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第八話 落とし穴


上昇気流(じょうしょうきりゅう)!」


 落下する中、咄嗟に自分に対して上昇気流を吹き付ける。

 落下速度が緩やかになったところで落とし穴の底に着いた。


 普通の土で良かった。

 落とし穴の底に上向きの槍はなかった。

 普通の土で、平らだ。

 僕と一緒に落ちたのだろう、いくつかゴーレムの破片が転がっている。

 ちょっと落とし穴の高さがあったから、落下対策ができなければそれなりに危ないが、まぁ無事だ。


 転移してからずっと白煉瓦だったのが土に変わった。

 転移部屋も大広間も全てが白煉瓦でできていて、窓一つ無かった。

 だから地上か地下か分からなかった。

 しかし落とし穴に落ちて、辺り一面が土になったことでここは地下なんだと分かった。

 さっきの大広間では上に行くべきか、下に行くべきか悩んだが、今は上に行き地上にでるのが一番だ。

 とにかく地上に出て、ここがどこだか調べないと帰れない。


 方針が決まったので道を探そうか。


灯光(とうこう)


 光を打ち出し落とし穴の途中の壁につける。

落とし穴全体が明るく照らされた。


 広っ!


 さっきまでいた大広間の5倍ぐらいか?

 いや、適当に言いました。

 よく分かりません。ってぐらい広い。


 で、なんか色々いる。


 一番近そうなのから言うと、デカイ蜘蛛。

 僕の二倍ぐらいありそうな蜘蛛。

 これぐらいは距離もそこそこ近いしちゃんと分かる。


 離れたとこには熊っぽいのが見える

 ただの黒い塊に見えるけど多分熊だ。

 底の空間は暗くてだだっ広いから距離感がおかしくなる。


 それ以外に細かいのが色々。

 コオロギとか蛾とかアリとか。

 細かいといっても僕の腰ぐらいまではありそうサイズだ。

 自分が小さくなったのかと思ってしまう。


 ……まさか、落とし穴から落ちたときにそんな(トラップ)魔法があった?


 大広間みたいに一斉に襲ってくることはないと思うけど。

 どうしたものか?


 もう少し情報を集めようか。


灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)

灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)


 明かりの数を増やして視界を確保する。


 落ちた時に方角が分からなくなってしまった。


 落とし穴の底はあちこちに明かりをつけても全ては見渡せず、奥の方は暗闇になっている。

 右手の二方向は壁になっているようでその辺にゴロゴロ転がっている岩がかなり積み上がって壁に繋がっている。


 残りの左手の方はもっと明かりを増やさないと見えない。


 左手の方の探索をするためにも右手の昆虫たちを倒すことにした。

 左手に進み始めてから前後を挟まれるなんてイヤだからな。


 面倒なので大技で一気に行こう。

 これだけ広いし、僕以外は虫か獣だし。


木枯刃嵐(こがらしじんらん)


 最初に見つけたデカイ蜘蛛に向けて魔法を唱えた。

 ふわっと土煙りが舞ったかと思うと真空波が乱れ飛びながらつむじ風、それから嵐になって渦を巻き起こす。


 ズガガガガガッ!


 渦は僕の身長の十倍ぐらいの大きさになり地面を削りながら壁に向かっていく。

 巻き込んだ虫たちを一気に殲滅していき壁にクレーターを作った。

 右手側はそれでお終いだ。


 十分な威力が確認できたので正面にもう一発。


木枯刃嵐(こがらしじんらん)!」


 ズガガガッ!


 虫たちを木の葉のように巻き上げながら次々と葬っていく。


 ズゴォーン!


 最後に壁に二つ目のクレーターを作った。


 地面には僕から二方向に扇状の跡が残り、壁に二発の渦巻きクレーターが残った。


 一気に殲滅したのでどんな生き物がいたのか分からないけど、こんな落とし穴の底だし、問題ないよね?

