第七十四話 襲撃
岩礁に乗り上げたサンクレーズ号は酷い有様だった。
小型帆船の三本のマストは全て折れてしまっている。左の側面には船底まで続く大きな穴が開いてた。
乗組員の安否は全く分からないけど、これだけの被害が出て無事とは考え難い。
それに醜奪人鳥と魅惑人魚が襲っていたのを見た。
余程の腕か運がないと逃げられないだろう。
今もたまに高い波が船に当たり、水飛沫を上げている。
船の破片を流したように、重傷者の身体や血痕なども流されたのだろうか。
それにしても余りにも何も見つからない。
周囲を警戒しながら積荷や宝石を探すが、乗組員の武器や防具も見当たらないし、積荷も全く見つからない。
「積荷も全然見つからないんだけど、何も積んでなかったのかな?」
「いや、そんなことはない。
食料を沢山積んでいたし、その、……素材も沢山あった。木箱に詰めたりしたが、全く見当たらないのは流石におかしい……」
壊れた船は残骸だけで、死体も見当たらないし積荷もない。
さて、どういうことだ?
「シオン! 歌声が聴こえるっ! 早く逃げて!」
突然、砂浜からシーラの声が聞こえた!
砂浜を見ると、シーラとサーラが砂浜で手を振ってる。
隠れるように言ってたけど、あの慌てぶりは余程のことだ。
トゥーファンとアルフレッドを探すと、二人も気づいたようだ。
三人して周りの様子を確認すると、山の方の空に小さな点がいくつも現れた。
醜奪人鳥か。
「トゥーファン、歌声は聴こえる?
山から多分醜奪人鳥が飛んで来てる」
「いや、聴こえない。
が、サーラたちが言うなら魅惑人魚だろう」
「ちょっと待ってくれ。さっきの声はあの兎か?」
慌ててアルフレッドが確認してくる。
僕たちが平然と話を進めてるからだろう。
「うん。彼女の声だよ。
ここじゃぁ何だし、まずは浜に戻ろう」
「あぁ、アルフレッドはシオンと一緒に先に戻ってくれ」
「しかし、……」
トゥーファンが言ったけど、アルフレッドは状況が分からないようだ。
「トゥーファンなら大丈夫だよ。
僕たちはさっさとシーラたちに合流しよう。
彼女たちが危ない」
「……分かった。
とにかく砂浜に戻って兎たちと合流するんだな」
「そうだよ。そして、森の小屋に戻る。
トゥーファン、ムリしないでね」
「あぁ、そっちこそ大勢任せるけど、ケガしないようにな」
トゥーファンはそう言いながら雷鳴の剣を取り出した。
ああ……、やる気だ……。
一方、僕はアルフレッドと一緒に岩礁の岩場を飛びながら砂浜を目指す。
「アルフレッドは歌声が聴こえる?」
「いや、聴こえない。
しかし、あの兎は何なんだ?」
「兎人だよ。
危害を加えようとしたら許さないからね」
バレたものは仕方ないけど、一応牽制しとく。
アルフレッドは兎人が信じられないのか、視線を二色の兎人に向けた。
不意にサーラが膝を着いた。
何か攻撃を受けた?
良く見るとシーラも耳を押さえている。
「シーラ!
山から鳥の魔物が来てる!
先に崖に隠れてっ!」
サーラに寄り添っていたシーラが空を確認する。
さっきまでは遠くに点のように見えただけなのに、今では羽根を広げた姿が確認できる。
その姿を確認して、シーラはサーラに肩を貸して砂浜を歩き出した。
僕とアルフレッドはまだ船と砂浜の中間ぐらいで二人のところには辿り着かない。
このままだと醜奪人鳥の方が早い。
シーラも同じことを考えたんだろう、足を止めると先頭を飛んでいる醜奪人鳥に向かって火玉を飛ばした。
ゴウッ!
