分かった。嫌なら止める。

 それと、ここで解放するから自分の部族に戻ればいいよ」


 面倒になったので、魔剣を巾着に戻してデリフィナを解放というか、自由にすることにした。

 人質を連れて行っても何かある訳でもないし、水棲魚人(サハギン)なら自由に海を移動できることに気付いたからだ。

 あ、泳げないのか?

 いや、仲間もいるだろうし大丈夫じゃないかな。


「いやじゃ、いやじゃ、困るのじゃー」


 何故かデリフィナは僕の足に縋り付いてくる。

 何なんだ?


「何? ワガママお姫様に付き合ってる場合じゃないんだけど」


「なんじゃと。妾はワガママお姫様じゃないのじゃ」


「もういい加減にして。

 枷を切るからじっとしててよ」


「恐いのじゃ」


 デリフィナは諦めたようで大人しくなったけど、鼻水垂れ流しでヒックヒックしてる。

 観念した彼女は両手を突き出して筏に正座した。

 海賊から助けて手枷を外そうとしてるのに何でこっちが悪者みたいなんだよ。と思いつつ改めて空間魔剣を巾着から取り出す。


「ちょっとじっとしててね。

 動くと危ないから」


「うぐぐぅー」


 デリフィナも少しは分かってくれたようで、歯を喰いしばって我慢してる。

 手がプルプルと震えてる。


 ヴォン。


「ギャー!」


「ちょっと、動かないで。動くと余計に危ないよ」


 さっきまでは正座だったけど魔剣の音にビックリした彼女が両手を振り回したので、今度はうつ伏せに寝て両手を頭の上に伸ばしてもらった。


 ヴォーン。


 空間魔剣に魔力を流すと小さな駆動音がした。そのまま手枷に近付けると何の手応えもなく鉄が切れる。


 カチャ。


 片方の手枷がデリフィナの手から落ちて音を立てたけど、そのままもう片方の手枷に魔剣を押し当てる。


 カチャ。


「終わったよ。次は足枷を外すよ」


「およ。本当に外せたのかや?」


「ちょっと、そのままにしてて」


 ヴォン、カチャ、カチャ。


 手枷と同じ要領で足枷も外した。

 大人しくさえしててくれれば、鉄を切るぐらいは何の問題もない。


 両手をまっすぐ伸ばしてうつ伏せに寝てるデリフィナを見ながら、今度は首輪をどうしようかと考える。


「お、本当じゃ。手も足も外れたのじゃ」


 デリフィナがあぐらをかいて座り、自分の手足を見た。

 グッパッと手を開いたり閉じたりしながら確認してる。

 少しはしたない姿勢だけど、子供だからそれほど気にならない。


「次は首環を切るよ。

 呪術具って切ると何か問題ある?」


「いや、問題ない。

 ……いや、これを切ると……」


 両手を眺めてたデリフィナは反射的に問題ないと答えた後、モゴモゴと口籠った。


「はっきりしないなぁ。

 ちょっと見せてもらうよ」


 まだモゴモゴ言ってるデリフィナを正座させて、首環を軽く持ち上げて観察すると細かな細工模様が見える。

 結構な重さがあってこの首輪をつけてるのはしんどそうだ。


「それじゃ、切るよ」


「あ、切って欲しいのじゃが、切っても問題があると言うか……」


「ま、一つずつ解決するから」


 ヴォン。


 空間魔剣に魔力を流すとデリフィナの髪をかき上げた。

 次に首環を持ち上げようとしたけど、難しい。


「ゴメン、自分で髪の毛纏めててもらえるかな?

 僕が首環を持ち上げるから」


「……分かったのじゃ」


 まだ色々考えてるみたいだけど、デリフィナも覚悟を決めたらしい。大人しく髪の毛をかき上げた。


 ヴォン。


 シュン。


 シュン。


 カチャ。


 魔剣に魔力を流して二ヶ所に切れ目を入れると、間の部分が外れて落ちた。


「外れた」

「外れたのじゃ」


 首元に残ってる首環をゆっくりと外して、筏に落ちた部分を拾い上げる。

 デリフィナの首を見ても問題無さそうだ。

 案外簡単だった。デリフィナが暴れなければもっと早く終わったのに。


「首は痛くない?

 見たところ傷は無さそうだけど確認してみて」


「大丈夫じゃ」


 既に首を入念にさすってたデリフィナがグルグルと首を回しながら答えた。


「なら、これで泳げるよね?」


「いや、それがじゃの……。

 ちょっと難しいかも知れんのじゃ」


「ん? 呪術具がどうこうって話じゃなかった?」


 手元の呪術具を見てみるけど、魔力のようなものは感じられない。呪術具の仕組みが分からないので構造とかも気になる。


「いや、ひょっとしたら呪術具じゃなかったんじゃないかなぁ。それか、呪いだけ残ってるとか?」


「意味分かんないよ。どゆこと?」


「いや、外れたから感じるのじゃが、海賊の首環はただの首環だったんじゃないかなー。

 泳げなくなる呪いの原因は別にあったんじゃないかなー」


 言いながら視線を外すデリフィナ。

 外した首環はただの首環で、それを知ってたデリフィナ。多分、海賊は奴隷に首環をつけるんだろう。

 それとは別に水棲魚人(サハギン)のデリフィナが泳げない理由がある。


 その理由を言えないから、首環を理由にしてた。

 言いたくないから、か?


「えっと、それはデリフィナは泳げないってことかな?」


「ちょっと、もう少し言い方があるじゃろ。

 呪いで泳げないだけじゃ」


「呪術具を外したのに呪いって、何なんだよ?」


「いや、水棲魚人(サハギン)にも色々あって恥ずかしいこともあるのじゃ」


 何故かデリフィナの声が小さくなっていく。




 シオンは泳げない水棲魚人(サハギン)を仲間にした。




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