第七十一話 兎人の火魔法
日の出から暫くして目覚めると、下の方の木の枝をサーラとシーラがうろうろしてた。
下の枝を覗き込むとサーラが気づいて声をかけてくる。
「おはようございます。
食事は果物で良かったですか?」
簡単な木の器に瑞々しい果物が並べられている。
「あ、ありがとう」
思わず間抜けな声を上げてしまった。
振り返ると寝ていたトゥーファンがニヤニヤしながら起きてきた。
そのままニヤニヤしながら水桶の水で顔を洗うトゥーファンを見てたらムカついたので、水魔法をぶつけて顔を洗ってやった。
「シオン、やめろっ!」
ビシャビシャになったトゥーファンを見てやっと少し落ち着いた。
梯子を降りて行くと、木の枝に広がる大きめの部屋にサーラとシーラが果物の入った木皿を並べて待っていた。
「「おはようございます」」
「おはよう」
……トゥーファンだけは無言だ。
「えっと、何だか慣れてるけど、兎人
って朝早いの?」
「そうですね。
昼間に活動するのでいつもこんな感じです」
「食事の用意も手馴れてるけど、みんなこんなに器用なの?」
「私たちは女性なので食事の用意は手馴れてますけど、男性は準備が苦手かも知れないです」
おぅ!?
サーラとシーラが女性だった。
いゃ、見た目は大きな二足歩行の兎だから性別とか分からなかった。喋り方が丁寧かどうか、ぐらいに思ってたよ。
「すまない。助かる。
シオンとオレだけだと食事は適当なんだ」
固まっている僕を見捨ててトゥーファンがお礼を言った。……トゥーファンも気づいていなかったと思うんだけどな。
サッパリとした朝食を済ませると、早速昨日の話題になった。
「昨日の宿題はどうなった?」
トゥーファンが前置きも躊躇いもなく確認する。
「難しいのは分からない。私が強くなればいい」
「私はみんなを強くしたい」
シーラは行動派らしく自分が強くなりたい。
サーラは全体の強さを求めた。
二人の考えは良く分かる。
「そうか。どちらにもメリットとデメリットがある。
別れて訓練するとそれも分かるようになるだろう。
シオンは火魔法が得意だ。シーラはシオンに教えてもらえ。
サーラはオレが土魔法を教える。
その次に魔法陣だ」
おや?
この前まで木魔法縛りだったけど、今日からは火魔法縛りみたいだ。
……あ、最初にサーラにあったとき、雷針使わなかったか?
まぁいいか。小さな針でも投げたことにしとこう。
トゥーファンはサーラを連れて降りて行った。
シーラは挑むような目で僕を見てる。
うーむ。どうしよう?
「取り敢えず、砂浜に行こうか」
シーラを連れて砂浜に行くことにした。
あそこなら火魔法打っても問題ないはず。
「どうして個人の強さが欲しいの?」
改めてシーラに聞いた。
「うーん。一族のみんなはそれほど強くないから、それなら戦士の私が強くならないと、って思った」
「具体的にはどれくらいの強さが欲しい?」
「どれくらい?
そりゃ土竜を倒したり、熊を倒したりできる力が欲しい」
おっ、やっぱり土竜以外にも強い生き物いるよね。
「今のシーラだと土竜に傷を与えられる?」
「戦ったことがないから分からないけど、全然歯が立たないと思う」
「あれ? 戦ったことないの?」
「うん。私やサーラは女性だから戦いに参加させてもらえなかった」
戦いは男性の役割なのか?
でも、シーラは戦士なんだよな?
「シーラは戦士じゃないの?」
「魔力があるから戦士と呼ばれているけど、まだ戦ったことがない」
「そうか……。
できれば戦わない方がいいけど、そんな訳にもいかないか……。
どんな魔法が使えるの?」
「火玉とか豪炎とか」
「土魔法は?」
「……使えない」
おっと!
地雷を踏んだかも。
「そうなんだ。
兎人の中では珍しいの?」
「……珍しい」
「そうか。みんなが使える魔法が使えなくて、みんなと違う魔法が使えるのか」
「そうだ」
……だから強くなりたい。そんな風に聞こえた。
草原と砂浜の境目辺りにやって来た。
背後のかなり遠くに双子の塔が見える。
双子の塔っていうと、エルフの里にあるシンハの塔を思い出す。
知の塔と技の塔。
技の塔で思いつきのオモチャを作っていた僕。
行き当たりばったりな行動派のシーラ。
似た者同士な気がした。
「さぁ、この辺でシーラの魔法を見せてもらおうかな。
あの岩ぐらいがいいかな。
魔法をぶつけてみてよ」
「い、いきなりか?」
心の準備が……」
「それで怒ったりしないから、見せてよ」
「よ、よし」
「大地の神に我が言葉よ届け。
火の精霊よ、我が願いを叶えてくれ。
火玉」
拳大の火の玉がシーラの右手から飛び出すと、岩に向かって突き進んだ。
そして岩にぶつかると岩の表面を削って消えた。
「おぉーっ!」
大地の神に火を願う?
