第九十二話 その意図は
ツェルコストの港が夕焼けに包まれる。
僕らの船を改めるとやって来た十人ほどの警備隊。
強引に船の積荷を調べようとする男に停泊許可証を見せると、一団の中で一番偉そうな男がアルフレッドに斬りかかってきた。
「何をする!」
アルフレッドが即座に後ろに飛んだ。
男の剣はアルフレッドが立ってた位置を凪いで既に鞘に仕舞われている。
「ほぉー。ただの伝令役にしては腕があるじゃないか」
馬に乗ってた男は団長と呼ばれ、そして他の警備隊のメンバーも団長に劣らず力自慢な雰囲気だ。
「あぁ、お前らはこいつらを逃がさないように囲め。
後はオレが処分する」
そう言うと、剣を抜いた。
細身の剣だけど、白銀の美しい剣だ。柄が金色のガードで装飾されている。
剣の美しさが逆に団長と呼ばれた男の粗暴さを際立たせている。
この男は何を考えている?
そう思っている間に、部下たちが散開して桟橋の上に広がりアルフレッドを遠巻きに包囲した。
それぞれが腰を下ろし手に剣を構えている。
二人ほどはこちらの船に向かって構えて警戒してる。
「どう言うことだ? 何が狙いだ?」
アルフレッドも剣を抜き団長に言った。
「さぁな。オレが勝手にお前たちを処分する」
包囲の中、団長がアルフレッドに向かって歩き出した。
「凍結地面」
団長が更に踏み出そうとした瞬間にアルフレッドの凍結魔法が炸裂した。
一瞬で桟橋全体が氷で包まれる。
警備隊の面々は足元、膝から下が氷漬けになり身動きが取れなくなっている。団長も例外なく足元が氷の塊に覆われている。
「ぐっ! 何だ?」
「くそっ!動けねぇ」
「何が起きた?」
「炎の精霊よ、我が身体を寒さから守り給え。
熱空間」
「ダメだっ、魔法が通じねぇ」
突如、足元を覆った氷に対して警備隊が取り乱している。
その中でアルフレッドだけがゆっくりと歩き出す。
サクッ、サクッ。
アルフレッドが霜を踏む音がやけに大きく聞こえる。
「さて、改めて何が狙いか説明してもらおうか?」
剣も鞘に仕舞い、腕を組んで団長に問う。
構えを解いたのはもう反撃できないという自信の表れだ。
「くそったれ。何て化け物だ。
だが、それぐらいじゃ蒼風のインギル様には敵わねぇ。とっとと諦めてクアラギットの船の情報をよこしやがれっ」
「何だ、それが狙いか?」
どうも警備隊の連中はサンクレーズ号の情報を集めたいようだ。その情報を海賊に売るか、取引材料にしたいといったところか。
クアラギットへの伝令役と言ったアルフレッドを襲ったんだ、海賊への手引きと思っていいだろう。
「誰の命令だ?」
問題は単独行動か、それとも町長や町全体の判断か。
町長が関わっているなら、さっさと出航しないと次のイベントがやって来る。
「はぁ? オレ様以外に誰がいるってんだ?
今ならお前にも分け前をやる。分かったら、この氷を溶かしやがれ」
あ、単独行動だ。
アルフレッドも緊張を解いたようだ。
船に向かって歩いて来る。
「ロープを使うぞ」
「うん。小部屋の中にあるから、僕も手伝うよ」
船からロープを取り出すと次々と警備隊を縛りあげていく。警備隊のように見えたけど、団長の私兵、いや海賊の手下か?
「結局、何がしたかったの?」
順番に縛りながら、僕も団長に声をかけてみた。
「サンクレーズ号やサラマリア号の情報には高値がつくんだよ。なぁ今からでも一緒に儲けないか?」
「いや、遠慮します」
懲りない人だ。
こっちは襲われたんだから盗賊扱いになると思うんだけど、捕まってこれからのことを考えないのたろうか?
全員を縛り上げると桟橋を覆う氷を溶かして全員を港の入口にある詰所に連れて行く。
流石に襲われた直後の船にシーラだけ残すのも心配だったので、アルフレッドが一人で連れて行くことにした。
全員、抵抗する気がなさそうで助かる。
アルフレッドが十人ほどを連れて行くと波の音だけになった。
変な一味を捕まえてる間に夕焼けが夕闇になっている。
真っ黒な海からは時折小さな波音が聞こえてくる。
月に雲がかかっては流れてを繰り返している。
ボーッと真っ黒な海に浮かぶ月を見ていたらシーラが甲板小屋から出て来た。
「何か変な音が聞こえる」
「うん?」
「船が動いてる?」
シーラに言われて桟橋と砂浜を見るけど、特に人や船が動いてる様子はない。
海の方を見渡すけど、こっちは真っ黒で全然分からない。
「どの辺か分かる?」
「海、砂浜の先」
シーラはそう言うと砂浜から沖の方を指差した。
じーっ。
暗闇の海に目を凝らす。
じーっ。
視界を広く保ち、その中に変化がないか注意を配る。
うん? 黒い影が動いた?
何か黒い小さな船が沖にいる。
よく見ると影みたいな船が三艘いる。
「船……海賊か?
シーラ、あの船か?」
「……分からない」
警戒度が低くなったのか、シーラは甲板小屋に戻って行った。
沖にいる船を見ながら、さっきの男たちについて考える。
十人ほどの荒くれ者。……それにしては盗賊たちとは違う雰囲気だった。得体の知れない団長はいきなり襲ってきたが、ちゃんと統率された集団だった。
警備隊だと思ったら急に襲われたのだから不思議だ。
町の警備隊だとしたら許可証を見た時点で、おとなしく引き下がるだろう。
ただのならず者なら海賊との繋がりを口にしないはずだし。
海賊の一味か、町の犯罪組織の一員か?
それだったら余計におとなしく捕まるとは思えない。
そんなことを考えてる内にアルフレッドが戻ってきた。
「その後、大丈夫だったか?」
「あぁ、問題ないよ。
それにしてもアイツら何者だったの?」
「海賊らしいな。
正体が分からないが、何度か船を襲ってるところを見られてるようだ」
これから尋問するのか大変だな。
「海賊が町の中で襲ってくるってことは、よっぽどアルフレッドの船のことを知りたいんだね」
「ん? そう、なのか?」
アルフレッドが甲板に座ると腕を組んで考え始めてしまった。
「この船は少し目立つかも知れないけど小さな船だし、
乗ってるのも三人だよ。
わざわざ海賊が町中で襲う価値があると思えない」
「まぁ、そうかも知れない。
クアラギットの名前は出したけど、この船に何を積んでるかまでは言ってないし……」
「蒼風のインギルだけじゃなくて他の海賊もクアラギットの船を探してるかも知れない?」
「うーん、どうだろう?
そうだとすると厄介だな。
この町を巻き込みたくはないが、クアラギット周辺の港町で海上と町中を問わずに海賊たちがクアラギットの船を探してるなら、少しでも早く離れるべきだな。
国に戻れば何とかなるが、流石にこの船に三人しかいない状況では逃げるしかない」
「明日、他の船に紛れて出航しようか?」
「やむを得ない。さっきの団長みたいな奴に付きまとわれても困る」
とりあえず方針は決まった。
話を終えて、ふと沖にいる三艘の船を探したけど、見当たらなかった。
あの三艘も海賊なのかも知れなかった。




