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第九話 土の王


 結界を破ると緑の玉から魔力が溢れて何かが吹き荒れた。

 残っていた荊が砕けていく。

 慌てて体の前で腕を十字に組みガードする。

 砕けた荊が体に吹き付けられる。


 魔力の暴発が止むと緑の玉のあったところに一人の男の子がいた。


「!!!」


 男の子とは想像していなかった。


 僕よりも少し小さい。

 茶色い肌で肩まで伸びた黒髪をしてる。

 何だか上等そうな黒地の服の上に赤い皮鎧を着ている。


 そして、目をつぶって立っていた。


 彼は伸びをすると目を開けた。


「ん? お前は誰だ?」


 子供が僕に聞いてくる。

 子供は少しボーッとしてる感じがする。


「いや、君こそ誰だ?

こんなところで何してる?」


 子供の質問に対して質問返ししてしまった。


「あ、あぁ。オレは土の王だ。

結界を破ったのはお前か?」


 子供は自分のことを土の王と言った。

 そして結界のことを知っている。


 子供が結界に封じられていたのか?


「結界は僕が壊した。

あの結界は何だったんだ?」


「へぇー。結界を壊しといてその結界のことは知らなかったのか?

結界を破ったのはその魔剣か?」


「!?」


 僕の魔剣を軽く見ただけで見破った?


「君は何者だ?」


 改めて僕は子供に尋ねた。


「ふふっ。オレは土の王だ。

改めて礼を言おう。

封印を解いてくれて助かった。

そろそろ奴等がくるぞ。

怪我をしたくなかったら後ろに隠れてろ」


 子供は荊の檻から出てきた。

 姿勢が良くて、動きも何だか上品だ。


 僕にとって彼の答えは答えになってないが、彼にとってはあれで答えなのだろう。

 意味が分からない。


 子供が檻から出ると通路から足音が聞こえた。


「「「!」」」


「赤土!どうやって結界を破った!」


 通路を降りてきた人虎(ワータイガー)が怒鳴りつける。


 獣人がいるのは知っていたが、見るのは初めてだ。

 二足で立って喋る虎。

 顔は虎だ。

 茶色に黒の縞々の毛皮。お腹の方は白色の毛皮で覆われている。

 上半身は虎から肩が発達して手が伸びてる。

 下半身は足が二足歩行になりかなり筋肉がついている。

 後ろに尻尾が見えるので、走るときは尻尾でバランスを取るのだろう。

 そんな人虎(ワータイガー)が黒い肩当てと黒い胸当てで装備して、剣を下げてる。


 人虎(ワータイガー)後ろには三頭の大きな虎。

 後ろの虎は四足歩行だが、異常な大きさだ。

 四足歩行なのに虎人間と同じ高さに顔がある。

 当然、顔の大きさが二倍ぐらいある。

 よくあの岩の裂け目が通れたな、と思う。


「さぁ。どうやって破ったんだろうな」


 子供が人虎(ワータイガー)に言葉を返す。


赤土(あかつち)

あいつらは何者だ?」


 状況が分からなくて子供に尋ねた。


「? あいつらがオレを封印したんだよ。

お前にも赤土を見せてやるから、さっさと下がってろ」


 子供が人虎(ワータイガー)に向かって歩いてく。


「そこのガキは何者だ!

赤土の仲間なら容赦しない!

ここまでは来れたかも知れねえが、さっさと武器を捨てねえと痛い目見るぜ!」


 人虎(ワータイガー)が喚いてる。

 そういえば剣を抜いたままだった。

 様子を見るのに剣を納めた方がいいだろうか?


「怒鳴ってないでさっさと来いよ。

遠吠えばかりでお前は犬か?」


 虎を前にした子供だが、子供の方が落ち着いてる。

 余裕のある仕草で右手を前に出し魔法を唱えた。


土捻弾(クレイショット)


 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン。


 子供が土魔法で拳大の岩弾を撃つ。

 空中に赤い岩ができたと思ったら、凄い勢いで飛んでいく。


 何故か土弾の色は鮮やかな赤で光ってる。

 そんな土弾なので、岩は赤い光の線を引いて虎に向かう。

 僕の知らない魔法だ。


「クソっ!」


 人虎(ワータイガー)は魔法障壁を張ったようだ。

 土弾が障壁に当たり、そして障壁をぶち破る。

 人虎(ワータイガー)は威力の落ちた土弾を躱し、間合いを詰めてくる。


 後ろの虎は二匹が土弾を躱し損ねて被弾している。

 土弾は恐ろしく速い。それが何発も撃たれた。

 躱した人虎(ワータイガー)、そして一匹の虎は凄い。

 無傷の一匹が人虎(ワータイガー)と共にこっちに向かってくる。


土咬牙(クレイファング)