なかなか使えない魔法を使ったのでやり過ぎたか心配になった。


 気持ちを切り替えて左手の方に目をやる。

 左手には右と左、二つの通路がありそうだ。


 右の通路前に熊っぽいのがいる。

 左の通路の方はもっと奥があるようで暗くてよく分からない。


灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)灯光(とうこう)


 明かりを増やしたら大分見やすくなった。


 右の通路は縦に裂けた岩の割れ目のような感じだ。

 左の方は広さ高さのある通路で少し上に向かっている。


 どっちも派手な魔法を使うと通路が崩れそうで怖い。

 火魔法は呼吸の問題や何かに引火したら困るので使えない。

 水魔法は使った後にぬかるむから却下。

 土魔法や金魔法は洞窟の補強になるかもだけど、地響きとかの影響も大きそうだし。


 となると、風魔法か石や金属で作ったもので物理攻撃か。

 風は使ったし色々飛ばしてみるか。


連鉛貫射(れんえんかんしゃ)


 金魔法で右側にいる虫たちに向かって鉛で作った親指大の尖った弾を連射する。


 ダダダダダダァ。


 射線が右から左へと走る。

 射線上の虫たちが四肢を弾け飛ばされていく。

 片っ端からやっつけたのはいいけど、見た目がグロい。


 あんまり使っちゃダメな魔法だな。


 そして熊に向かう。

 熊は魔剣で、と思ったけど他にも残ってるし面倒くさくなって魔法にした。


烈空斬(れっくうざん)!」


風刃舞(ふうじんぶ)!」


 烈空斬は巨大な真空波を出す風魔法だ。

 強烈な一撃で熊を仕留め、続く二撃目で雑魚を片付ける。

 風刃舞は小さな風刃を無数に出し当たり一面を切り裂きまくる。


風刃舞(ふうじんぶ)


