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第九十一話 海賊の網

 

「それで結局何だって?」


 町長に会いに行ったアルフレッドは夕方になってから食料と水を運ぶ男たちを連れて帰って来た。ついでに船酔い止めの丸薬も手に入れて来た。


 三胴船は漁船を停めている砂浜ではなく、商用船などを繋留する桟橋に繋いでいる。

 漁師と商人、漁船と商船で桟橋を使い分けることでトラブルを防止してるらしい。


 アルフレッドが手に入れてきた船酔い止めの丸薬がすこぶる調子が良くて、シーラは完全復活した。

 町長と会って重要人物に格上げされたアルフレッド、何を積んでるか分からない三胴船。その船から急に現れた桃色髪の美女、ということで漁師の男たちがこの船を遠巻きにして眺めてるという何とも嬉しくない状況だ。

 シーラも好奇の視線が嫌だったようで、小部屋の中に引きこもっている。


「クアラギットから私や他の貴族が宝玉を買い付けにあちこちへ出払ったという情報が流れたみたいだ。

 買い出しに出れば、次は金貨や宝玉を積んで帰ることになる。そこで海賊が待ち伏せのためにあちこちで情報収集を行い、このツェルコストでも暴れて騒動を起こした結果、港が厳重警戒中ということらしい」


 アルフレッドも知らない内に海賊から狙われていたようだ。しかもこの町にトラブルが起きたのもアルフレッドが原因だったと聞かされて対応に困っただろう。


「それならさっさと出航してクアラギットを目指す?」


「それも考えたんだが、この町のことを放っておく訳にもいかないし」


「ふぅーん。ここからクアラギットまではどれくらいかかるの?」


「ツェルコストからクアラギットまでは船で二日だね。途中にサラハシーアがある。海岸に沿って北上すれば迷子にならないよ」


「海賊はどれぐらい?」


 ずっと黙ってたシーラが会話に入ってきた。航海中のどんよりとした雰囲気がなくなり、機嫌よく果物を食べている。


「この町に来たのは蒼風のインギルの一味と言ってた。沖の方で一艘だけ遭難したフリをしてた帆船があっただろう。あれも私たちを探してあちこちに散ってた内の一艘ってことだと思う。

 六大海賊(シックスジャック)の規模は正確には分からないが大規模な海賊は大型帆船一隻から三隻、小型船が十艘ほどで船団を組んでいる。

 人数にすると百人以上になるだろう

 夜中に追いかけてきた海賊はまだ分からないな」


「結構大勢いるね。普段はどこにいるんだろう?」


「ずっと船で生活する一味もいれば、小さな島に隠れ家を築いてる奴等もいる。アジトが分かればクアラギットや近くの国が討伐隊を出してるよ」


「それなら逆手に取って罠を張るのは?」


 シーラが物騒な提案をしてきた。

 船酔いからやっと回復したばかりなのに……。いや、回復したてで気分がハイ過ぎるのかも。


「そうしたいところだけど、こちらの戦力が心許ない。

 ツェルコストは小さな港町だし、クアラギットに連絡を取るには少し距離がある。

 しかし、このツェルコストから出ると追いかけて来るだろうし、その前にツェルコストを襲って来るかも知れない」


 この船には宝玉の宝箱を二十箱も積んでいる。

 元の商用船サンクレーズ号が難破してこの船に宝玉を積んでることがバレたら海賊たちがしつこく追いかけて来ることになる。

 この船が速いと言っても、ずっと追いかけっこは嫌だなぁ。


「アルフレッド、さっき町長との話でサンクレーズ号のことは何て伝えたの?」


「サンクレーズ号は南のスーラジャヤにいて、私一人だけが伝令のためにクアラギットに向かっている、と伝えた。

 ただの伝令役と分かって解放してくれたよ」


「なるほどね」


 状況が何となく整理できたところで、船に向かってくる足音に気付いた。十名程。町長からの使いだろうか?


 甲板小屋から顔を出して様子を見ると昼間の漁師たちではなく金属の胸当てをした男が騎馬に乗ってこちらにやってくる。

 一人だけが悠々と乗馬して、後の連中はその周りに綺麗に整列してやって来る。


「何者だ?」


 アルフレッドも僕の横に立って警備隊のような連中を見ている。

 シーラは面倒なのか小部屋の中に籠もったままだ。


 警備隊の一団が到着すると乗馬した男が顎で指図して、先頭にいる男が声を出した。


「船の中を改める。

 乗組員は皆外に出ろ!」


 何?


 アルフレッドと僕は二人で顔を見合わせると、ため息をついて返事をした。


「はぁ? お前たちは何者だ?

 昼間の騒ぎを知らないのか?」


 言いながらアルフレッドが船から降りて桟橋に立った。


「何のことだ?

 勝手にやってきた船がいるから、私が積荷を検分してやろうと言っているのだ。抵抗すると罪が重くなるぞ」


 馬の男はこの町で権力を持っているのだろう。

 これまでその力を使って自分の好奇心や我儘を押し通してきたみたいだ。

 場合によっては金品を要求したり、積荷を強引に差し押さえたりするつもりみたいで当然のように言ってくる。


「そうですか。

 それでは名前と所属をお願いします。

 その上で、どのような目的でこの船を改められるのかお聞かせ下さい」


 アルフレッドは真っ当に対応するようだ。

 毅然とした態度で返答した。


「歯向かうとは何のつもりだ?

 口答えせずに、船の中を改めさせろ!」


 先頭の男が口ごもり、顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。


 ……底が浅い。

 馬に乗ってる男は冷静に見えるので、声を掛けてきた先頭の男だけがテンパってる。


「この船に積んでいるものをこの町に降ろすつもりはありません。ですので積荷を確認する必要はないと思いますが?」


「ええい、黙れ!

 積荷を降ろす降ろさないは関係ない! 禁輸品を積んでないかを改める! 抵抗すると痛い目を見るぞ!」


 おぉっと、ゴリ押しで通すつもりだ。

 面倒な人だなぁ。


「この船については先ほど町長に説明済みです。ここに停泊許可証もあります。

 どうぞ、お引き取り下さい」


 アルフレッドが懐から小さな紙を取り出した。しっかりと停泊許可証まで調達してあったとは驚きだ。

 向こうの男が顔を真っ赤にして言葉に詰まってしまった。

 可愛そうに……。最初から喋らせるだけ喋らせてあの許可証で潰す計画にピタリと嵌った男が憐れだ。


「残念だったな。町長が許してもオレが許さない」


 突然、馬の男が喋り始めた。

 華奢な感じに見えるけど、低くて張りの声だ。

 先頭の男が横に下がり道を開けるとその男が馬から降りる。桟橋で馬の男とアルフレッドが対面した。


「大人しくしてれば命ぐらいは助けてやっても良かったんだがな」


 いきなり男がアルフレッドに斬りかかった。




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