第六十九話 条件
「それで?
この洞窟から移住したんだろう?
何故、また戻る必要があるんだ?
この宝石にしたって長が持っていたというだけだろ。何故、取り戻す必要がある?」
トゥーファンが赤兎に問い質した。
暫く見つめ合っていたが、やがて赤兎が折れた。
「移住と言っても巣穴がある訳ではなく、森の中で次の巣穴に相応しい場所を探しているところだ。
そして、そのカーバンクルがなければ巣穴を守ることができない」
やっぱり、カーバンクルが鍵だった。
そうじゃなきゃ、ワザワザ背後から姿を現さないよね。
「そうだろうと思ったが、このカーバンクルの力を教えてもらおうか?」
「それは……」
「ダメですっ!セフェウス様!」
赤兎が話そうとしたところを今度は白兎サーラが遮った。
「いや、これはこちらからお願いしていることだ。
伝えなければ話は進まないんだ」
「しかし……」
白兎サーラは納得していないが、赤兎セフェウスは踏ん切ったようだ。
「……我ら兎人の一族にはしきたりがある。
一族の長が柘榴石のカーバンクル、エラキースを継承する。というものだ。
我らはそうして一族を守ってきた。
カーバンクル、エラキースには強い魔力がある。
その力で長が一族を守る。
先代の長、クラースは土竜に結界を破られこの洞窟で亡くなった。
その際にエラキースを身につけたまま亡くなりそのまま土竜に奪われたから、今の一族には自らを守る力がない。
これまで半年の間に何度も奪還部隊がこの洞窟に入ったが、土竜を倒すことはできず、犠牲を増やした。
一族の戦士が負傷し外敵と戦えないようになった。危険の多い森の中の生活では魔物に襲われたりして、一族は今とても危険な状況だ。
それこそ存亡の危機にあると言っても過言ではない。
私は次の長エライズの息子セフェウスだ。
私がそのエラキースを持ち帰れば、父エライズは正式に長になる。
一族のためにこの洞窟とその柘榴石のカーバンクルを譲って欲しい。
お礼、報酬はできる限りのものを用意する」
赤兎セフェウスの話が終わった。
これだけ魔素の強い島だ。魔法が使えても敵わない魔物も多いだろう。
安全な住まいとして地下を選んだのも良く分かる。
だけど、この洞窟とカーバンクル、エラキースだけで解決するのだろうか?
「話は分かった。
しかし、ちょっと甘いんじゃないか?
一つはどれだけの報酬が用意できるか?
もう一つは本当に守れるか?
力がなければ、本当に滅ぶぞ」
赤兎セフェウスと白兎サーラが神妙に聞いている。
桃兎シーラは今にもトゥーファンの手からカーバンクルを奪いたそうだ。
「そうだな。
条件を出そう、それができればこの洞窟もカーバンクルもお前たちの物だ」
「それは本当か?」
「嘘をつくメリットが思い浮かばんな」
「どんな条件か聞かせてくれ」
「五日以内にこの洞窟の入口近くの一部屋を食料で一杯にすること、それがオレたちへの報酬だ。
食料で満たすことができなければカーバンクルを諦めろ。オレたちは洞窟の奥に居るが、五日以内に連絡がなければ条件未達としてこの洞窟は二人で使わせてもらう」
「入口の側の小部屋でいいのか?」
「あぁ、どの部屋でもいい。
但し、五日以内に一杯にできなければ諦めろ。
それは滅びの運命だ」
「分かった。
その条件で受ける。
必ずこの洞窟とエラキースを頂く」
「そうか。
なら、準備に必要だろうから、この黄色と銀色の二人、そして長の証のカーバンクルを持って行け」
トゥーファンが柘榴石のカーバンクル、エラキースを放り投げた。
赤兎セフェウスが慌ててカーバンクルをキャッチする。
そして黄兎と銀兎を閉じ込めていた土砂創箱を崩す。
中にいた二人が砂まみれになって転がり出てきた。
二人はすぐに戦闘態勢を取ろうとしたが、セフェウスとサーラによってその場での行動をやめた。
「そのカーバンクルも使って頑張った方がいいぞ。
天候や邪魔など何があるか分からんからな」
「有難い忠告だが、五日後にはしっかりと条件を満たして見せよう。
楽しみに待っていてくれ」
赤兎セフェウスは気が逸っているようだ。
僕たちを置いて早々に引き上げて行った。
あれで大丈夫かな?