 もう一度左側に風刃舞を放つ。

 瞬く間に左側も危険な生き物がいなくなった。

 範囲攻撃とかは魔法の方が便利だ。

 剣だと一匹ずつ倒さなきゃいけないけど、魔法だと一網打尽だ。

 周りに被害が広がらないように場所は選ぶ必要があるけど、周囲には僕以外誰もいない。

 魔法使い放題だ。

 ただ、やり過ぎた感がある。


「別に襲われた訳じゃないけど、襲われるかも知れなかったから」


 誰に言うともなく呟いた。



 落とし穴に落ちて地下洞窟に放り込まれた。

 落とし穴の底は開けた場所だったが巨大な虫と獣がたくさんいた。

 僕はそれらの生き物を魔法で退治した。

 残されたのは二本の通路。


 右側は更に地下へと続く岩の割れ目。

 左側は上に向かう幅広い通路。


 上に向かうなら左だけど、右の細い岩の裂け目が気になった。

 こんな落とし穴の更に下。

 ひょっとしたら宝箱でもあるかも知れない。


 普通に考えて邪魔者を退治するための落とし穴。

 その更に下に宝を隠す、なんてことはないけれどこれまでの性格の悪い謎解きを経験したので気になって仕方ない。

 落とし穴も侵入を防ぐためなら底にも罠を仕掛けてたはずだし、結果、落とし穴に落ちても無事だったし。

 実は落とし穴に落ちるのが正解かも知れない、とか考えてしまう。


 気になる右側に行くために一人で屁理屈をこねながら歩き始める。


 別に説得する同行者がいる訳でもないのに。


 歩きながら右の裂け目に入る前に明かりを用意した。

 その辺に転がっていたコオロギの脚。

灯明(とうみょう)」の魔法で小さな明かりをつけた。

 狭い通路で遠くから狙われると今度こそ危ないので、一応警戒した。


 右の裂け目を歩き始めると、最初は岩がむき出しで足場が悪かったのだが、しばらく歩くとちゃんとした通路になっていた。

 落とし穴の底にあった岩の裂け目は見せかけだけで、地下の方にも何かがあるのは確実だった。


 ホント性格悪いな。


 ホントに宝箱あったらどうしよう? ニヒッ。


 やがて視界の先に薄明かりが見えてきた。


 明かり……。

 何者かがいる。

 こんな地下の得体の知れないところに。


 足を止めて目と耳を凝らす。


 音はしないが、微かに何かの気配がある。


 忍び足で降り坂を下りていく。

 視界の先、大空洞の光の正体が見えてくる。


「これは…?」


 僕はそこに誰もいなさそうなのでそれに駆け寄った。


 それは荊でできた檻だった。

 何重にも荊が渦巻き、かつ結界か何かが仕掛けてあるようで中心に緑色の大きな玉がある。

 僕の体より大きい。

 何本もの荊が大きな玉を包むように枝を広げ棘だらけの檻になっている。


 緑色の大きな玉は光っていて魔力が働いています。って雰囲気だ。


 ふーむ。

 何だろう?

 これは何のための何の道具だ。


 玉の方をよく見たいが荊で見えない。

 荊を焼くか?

 いや、流石にダメだろう。

 勝手に何かして、何か罠が発動したら?

 でも、荊を取り除くぐらいなら問題ないか?


伐牙爪(ばつがそう)


 風魔法で茨を切り払うことにした。

 風を捻りながら熊の爪のように荊にぶつける。

 バリバリと豪風が荊にぶつかるが荊はビクともしない。


 魔法の方が弱かった。


木枯刃嵐(こがらしじんらん)


 茨がどれくらいの硬さか分からないので、強い魔法で一気に削りとることにした。

 端の方を掠らせるように打てばちょうどいいと思ったのだが、……。


 ドガーン!


 荊はピクリともしていない。

 先程、地面を抉った魔法で枝一本折れていない。

 爆音とともにこの部屋の壁を大きく抉っただけだった。


 ええーっ!

 やり過ぎたと思ったのに、まさかの効果なし。

 この結界すごい。


 それじゃ魔剣いきますか。


 久しぶりに魔剣に魔力を流す。


 ヴォン!


 枝先に軽く剣を振る。


 シャリン。


 おっ!

 枝が切れた。


 切れた枝が落ちるときにカチンと硬質な音を立てる。


 ヴォン、ヴォン、ヴォン。


 二、三度枝先を切り落として、徐々に荊を削っていく。


 暫く魔剣を振り続けて、半分ぐらいの枝を落とした。

 緑の玉を隠す枝が切り落とされて、直接見えるようになってきた。

 魔剣をしまい、緑の玉を観察する。


 光る緑の玉。

 僕よりも一回り大きい。


 表面に手を当てると中にものすごい魔力を感じる。

 魔力で膜を作り、そこに膨大な魔力を流して膜を強化してるようだ。

 魔力で壁を作る感じとは違う。


 魔力の流れをちょっと邪魔したら一気に結界が解けそうな気がした。


 それを試す前に考えておくことがある。

 この玉は一体何なんだ?


 こんなに強い結界で守ってるんだから、大事なものだろう。

 まず、誰に取って大事か?

 まぁこんな落とし穴の底だから何か後ろ暗いヤツだろう。


 では、何が入ってるか?

 人目を憚かるものに違いない。

 人目に晒さないようなもの。


 財宝の線はなくなったな。


 後は何かを封印してるのか?

 でも、こんな結界で封印って余程強い武具でもあるのか?


 まぁ、どちらにしろ封印を破って困るのは悪い奴等だろう。


 緑の玉の結界を外すとしよう。


 改めて緑の玉を見る。

 綺麗な玉だ。

 こんな魔力の塊で何を守っているのか?


 僕は緑の玉に右手の掌を合わせる。

 直接、魔力の流れを感じる。

 グルグルと不規則に動いている。


 流れを感じながら、僕の魔力を流し込む。

 徐々に脈打つようにリズムを取って、振り子に合わせるように魔力を増やす。

 魔力を流して、止めて、流して、止めて。

 僕の魔力に合わせて緑の玉が脈打ち始める。


 ドクン、ドクン。

 ドクン、ドクン。


 脈が強くなったタイミングで一気に負荷をかける。


 パリン!


 魔力量に耐えられなくなった膜が割れた。




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