詠唱のちぐはぐさからは想像できない強い火の玉だ。思わず声が出た。
チラッとシーラがこちらを見る。
不安と恥ずかしさがあるようだ。
「凄いね。
僕の知ってる詠唱とは違うけど、威力があると思う」
……比較対象が付与士のミクリしか居ないけど。
そういや、ミクリって何歳だったかな?
シーラは何歳ぐらいなんだろう?
ってか、兎人の寿命はどれぐらいだ?
「今の魔法を何回ぐらい打てる?」
「……分からない。試したことがない」
土魔法を得意とする兎人が森の中で火魔法の特訓なんて、しないというか、できないんだろうな。
小さな火魔法なら問題なくても、大きな魔法は使う機会もないし。
「よーし。
それなら同じ魔法をもう少し気合いを入れて試してみようか?
その前にちょっと詠唱が違うけど、僕の魔法を見てくれる?」
「火の精霊よ、我の祈りに応えよ。
火の槍を顕現させ、我が敵を貫き給え!
火槍突!」
ミクリの使っていた詠唱を真似てみる。
詠唱に合わせて両手を突き出すと僕の手から巨大な火槍が出て、先程の岩を粉々に砕いた。
危なかった!
予想より威力が出てびっくりした。
久しぶりに火魔法を使ったし、この島には魔素が濃いのを忘れてた。
シーラもびっくりしてる。多分、見たこともない火魔法の威力に驚いている。
「今の魔法はっ?
私も今の魔法を使えるようになれるかっ?」
ガッツリとシーラが喰いついてきました。
僕の手を握って離さない勢いです。
……ちょっと冷静になりましょう。
「シーラって今何歳?」
「急に何? ……十五歳だけど」
怒り気味の返事です。
「兎人は長生きなのかな?」
「うーん、長生きだと思う。百歳から百五十歳まで生きる」
「なら、頑張ればできるようになるかも知れない」
……答えが気に入らないのか、シーラはちょっと不満気だ。
「魔力の成長方法は分からない。
グングン伸びるときもあれば、全然伸びないときもある。
ただ、若ければその可能性が増える。
伸びる伸びないは約束できない」
シーラは暫く睨んでたが、やがて折れた。
「分かった。
それでもいいから、教えて欲しい」
僕とシーラが師弟になった。
「それなら、もう一度集中して魔法を唱えてみて。
今度は詠唱する前に十秒間、目を瞑ってファイヤーボールを一回り大きく想像してから試してみて」
シーラは良く分からないながらも、ゆっくり深呼吸をしてから火魔法を唱えた。
「大地の神に我が言葉よ届け。
火の精霊よ、我が願いを叶えてくれ。
火玉」
シーラが詠唱すると右手に火の玉が浮かび、別の岩に飛んで行った。
グワァーン!
火の玉が岩を焦がし、表面を削る。
さっきよりも少し火の玉が大きくなった。
シーラが息を切らしている。
「さっきとの違いが分かる?」
「はぁはぁ、違いは分からないけど、さっきよりも火の玉ができたときに身体の力がスウッと抜けた」
「それがシーラの魔力だよ。
魔力が魔法に変わるとき、その分の魔力が持っていかれるんだ」
「今のが?」
「あぁ、そうだよ。
魔力を溜めて魔法に変える練習をするともっと魔法の力が強くなる。
次は両手でやってみよう」
「両手って?」
「両手を身体の前に出して、そこに魔力を溜めるんだ。
シーラならその感覚が分かる筈だ」
「両手を出して、魔力を?」
「そう。最初は両手を器のようにして、そこに魔力を溜めるんだ。
身体の隅々から集めてそこに集中するんだ」
「身体の隅々から、魔力を両手の器に……」
シーラが呟きながら集中する。
「大地の神に我が言葉よ届け。
火の精霊よ、我が願いを叶えてくれ」
掌に朧げな炎が出来上がる。
「火玉」
!
先程よりも一回り大きな火の玉が岩に飛んだ。




