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第八十五話 シーラの魔力は

 

 醜奪人鳥(ハルピュイア)から奪い返したお宝を整理して帰るとシーラが横になって呻いていた。


「どうしたの? また何かあった?」


 草原の家、土の塔の三階、様子を見に入った小部屋にいたサーラに尋ねる。


「それが、……シーラは自分の体調が良いことが分かると余分な魔力がなくなれば元に戻るのか? と言って飛び出して、草原でしばらく、いえ、かなり火魔法を使っていたのですが、急に倒れこんでしまって……」


 過剰な魔力、この場合は身体に取り込まれた魔素(マナ)を出すために魔法を連発するなんて無茶をしたもんだ。

 魔力を使い果たしても身体は戻らないのに……。

 いや、本当に戻らないのか?


「トゥーファン、人狼(ワーウルフ)とかの獣人は魔力を使い果たすと身体が変化したりする?

 例えば、小さくなったり?」


人狼(ワーウルフ)は特殊な例だが、彼等は魔力が暴走して容姿が変わり、それが落ち着くと元に戻るな」


 それなら、可能性が無い訳でもないか。


「だが、それは人狼(ワーウルフ)という種族だからだろう。強引に魔力の流れを断つなんてことは簡単にできることじゃない。

 それこそボーヴィルの短剣でもなければ無理だ」


 ボーヴィルの短剣か……。


「話が分からないのですが、シーラが元に戻れる可能性があるのですか?」


 サーラがトゥーファンに聞いた。

 その瞳にはシーラの状態を不安に思う気持ちと希望に縋る焦りが感じられる。


「可能性はある。

 しかし、断言できない」


「私からもいいか?」


 トゥーファンが言葉を濁し、僕が何か言うべきか考えているとアルフレッドが間を繋いだ。


「今の話は人狼(ワーウルフ)がボーヴィルの短剣で暴走を止めたように聞こえたんだが、そんなことがあるのか?」


「言い伝えだよ。その昔、使徒ボーヴィルがその短剣で疫病と人狼(ワーウルフ)を追い払ったっていう話しだ。

 真偽は分からない」


 光剣を使えば何とかなるのか?

 でも、上手くいく保証がない。

 兎人(ラビットマン)に戻らないかもしれない。

 魔力がなくなるかもしれない。

 そして、死ぬかもしれない。


 こんなことなら土竜(もぐら)醜奪人鳥(ハルピュイア)と戦ったときに光剣を使ってみれば良かった。


「そんな言い伝えがあるとは知らなかった。

 そのボーヴィルの短剣は実在するのか?」


「……分からない」


 僕はアルフレッドの問いに逃げる答えしかできなかった。トゥーファンも考え込んででいる。

 実在すると言えば、きっと探しに行くだろう。でも、その先に答えはない。


 光剣が兎人(ラビットマン)にどう効くか分からないからだ。


兎人(ラビットマン)にはそんな伝説のような話はないのかな?」


 矛先を変えるためにそんな質問をした。


「私たちの一族にはないと思います」


 サーラが首を振った。

 そうだろう。そんな話しがあればとっくに話題になっているはずだ。


「国に帰れば、何か分かるかもしれない。……が、難しいだろうな」


 少し考え込んだアルフレッドが控えめに呟いた。

 その答えにサーラが不思議そうな顔をする。

 昔、アルフレッドの国にいたという兎人(ラビットマン)の賢人の話しを聞いたのはいつだったか?


兎人(ラビットマン)の賢人か?」


「あぁ、昔、私の国には兎人(ラビットマン)の賢人がいた。

 (まつりごと)について賢人が語った内容は記録があるそうだ。ひょっとしたらその中に兎人(ラビットマン)についても書いてあるかも、と思ったんだ」


兎人(ラビットマン)の賢人ですか?

 人間は兎人(ラビットマン)を襲うものだと思ってました」


兎人(ラビットマン)を襲う、か。

 私の国では伝説の賢人だ。だから余計に捕らえようとする者もいる、か」


「私たちは人間から隠れて暮らしています。

 トゥーファンさんとシオンさんに会ってなければ、アルフレッドさんを助けることもなかったと思います」


 そういえば、成り行きでアルフレッドを助けて一緒にいるけど、元々人間を信用してなかったな。

 今、僕たちと一緒にいるのも本来は監視のためだし。

 兎人(ラビットマン)に恩を売ってなかったらこうして一緒にはいない。


「今のクアラギットには兎人(ラビットマン)がいないんだよね?」


「あぁ、クアラギットには兎人(ラビットマン)はいない。いるのは人間だけだ」


 兎人(ラビットマン)のいない国に兎人(ラビットマン)の記録があるのか、と感傷に浸りかけたところで、呻き声が聞こえた。


「うぅ。ここは?」


 シーラが目を覚まし身体を起こすと、僕たちを順番に見た。


「そうか、気を失ったのか。

 ……身体は人間のままか」


 自嘲気味に呟き自分の手を見る。

 手を握って開く。

 また手を握って開く。何度か繰り返して足に手を置いた。


 ゆっくりとした動作だけど、身体は大丈夫なようだ。


「……前よりも沢山魔法が打てるようになった。

 これも柘榴石(ガーネット)の力かな」


 軽く言った言葉が硬く乾いてる。


「どんな感じ?」


「変な感じ。

 目線が高い。身体が軽い。魔法を唱えるのが簡単。

 身体は大丈夫だけど、でも、何だか馴染まない。」


 シーラは僕の問いに答えながらも相変わらず自分の手を握ったり開いたりしている。


「無理はしないで」


 サーラが人間になったシーラの背中を撫でる。


「無理はしてない。

 身体が熱くて、魔法を使ったらスッキリすると思ったんだ」


「魔法を使ってみてどうだった?」


「前よりも威力も上がって、回数も増えてた。

 変な感じで、違和感があるんだけど自然に魔法が使えた」


「ゴメン。回復魔法でこんなことになるとは思わなかった」


「いや、あの、謝らないで欲しい。

 助けてもらって感謝してるし、姿が変わったことを悲しんだり後悔してる訳じゃないんだ。

 単純に魔法を使いたかったし、魔法を思いっきり使ったりしたら元に戻るんじゃないかって思っただけなんだ。

 結局元に戻らなかったから、元に戻らないんだって分かった。

 これから馴染んでいけばいい」




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