「すまないな、シオン。勝手に進めてしまった」
「いや、別にこの洞窟やあの宝石はいらないから好きにやってくれていいよ。
でも、あの兎人たちはあの石だけで解決すると思ってるのかな?」
交渉中からの僕の疑問をトゥーファンにぶつけてみた。
「あの宝石とこの洞窟だけでは早々に困ることになるだろうな」
「やっぱりそうだよね。
石があっても使いこなせないと、力にはならないよね」
「だから、五日間で必死になってもらうさ」
そう言ってトゥーファンは条件のための課題を教えてくれた。
ーー翌日。
朝から兎人たちが洞窟に出入りしだした。
入口近くの小部屋に野草や茸などを積んでいく。
二十人ほどの兎人は五人が小部屋の整理係のようだ。残りは運搬係。
他の者は狩りや採取など役割を分けたのだろう。
暫くみていると、赤兎セフェウスと白兎サーラ、桃兎シーラがやって来た。
「昨日はすまない。
色々と気が動転していたようで、名前すら聞いていなかった。
私はセフェウス。父のエライズは今夜、長を継承する。
必ず五日間でこの小部屋を一杯にする。
このサーラとシーラがこの洞窟で食料を管理するので、何かあれば私たち三人に声をかけて欲しい。
改めて名前を教えてもらえないだろうか?」
セフェウスはやる気満々で元気な顔を見せた。
でも、トゥーファンが用意するミッションはそんなに簡単じゃないんだ……。
「オレはトゥーファン。
こっちはシオンだ」
トゥーファンが自分の名と僕の名を伝えた。
セフェウスが目を合わせて礼を返してきた。
サーラとシーラもそれに続く。
「やる気があるのはいいのだが少し勘違いをしてるようなので、改めて条件について説明したいがいいだろうか?」
名前を聞き、これから親交を深めようとするセフェウスたち三人だったけど、トゥーファンの言葉に怪訝な表情を浮かべた。
「……どういうことだ?」
人懐っこい顔を強張らせてセフェウスが聞いてきた。
「オレが出した条件は五日間でこの小部屋を食料で満たし、奥に居るオレたちに伝えに来ること。
小部屋を食料で満たすのはお前たちが森の中で生きて行けることを証明するためだ。
まぁ、これはいいだろう。
次に、食料が貯まったらオレたちに伝えにくることだが、この洞窟を取り返す、或いは守り抜く力を見せてもらう。
長のエライズ、それからセフェウス、この前の黄色と銀色も必死にならなければ難しいだろうな。
サーラとシーラは経験者だから、オレの罠について教えてもらうといい。
下手をすると食料は集まったけど、オレたちに会えませんでした。って結末が待ってるぞ」
「どういうことだ?」
セフェウスは意味が分からないみたいだ。サーラとシーラの方を見やった。
サーラとシーラは僕たちの草原の家を思い出して、身構えた。
「まぁ、このままじゃ分からないだろ。
見せてやるからこっちへ来い」
サーラとシーラが警戒する中、五人で小部屋を出ると、奥に続く通路を歩き始めた。
「この辺でいいかな」
「創土壁」
トゥーファンは通路の途中で止まると、通路を塞ぐように目の前に土壁を作った。
これではただの行き止まりだ。
「また、魔物が襲ってきて、そいつが土魔法を乱発したらこんな風になるよな」
トゥーファンが土壁を指差しながら説明する。
「取り戻すには力が必要だよな」
「土砕破」
「こうやって壁を壊さないと先に進めない」
そう言って三人の兎人を眺めた。
「オレの用意する罠を攻略して、奥に居るオレたちのところに来てもらう。
五日後に会えなければ条件未達だからな。
分かりやすいだろ」
「いや、それは条件になるのか?」
セフェウスは安易に考えているようだ。
「そうだな。
オレの罠を解除しなければ、この洞窟には住めない、と言えば分かるかな?」
トゥーファンの言葉に反応したのは桃兎のシーラだった。
「くっ。私が必ず解除してやる。
甘く見るなよ!」
「頑張ってくれ。
せっかく罠を作っても引っかかる相手が居なくては可愛そうだからな」
そう言ってトゥーファンは洞窟の奥に進んだ。
僕もその後に続く。
「創土壁」
通路が再び土壁で塞がれた。