 子供の唱えた次の魔法で、地面から何本もの赤い牙が突き出す。

 土槍なんだろうが槍が赤くて太いので、大きな生き物の赤い牙に見える。


「ふざけんなよ!」


 人虎(ワータイガー)と虎は左右に分かれて躱すがそこにも次の牙が襲いかかる。

 人虎(ワータイガー)は何とか後ろにステップして躱した。

 しかし虎の方は体が大きい分、簡単に躱せず被弾した。

 後ろ脚に当たったようで足を引きずり動きが鈍くなっている。


土飛輪(クレイリング)


 子供が手を止めずに魔法を放つ。

 赤い片腕サイズの輪っかが空を飛び始めた。

 いくつものリングが弧を描いて不規則な動きで人虎(ワータイガー)を追い詰める。


 躱されても躱されても人虎(ワータイガー)を追っていく。

 人虎(ワータイガー)は剣を振り回し、躱せないリングを弾いてる。

 しかし、リングが大きいので重量も重いのだろう。

簡単には弾けず何とか回避しているに過ぎない。


土槍舞(クレイジャベリン)!」


 さらに子供は魔法を続けた。

 今度は空中に幾本もの土槍が浮かぶ。

 相変わらず赤い特別な土だ。

 槍が虎人間に向かい立て続けに降り注ぐ。

 リングを必死に躱してる人虎(ワータイガー)は槍に気づくのが遅かった。

 彼が槍に気付いたときには至近距離に十本以上の槍が飛んできていて、次の瞬間には複数の槍に貫かれていた。


 人虎(ワータイガー)を退治したあと、しばらくして土のリングが三頭の虎を仕留めて子供の復讐(リベンジ)が終わった。


「どこまで話してたかな?」


 子供は平然とした顔でこちらを振り返った。

 立て続けに魔法を放ったのに疲れは見えない。


「ああ、赤土の名前までかな」


 僕は身構えてたのを解いて子供のそばに向かって歩き出した。


「赤土かぁ。オレの魔法は特別だから、土魔法が赤い土になるんだ。

それでついたのが赤土。

二つ名だ。特に木の奴等からの呼び名だ」


「二つ名ねぇ。二つ名が赤土で名前は土の王。

どっちも呼びにくいな。

他に名前はないのか?」


「他にはないし、必要もない。

オレを呼ぶには王と呼べばいい。」


「いやいや。呼びにくいし、不便だ。

何かないのか、土の王。

それと色々と教えてくれないか?

土とはどこの土だ?

王とは誰が決めたんだ?」

僕は再び子供に聞いた。


「お前は何も知らずにここに来たのか?

仕方がない。お前が助けたのは土の王だから、少しは知っておくがいい」


 子供は土の王について教えてくれるようだ。

通路を上に向かって歩きながら話始めた。


「そうだな。しばし側仕(そばつか)えを許そう。しっかりと学べ。オレは土の王だ。簡単に言えば土の魔力が多い王。

オレよりも土の魔力を使える者がいないからな。

だから王だ」


 へぇー。王って魔力で決まるのか?


「それで若いのに王になったんだ」


「何を言っている。

こう見えてもオレは二百歳は超えているぞ」


「えっ?」


 ……というか、見た目二百歳ぐらいだけど。


「オレは人間に生まれて小さな頃に魔力を使えるようになったからな、その頃の姿のままだ。

少しは大きくなったかもしれんが王になってからは成長が止まったようなもんだ」


「はぁ。その王がなんで封印されてたの?」


よく分からないが、話が進まないのでとりあえず一通り聞こう。


「それは、木の奴等のせいだ。

オレが恐ろしい程の魔力と伝説の魔道具を持っていたからな。

その力を欲しがったのよ」


「はぁ」


「オレの魔力は強かった。

人間たちはオレを恐れた。

だからオレは国を離れ人のいないところに住むことにした。

そして住処(すみか)を探してるときに、ここを見つけた」


「ここはいいぞ。

土の生まれる国だ。

オレはここに土の国を作り始めた」


 僕と王は通路を上がり、落とし穴の底に着いた。


「これは?

お前が来るとき何があったんだ?

まさかオレを救うために?」


 落とし穴の底の惨状は知らない者が見たら唖然とするような状態だ。

 あちこちに獣と虫の四肢が吹き飛ばされているし、地面や壁に大きく抉った跡がある。

 その惨状を見て王が僕に聞いてきた。


「いや、その、落とし穴に落ちて……」


 どこまで話したものか?


「そうか。

それは大変だったな。

他に仲間はいるのか? 無事なのか?」


「僕一人だけだし、大丈夫だった。

それよりも土の国についてもう少し教えてよ」


 どこまで話すか考えるのが面倒だったので思わず食い気味に話を逸らした。


「そうか?犠牲者がいないならいいが。

それにしても、随分と激しい戦いだったのだろうな」


「はぃ」


 言えない。

 ……安易な気持ちで殲滅したなんて言えない。




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