スピードはさほど出てないけど大きな火の玉だ。醜奪人鳥たちが回避して軌跡が乱れた。
でも、魔法を打ったシーラまでが膝を着いてる。
……ヤバイ。
しかも、シーラの火玉が醜奪人鳥の敵対心を煽ったみたいだ。
何羽かの醜奪人鳥がシーラに向かって滑空していく。
「火炎縛鎖!」
砂浜に向かって走りながらシーラに向かって滑空する醜奪人鳥に向かって火魔法を放つ。
小さな火の玉が醜奪人鳥に当たる直前に大きく弾けて広がり、醜奪人鳥を包み込んだ。
ちょっと特殊な火魔法だけど、効果は大きく醜奪人鳥が一斉に僕に仕掛けてくる。
シーラたち二人と十羽ほどの醜奪人鳥たちの間に入るようにして、シーラたちの盾になった。
更にアルフレッドが僕の後ろでシーラたちを庇うように構えた。
……それなら渡しておいた方がいいかな。
「それ使っていいよ。
たまたま拾った剣だけど」
アルフレッドが上空の醜奪人鳥に気を取られてるタイミングで巾着からアルフレッドの剣を取り出して放り投げた。
「なっ! この剣は! どこにあった?!」
アルフレッドが戸惑い怒鳴り返してきたけど、取り敢えず無視して醜奪人鳥を相手にする。
「火爆槍!」
「火爆槍!」
「火爆槍!」
手っ取り早く醜奪人鳥を退治するために、魔法の火の槍に爆発効果を足して攻撃した。
火の槍が醜奪人鳥に当たると大きく爆散して周囲の醜奪人鳥を巻き込む。
大きな被害は与えられないが、小さな傷でも自由に空を飛ばなくなるだけマシだ。
そのとき、沖の方が瞬間的に光り轟音が響いた。
砂浜にいた僕でも目がチカチカする。
きっとトゥーファンが雷鳴の剣を使ったんだ。
……使う気満々だったから驚く事じゃないけど、この光と音はビックリするからやめて欲しい。
「何だ?!」
ほら、アルフレッドが焦ってる。
そこにもう一発雷が来た!
トゥーファンが一撃で仕留められないらしい。
沖の方はトゥーファンに任せてこっちの醜奪人鳥を何とかしないと。
「飛炎燕舞」
「飛炎燕舞」
「飛炎燕舞」
火魔法を唱えると、大きな炎の燕が空を飛び、醜奪人鳥を追い回しては炎に包み込んだ。
醜奪人鳥は動きが早いので、直線的な火魔法だけだと、躱されたあと一気に懐に入られてしまう。
「危ないっ!」
アルフレッドがシーラに飛びかかろうとした醜奪人鳥を切り飛ばした。
シーラとサーラが目を大きく見開いている。
アルフレッドが助けてくれて良かった。
「水の精霊に願う。
水の刃となり敵を切り裂け。
水刃!」
アルフレッドは体制を整えると水魔法を唱えた。
半月状の水の刃が醜奪人鳥に向かって飛ぶと、水刃が醜奪人鳥の翼を落とした。
乱戦になってしまったけど、余計な被害が出る前にさっさと片付けよう。
……しかし醜奪人鳥たちは襲ってくるどころか、距離を取ってこちらの様子を伺っている。
そして、暫くすると山に向かって飛んで行ってしまった。
くそっ!
逃げられた。
沖を見るとトゥーファンが岩場を飛び跳ねてこちらにやって来る。
トゥーファンの向こうに地形の変わった岩礁が見える……。
「魅惑人魚はどうだった?」
僕が全然汚れていないトゥーファンに聞いた。
「二匹仕留めたと思うが、多分、まだ何匹かいるな」
「あれ? 一匹じゃなかったの?」
「あぁ、一匹仕留めたら、もう一匹襲ってきた。
それより、そっちは大丈夫か?」
トゥーファンの声に合わせてみんなを見ると、シーラたち二人は気分が悪そうだけど立ってこちらに歩いて来るので大丈夫そうだ。
アルフレッドは逆に視線が合うと、膝を着いて倒れてしまった。
えっ?
アルフレッドの顔が青い。
左腕の肩の辺りで服が破れ、血が滲んでいる。
怪我をしてる?
さっき、シーラを守って醜奪人鳥を切り飛ばしたときに掠ったか?
怪我自体は大したこたなさそうだ。擦り傷程度にしか見えない。何が原因だ? ……ひょっとして醜奪人鳥の毒か?
シーラもそれを感じたのだろう。
アルフレッドに駆け寄って服を引きちぎると、その下に黒ずんで紫色になった傷口が見えた。




