表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/100

第七十三話 アルフレッド

 

 森の中、海岸から離れた位置、川の近くに粗末な小屋を建てて男を寝かせた。


 草原の家のように目立っては困るので、一部屋だけの雨風を凌ぐだけの小屋だ。木属性魔法を使ったけど、仕方ないよね。火魔法じゃ何もできないし、小屋ぐらいないと看病が大変だ。


 濡れた服を乾かした方がいいかな、と考えたけど、服を脱がすのも何なのでそのままにする。

 がっしりとした身体つきの男性で、当然のように僕よりも大きな身体をしてる。

 上等そうなシャツの襟元や袖口には刺繍が入っているし、いかにも高そうだ。


 男を背負って移動したので僕も少し濡れてしまった。

 まだ昼前だし、その内乾くだろうと果物を取りに出た。


「よう、どうだ?」


 小屋を出て暫くするとトゥーファンとサーラ、シーラがやって来た。

 ……来るのが早い。

 トゥーファンは平然としてるけど、サーラとシーラはしんどそうだ。

 特にシーラは往復だし疲れてるだろう。


「早かったね。

 さっき、あそこの小屋に寝かせたところだよ」


「クックック、シオンと居ると飽きないな。

 寝てる内に様子を見たいのだが、いいか?」


「もちろん。

 ちょっと良さそうな服を着てるよ」


「ほぅ。どこかのお偉いさんかな?

 サーラはシーラと一緒に見えないところで待っててくれ、この辺りならそんなに危険もないだろう」


 トゥーファンはサーラに告げると小屋に向かって歩き始める。


「船が難破して、砂浜まで逃げて来たって聞いたが……」


 トゥーファンが促したので、僕は少し補足することにした。


「最初は森の中で歌声が聴こえたんだ。

 声を追って北に進むと、岩礁で難破している船を見つけた。

 船の上には醜奪人鳥(ハルピュイア)が十羽ほど飛んでた」


醜奪人鳥(ハルピュイア)?」


「鳥の魔物で頭は人間。大きさは大人ぐらい。

 屍肉を漁ると言われてる」


「聞いたことはあるが、そんなのがこの島にいるのか?」


「僕も本で見ただけだったけど、多分醜奪人鳥(ハルピュイア)だと思う。

 それが難破船に集まってた」


「よく無事だったな」


「難破船が襲われてるときに、彼が入江に逃げ込んで来たのが見えたんだよ。

 船から落ちたのか、囲まれる前に逃げて来たのか分からないけど、入江に逃げて来て砂浜に着くと倒れ込んだんだ」


「ふーん。その船も何しに来たんだろうな?」


「男を助けてから難破船を見たら、大きな人魚が船を襲ってた。

 多分、魅惑人魚(セイレン)だと思う」


魅惑人魚(セイレン)

 それもまた、伝説の魔物だな」


「まぁ、醜奪人鳥(ハルピュイア)の五倍ぐらいの大きさだから、船のような身体だけどね」


「五倍?

 魅惑人魚(セイレン)ってそんなに大きいのか?」


「僕が見たのはそんな大きさだったよ」


「そんなに大きいとは知らなかった」


「恐らく、森の中で聞こえた歌声もその魅惑人魚(セイレン)の歌じゃないかな。

 その歌声に惑わされて船が座礁したんじゃないかな」


「そういや、魅惑人魚(セイレン)は歌声で船乗りを惑わすとかだったな。本当かどうかは分からないが……」


 二人して避難小屋に着くと、静かに中に入り男の様子を確認した。

 まだ、眠っている。


「体力か魔力か?

 様子を見る限りだと、疲れて眠ってるだけだな」


「うん。

 一応、怪我はなさそうだった」


「それにしても上等な服を着てるな」


「うん。刺繍とかもあるし、結構偉そうだよね」


「偉いかどうかは分からんが、金は持ってるな」


 僕たちが蒼髪の男の様子を見ながら話してると、男がピクリと反応した。


「起こしたか?」


 トゥーファンが声を小さくして呟いた。

 と、突然男が飛び起きた。


 飛び起きて上半身を起こすと周りを見渡して僕とトゥーファンを見つけた。

 睨むようにして僕たちを見て言った。


「ここは?」


 強い口調の声だった。


「ここは森の中だ。

 砂浜にいたあなたを助けて来た」


 僕が言うと男はグッと顎を引いた。


「船は? みんなは?」


 男は再び周りを見渡しながら聞いてくる。


「船は魔物に襲われていた。他の人は分からない」


 取り敢えず情報を抑えて様子を見ると、男はおもむろに立ち上がった。


「すまない。助かった。

 私は、……アルフレッド。

 冒険者をしている。

 私の、……私のそばに剣や宝玉が落ちてなかったか?」


 頭を下げると腰に残っている鞘を見せた。


「……なかった、と思う」


 いきなりの質問だったけど、剣を渡すのは危険な気がして嘘をついた。


「そうか……。

 仲間が心配だ。船に戻りたいのだが方角を教えてもらえないか?」


 おっと。

 淡々としてるけどハートは熱いタイプですか。


「船は北の岩礁に乗り上げてる。

 でも、あなたの体力を考えるとオススメしないよ」


「……。

 それでも、まずは仲間と船の確認が必要なんだ」


 自分の状態を分かった上での判断らしい。

 強い人だ。


「それなら案内するよ。

 止めはしないけど、浜に行くまでに難破したときの様子を聞かせて欲しい」


「あぁ。分かった」


 そう言うと早速出入口に向かうアルフレッド。

 かなり体力を消耗してるはずなのに、しっかりとした足取りだ。


 避難小屋を出ると、北に向かって案内を始める。


「海岸はこっちだよ。

 四半刻ほどで抜けられると思う。

 武器はないから、何かあったら逃げるからね」


 僕がアルフレッドに話してる間にトゥーファンが隠れてるサーラとシーラに隠れてるように合図した。


 ちゃんと合図を分かってくれるといいけど……。


「武器がないのか?」


 アルフレッドが驚いて聞き直してくる。


「あぁ、急いでたからね。

 それに逃げるぐらいの時間は魔法で稼げるよ」


「そうか、私も少しなら魔法が使える。

 ムリしないようにしてくれ。

 助けてくれた恩人に怪我させたくない」


 巾着には剣が入ってるけど、アルフレッドに見せたくないから嘘をついた。

 そして森の中を歩き始めた。


「アルフレッドこそムリしないようにしてよ。

 そっちがトゥーファンで、僕がシオン。

 僕たちも冒険者だから自分の身は自分で守るよ」


 トゥーファンが横に並んだのでアルフレッドに紹介する。

 冒険者って便利な職業だ。結局、何してるかは全然分からない。

 アルフレッドも冒険者だって言ってたけど、上等な服を着れる冒険者ってことで怪しさ満載だ。


「私たちは船で大陸の海岸近くを北上していた。

 十日ほど移動していたんだが、前日に錨を降ろしたのに朝になったら錨が切れていた。

 更にどこからか歌声が聴こえてきて、何人かの船員が意識を失ってしまった。

 そしてそのまま、潮の流れに乗ってこの島に流されて来たという訳さ」


 アルフレッドが簡単にこの島に来た経緯を教えてくれた。

 ……と言っても、運がないな。としか言いようがない。


「僕たちも同じようなもんだよ。

 僕たちは島から、大陸に行こうとしてこの島に流れ着いたんだ。

 船には何人乗ってたの?」


「二十二人だ。

 経験の長い船長だったし、乗組員もよく訓練された者ばかりだった」


「よく覚えてるね」


「あ、あぁ。十日も一緒にいたからな。

 半分が冒険者で商人の護衛をしてたんだ」


 森の中を僕たちと同じようなスピードで歩いている。

 冒険者と言ったのは嘘だと思ってだけど、そんなことはなかったみたいだ。森の中を歩き慣れてるし、気を失っていたとは思えない体力をしてる。




 断崖の上に着いたとき、既に醜奪人鳥(ハルピュイア)魅惑人魚(セイレン)はいなかった。


 船は僕が見た時よりもはるかに酷い状況になり、砂浜にまで板材や木箱が流れてきている。


「あれがサンクレーズ号か……? そんな、……」


 アルフレッドは船の変わり果てた姿を見て、言葉を失った。

 そして、気を取り戻すと砂浜に向かって走り出した。


 砂浜に視線を走らせて何かを探している。

 ……あ、アルフレッドの剣、ここまで必死に探すような剣なんだ。ゴメン、僕が持ってます。


 心の中でアルフレッドに向かって自己申告して、後で謝ることに決めた。


「探し物は剣と宝玉だったかな?」


「剣よりも宝玉を探すのを手伝ってもらっても良いだろうか?」


「あれ、そうなの? 剣の方が大事だと思ってた」


「剣もそれなりに大事だけど、今は宝玉の方が大事なんだ。

 特別な紫水晶(アメジスト)で、莫大な魔力がある。魔法が使えるなら、見分けられると思う。

 頼む。あの石は絶対に見つける必要があるんだ」


 アルフレッドが頭を下げてきた。

 あの美しい装飾を施した剣よりも大事な紫水晶(アメジスト)って何だ?


「その石の特徴を教えてくれないか?」


「深く濃い紫色の紫水晶(アメジスト)だ。

 これぐらいの大きさだから、すぐに分かるはずだ」


 アルフレッドがジェスチャーで両手で包み込むサイズの丸い大きさを伝えてきた。

 結構な大きさだ。


「専用の保管箱に入れてあったけど、どうなってるか分からない。保管箱は一回り大きな装飾付きの木箱だ。

 すまないが、頼む」


「あぁ、気にしないでいいよ。

 そんな大事な物を運んでるとは思ってなかったけど、今探さないと見つけられないだろうし……」


 トゥーファンも全然喋らないけど、ちゃんと探してくれている。


 剣にしろ紫水晶(アメジスト)にしろ、船から離れた砂浜にまで流れてくるような物ではないので、岩礁の岩場を探しながら船の本体に向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